その4-02
「英語はどうだった?」
「英語は、まあまあ、かな。廉にも教えてもらってるし。でも、数学がなぁ……。なんで、俺って数学に弱いのかな。化学も生物もすごいイケたのに」
「得意、不得意があるだろうさ」
「そうだけどさ……。男って、結構、数学系が強いはずなのにな」
「それも、人によりけりだろうよ」
「そうだけどさ……」
益々、落ち込んでいきそうな自分に、龍之介はそこでちょっと長い息を吐き出して、気分一転するように、空を見上げていた。
「さあ、勉強するかなっ! やるぞー」
「その調子」
学校前から出ている電車に乗って、廉と龍之介はドア側で立っていた。
下校時間は生徒達が乗り込むので、電車も満員状態に近い。早めに席を取っている生徒で、椅子は埋もれかえっている。都心に出るまでは大抵立っていることが多かった。
「そう言えばさ、俺さ……見たんだ」
「見た? なにを?」
「柴岬」
「あの――女の子?」
「そう。2~3日前だったか、塾の帰りにチラッと見かけて……」
その口調がやけに神妙で、珍しく龍之介が顔をしかめている様子なので、廉も不思議にその話に乗ってきた。
「それが問題?」
「問題――じゃあないと思うけど……、でも……」
「塾の帰りって、どのくらい?」
「終わったのは9時半過ぎだから、それから家に向かう途中だったから…10時過ぎかなぁ」
「それどこ?」
「渋谷の裏通りを横切ってる時だったんだ。それでさ――チラッと見た感じでは柴岬だったように見えたんだけど……」
さっきから、龍之介にしては珍しく語調があやふやに濁っている。
「あの女の子じゃなかった?」
「いや――やっぱり、柴岬だったんだけどさ……」
「どうしたんだい? 龍ちゃんらしくないな。なにか問題があったんなら、話してみればいい」
うーん、とまだ躊躇っているのか、考えている様子だった龍之介はちらっと周囲を見渡して、それから廉に近づくようにその顔をちょっと寄せてきた。
「あのさ……、柴岬かなって思ったんだけど、格好が違ってて最初はさ、気がつかなかったんだ。でも、あの背が高いから――ちょっと振り返ったら、やっぱり柴岬だったんだ。すごい……化粧して、別人みたいに見えたけど」
「女の子はお化粧をすると変わるから」
「そうだよな。それで、最初は気がつかなかったけど、そこでさ――あいつ、危ないことしてるんじゃないかな……」
「危ないこと?」
その話の先は予想していなかったらしく、廉も少々声を落としてそれを聞き返していた。
「危ないこと? どんな?」
「どんな――って言われても、もしかしたら違うかもしれないんだけどさ……。――でも、なんかぁ……あれって、よくないことしてるような気がするんだ……」
「何を見たんだい? あの女の子が悪いことでもしてたのを、目撃したとか?」
「そういう……んじゃ、ないけどさ――。でも、なんか……ダメだと、思うんだ。俺はああいう奴らは避けてる方だけど、でも、ああいう奴らに関わるのはやめた方がいい」
「ああいう奴? どんな奴?」
龍之介はちらっと廉の顔を見上げ、少し顔をしかめたような表情をしてみせた。
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