その7-01
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『アル、アップデートがあるって?』
ザワザワと、喧騒と混雑で溢れた警察署の入り口で、ケードの前には、ケードと同年代に近い男性が寄って来た。
一応、スーツのズボンは履いているが、スーツの上着の代わりに、温かそうなグレーのセーターを着こみ、襟からは、少しだけ中のYシャツとネクタイが覗いていた。
『アップデートっていうほどじゃないが、まあ、あんたには、興味のある話かもな』
ロサンゼルス警察では、ケードも顔が知れているし、そこで働いている警察官や、捜査官とも顔見知りが多い。
ケードは犯罪専門の弁護士である。だから、ケース(事件)によっては、(大抵)警察側と反対の位置でクライアントを擁護する仕事が多い。
だからと言って、ケード自身が警察側から嫌がられているとか、その程度の摩擦が多いわけではない。
必要な時は、捜査を終える為に、情報の提供をし合ったりすることもある。
ケードの前にやって来たアルは、年代的にもケードに近く、よく顔を合わせる刑事の一人だった。
今回は、ケードが担当している仕事と、アルの担当している仕事が重なっている為、今は、ただ、公表されている、もしくは、公表できる事件情報の提供や共有は、ケードもアルから聞くことができるのだ。
『あぁ……、疲れたなあ。ここ2~3日、外出が多くてねえ』
上手いコーヒーの催促である。
まあ、情報を提供してもらうから、仕方なく、ケードもその話に乗ってやる。
『じゃあ、移動しよう。いつもの店でいいのか?』
『ドーナツもつけて』
『俺にとって有益な情報なら、ドーナツも2倍で』
『いいだろう』
さて、2倍分のドーナツがあたるだけの価値がある情報なのかどうか、興味がある。
警察署を後にして、二人で近隣のコーヒーショップに移って行く。
そのお店では、警察官も多く立ち寄るので、軽食やスナックが豊富で人気がある。もちろん、アメリカの警察官に好まれるドーナツだって、なかなかの種類があり、人気の品物の一つだ。
店内には、結構な数の客がテーブルについていたり、レジ側のガラスケースの前で待っている客もたくさんいる。
ウェートレスにテーブルを頼み、ケードとアルは席についていた。
『ラテのラージ(L)が一つ。エスプレッソのダブルが一つ』
そして、簡単に、自分の食べたいドーナツを羅列していく。
それも、すでに、4個になっている。
ケードは何も言わず、ただ、肩眉を上げてみせただけだ。
にかっと、アルは悪気もなく、ケードに無邪気な笑みを見せて来る。
『エスプレッソは眠気覚まし。ラテは、ドーナツ用』
『まだ、2倍のドーナツかどうかは、同意していないが?』
『2倍は、俺の話の後で判断すればいい』
ドーナツを4つも頼んでおいて、それが、一回目のオーダーなど、ちょっと頼み過ぎではないだろうか。
それで、ケードは目線だけで話の先を促す。
ちろっと、アルの視線が周囲に動き、周囲を確認し、それで、ケードの元に戻って来る。
アルは人当たり良さそうな雰囲気をしていようが、刑事だけに隙もなく、その眼差しは、すぐに一般市民ではないと気づかせてしまうような気配も、色も、映し出されている。
『昨夜、ベガスのあるカジノで発砲事件があった』
そして、昨夜は、ケードだってラスベガスのカジノにいた。
だが、あの後、拾った女性とは別れ(一夜を共にせず)、ケードはロサンゼルスに戻って来ていたのだ。
『それで?』
『事件現場で、銃痕が残っていた。その銃弾と使用された銃のタイプが、トンプソンのケースと一致しているらしい』
ほう、とケードが意味深に瞳を細めて行く。
『なら、クライアントの殺人罪は当てはまらないな』
『まだだ』
ケードが請け負っている仕事のクライアントに殺人罪がかかっていようが、違う事件現場で採集された証拠が同じ銃を使用していたとしても、最初の殺人罪が消えたわけではない。
銃を捨てた場所から誰かが拾い上げて、違う事件にしようした、とでも言える。
同じ人物が二つの事件を起こした繋がりだって、証明されていない。
そんなことは百も承知で、ケードは、ただ、警察側に揺さぶりをかけてみただけだ。
『それで? 今の情報では、ドーナツの2倍はないな』
いずれ公表される情報だとしたら、ケードが急いでアルから聞き出す情報でもない。
『血痕も残されていた。発砲事件で目撃されている人物がいる。今は、その洗い出しだ』
『血痕からの DNA 反応は?』
『特に、犯罪履歴はない。ただの通行人だったのか、それとも、狙われていた人物だったのか、それも確認中だ』
『目撃された人物とは?』
『男と女が一人ずつらしいが。赤いドレスを着た若い女に、アジア系の男だ』
へえ、とケードは表情も変えずに、アルの話を聞いている。
だが、あまりに――記憶に新しく、見覚えのある内容だけに、ケードも態度には出さずに、かなり警戒を見せていた。
『もし、トンプソンのケースに関連がなかった場合、別事件として扱われるだろうな。ロス警察も、ベガス警察の報告待ちになる』
『そうだろうな』
『もし――関連があった場合?』
『当然、両方の線から探るだろ?』
それは、警察の仕事としては初歩の初歩だ。手がかりがあるのなら、徹底的に調べ上げるまで。
『じゃあ、今からベガスに?』
『今日じゃない。今は、血痕から採れたDNA の確認中だ。ベガス警察の方で、目撃された人物を洗い始めるそうだからな』
『その情報は、俺も興味があるな』
『それは、その時の状況次第』
だから、ケードに情報提供してやるかやらないかは、今すぐ約束しないアルだ。
だが、互いに互いを牽制したり、腹の探り合いをしたりするのはいつものことだ。
『ドーナツ2倍分でいいだろう』
『さすが、カウンセラー・マクラーレン(Lawyer のこと。米語では、法廷弁護士という意味で使用される)』
『まあ、また新たな情報が入れば、知らせてくれ。裁判まで一月はあるが、一月だけしかない』
今すぐに、犯人を捕まえて、ケードのクライアントの罪が帳消しになるか、それとも、次の一月で証明できなければ、裁判でもまだ不利な状況が続くだけだ。
『警察も、できる限りの捜査はしている』
『知ってるよ』
だから、ケードは警察側の捜査が足りていないと責めているのでもない。
ただ、ケード側だって、指を加えて大人しく見物している、と言う状況もでもないだけだ。
コーヒーを飲み終わり、アルは(胸焼けしそうな)8個ものドーナツを簡単に平らげて、二人は店を後にしていた。
読んでいただきありがとうございました。
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