その7-04
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淡々とそれを言う廉に、ケードが皮肉げに口を曲げていく。
『俺をただの弁護士だと思って、甘く見ない方がいいぞ。俺も、アイラの友人さんとやらに、手を上げたくはないんでね。まあ、強硬手段が必要なら、俺もそれをするまでだが』
『そうですか。それなら、仕方ありませんね――』
シュッ――と、廉が素早くその腕を振り上げ、ケードが反射的に身構えた。
『ごめん、アイラ』
『――あっ――!』
ケードに殴りつけてくるだろうと判断していたケードの前で、廉が、後ろのアイラの首根を殴りつけ、アイラがそのまま崩れ落ちた。
サッと、廉が腕を伸ばして落ちていくアイラを抱き留める。
『お前っ――!』
『アイラも疲れが出てるので、今日は、休ませないといけないもので』
それを言いながら、スッと、アイラを抱き上げた廉を見やりながら、ケードは、一瞬だけ、唖然としたような表情をみせていた。
『アイラの身内の人でしょうが、アイラに手を貸すんですか? それとも、このまま、カイリに送りつけるんですか?』
ケードは口を曲げたまま、少し考えるようにして、
『――アイラを抱えたまま、俺を殴り飛ばせるのか?』
『他の方法もありますから』
『お前ら、一体、何をしてる? あの血痕は、アイラのだろうが』
『そうですね。だから、アイラは絶対に賛成しないでしょうが、俺は、ここは引くべきだと考えています。状況は――少々、予想を外れてしまったので。ここに――長くいるのも、あまり好ましい状況ではないんじゃないかと』
ケードは難しい顔をみせ、腕を組んでいた。
『――待ち合わせの友人とやらは、どこなんだ?』
『ツアーバスに乗せています』
『それは?』
『2時過ぎにバス停に戻ってくるので、迎えに行かないといけないもので』
ケードは、スッと、自分の腕時計に目をやり、
『1時半か。だったら、アイラは俺が預かる。お前は、その友人とやらを迎えに行けばいい』
『残念ながら、それはできません。俺は、あなたを信用していないので』
躊躇いもなく、それを淡々と言ってのける廉に、ケードは嫌そうな笑みを口に浮かべていた。
『だったら、アイラを抱えたまま、その友人とやらを迎えに行くのか?』
『俺の両手は塞がっているので、時間に拘束されない、ボスの人が迎えに行ってくれたら、丁度いいんですけどね』
いけしゃあしゃあと、ケードにそんな雑用をさせるようである。
『俺は、その友人とやらを知らないんでね』
『知っていますよ。去年も会ったでしょう? もう一人の日本人です。バス停は、メインのキオスク前にあります。――では、よろしくお願いしますね』
それだけを言いつけて、廉はアイラを抱えたまま、スッと、動き出していた。
『俺は、お前達の泊まってる場所を知らないが?』
『もう一人の友人が知っています。そこで、待っていますので。――では、失礼します』
ケードに口を挟む機会も与えず、廉がさっさと一人でその場から去って行ってしまうので、そこに残されたケードは、かなり口を歪めながら、ふう、と嫌そうに溜め息をこぼしていた。
* * *
『よう、リュウチャン』
半日観光のバスから降りてくると、龍之介に気軽に声を駆けて来た人がいた。
顔を上げてその人を確認してみると、黒い背広を着こみ、膝丈ほどの長いロングコートを簡単に羽織っている男性がその場にいた。
じーっと、その顔を見返しながら、見かけたことがあるような顔つきに、龍之介も考えてもしまう。
『俺はケード』
「あっ、ケードさん?! ――あっ……、お久しぶりです」
ロスに住んでいるという、アイラの従兄ではないか。
“柴岬一族家系図”のメモを読み返しながら、龍之介も確認していた名前だ。
条件反射で、龍之介がペコっとケードに向かってお辞儀をした。
さすが、日本人。どこでも、礼儀正しくて、ケードも少し笑ってしまう。
『久しぶりだな。元気だったか?』
龍之介の為に、ケードはかなりゆっくりとした英語で話してくれているようだった。
『あっ……えーと……。はい……、俺は、元気です』
中学の時にならった、
「I’m fine. Thank you」
この常套句は、やはり、どこでも使えるものだ。
「こんな所で会うのは偶然ですね」
「お久しぶりです。元気でしたか?」
「なぜ、こんな所で? ケードさんも、ラスベガスで――観光? いえ、カジノですか?」
なんて、質問したいことは、すぐに、たくさん、頭に浮かんでくる。
そのどれも全て、龍之介は英語で会話する術がない。センテンスも分らない。
それで、うーんと、真剣になって悩んでしまった龍之介を見下ろしながら、一体、何に悩み始めたのか、さっぱり分からないケードだ。
『リュウチャン、観光はどうだった?』
「Tour」の単語は理解ができた。
「あっ……、面白かったです」
いえいえ……。それで、すぐに、大きく手を振って、否定する龍之介だ。
「Great……です」
説明が簡単にできない自分が悲しいなぁ……。
『アイラとレンに会った』
一語、一語を区切って、ゆっくりと喋ってくれたケードのおかげで、今の意味は簡単に分かった龍之介だ。
「会ったんですか?」
『そう』
『えーと……どうして、ケードさんは、ここに……?』
英語で話しても、ちゃんと、礼儀正しく“さん”付けされて、ケードが可笑しそうに笑う。
『リュウチャンを迎えに来た。ホテルに帰るんだろう?』
『あっ……、そうです。はい、ホテルに……』
ここで、なぜ、ケードがこの場にいて、アイラと廉と会ったのに、なぜ、あの二人が龍之介の迎えに来ていないのか、未だに、きちんと、そこら辺の事情を理解していない龍之介だ。
そして、その人を疑わない素直な目を向けて、顔を向けて、ケードを見上げている。
『ホテルはどこだ?』
『ホテル……? あっ、えーと……』
それで、龍之介は迷子になってもいいようにと、ホテルのパンフレットをバッグにしまいこんである。
ついでに、いつでも、住所を出せれるようにと、ホテルの名前と住所を、携帯電話のメモにも打ち込んでおいたのだ。
迷子対策に。
英語が話せなくても、ホテルの住所を見せれば、警察官に拾われたって、簡単に助けてくれたことだろう。
ゴソゴソとジーンズを漁り、龍之介が携帯に残しておいたメモをケードに見せるようにした。
ケードが顔を近づけて、携帯電話のメモを読んでみる。
それで、自分の携帯電話で場所を確認しているようだった。
読んでいただきありがとうございました。
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