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やっぱりやらねば  作者: Anastasia
Part3-アメリカ編
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その6-05

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 ファーストエイドを用意するだけではなく、最初から、ドレスを切り込む予定でカッターまで買ってきて、それで文句を言うアイラを承知しているから、その後のTシャツまで、用意しているのである。


『でも――君の洋服のセンスには――少し、外れているだろうけど』

『どういう意味? まさか、ど最低なTシャツなんか、買って来たんじゃないでしょうね』


『ただ――ラスベガスのホテルの絵柄があって、後ろも絵柄があるやつだよ』

観光用の、あの派手な――ダサい――Tシャツなのである。


 それを聞いて、アイラは遠い目をして、無言状態だった。


 まさか、アイラの意思とは反しているとは言え、このアイラが、あのダサい派手な観光用のTシャツを着る羽目になるとは、一体、誰が想像しただろうか。


 ラスベガスのホテルが立ち並び、ホテルのライトがキラキラと反射して、



“ハッピーカジノ!”



 ドーンと、でかいロゴが入ってるやつではないのだろうか。


 それを聞いただけで、アイラは一気に脱力していた。


『肩だし用のブラでも、こんなにセクシーのがあるんだ』

『どこ見てるのよ。ジロジロ見ないでよ』


『まあ、傷の手当てをした特権かな』

『ジロジロ見ないでよ、変態』


『君は出会った時から、そればかり繰り返すんだな』

『変態は変態じゃない。ジロジロ見ないでよ』


『傷の手当てのお礼は、されてないような?』

『タダで下着まで見てるんだから、それで十分じゃない』


 そこまでを言って、ふと、アイラが何かを思いついたのか、首だけを回し、アイラが廉を振り返った。

 その瞳が妖しげに輝いていて、口元が薄く上がっていく。


『でも、パンティーもお揃いなのよ。紐だけだけど。レンが、無理矢理、引っ張るから、取れちゃったかも』


『それで、俺に押し倒されたいわけ?』

『へえぇ、傷した女を押し倒すんだぁ。最低ぃ。動けないと判ってるから、押し倒すなんて、()えげつないわよねぇ』


『それで、わざわざ誘い込む方も、どうかしてると思うけど?』

『そう? だって、私がドレスを破いたんじゃないしぃ。レンが、無理矢理、ドレスを(はが)すから、アイラ、悲しいぃ。こんなに乱暴されたの初めてで、ショック受けちゃった』


 アイラが腕を立てるようにして、少しずつ起き上がりだし、ゆっくりと向きを変えて座りなおしていく。


 その動きで、アイラの裂かれたドレスがゆっくりと落ちて行き、それを押さえる様子もないアイラの前見ごろが、白くさらけ出されていく。


 廉の視線がその落ちていくドレスの動きを追っていき、それで、その視線がアイラの顔に戻ってきた。


 嫌そうに顔をしかめて、

『それでまた、そうやって、俺を誘惑するんだな、アイラは。全く、君も懲りないな。それ、いい加減、やめないのか?』


『レン()()()ワイルドだから、アイラ、すごいショックぅ。怪我してるのに、レン()()()ったら、押し倒すしぃ』


 廉は長い溜め息をこぼし、Tシャツをアイラの顔に押し付けるようにした。

 そして、手を伸ばし、パチっと、車内のライトを消すようにする。


『俺に押し倒されなくて、ラッキーだったと思うんだな』

『押し倒すのぉ、レン()()()? ひどーい』


 廉がそうしないと判っていて、アイラはまだわざとに廉を刺激する。

 うんざり――と言った様子で、廉は、更に、そのTシャツをアイラの顔に押し付けていた。


『さっさと着替えるんだ。龍ちゃんも、ホテルで待ってるから』

『無事なの?』


『もちろんだよ。俺と別れた時に、ホテルに戻るように言っておいたから』

『あっ、そう』


 コロッと態度が変わったアイラは、Tシャツを頭からスッポリと被り、袖に腕を通していった。


 それを見て、廉が車のエンジンをスタートしだした。


『お腹空いた』


 車が動き出して、自分の椅子のシートもきちんと起き上がらせたアイラが、まず、それを一番に口にした。


『まあ、それは仕方がないかも』

『ホテルに、なにかあったっけ?』


『ないよ』

『だったら、おやつ買ってよ。お腹空いた』


『また、お腹痛くなるだろ?』

『いいじゃない。お腹空いてるんだから。お腹空いたままじゃ、眠れないわ』


『それでお腹が痛くなって、また眠れなくなるだろう? 今夜は仕方がないから、ジュース程度で終わらせておくべきだな。その傷のこともあるし、眠って、きちんと体を休めた方がいい』


 傷の手当てまでしてもらい、今夜だけで、かなりの借りを廉に作ってしまったアイラは口を尖らせているが、廉に、無理矢理、説得されたような感じで、その話題は締めくくられてしまった。


『あの男達――何者なんだ』


 廉は、真っ直ぐ前を向いて、運転をしている。


 アイラはちょっと後ろに頭を寄せるようにしながら、


『さあね』

『拳銃まで持ち歩いているようだし――どう見ても、ギャングまがいの悪党にしか見えなかったけど』


『ヤスキのやつ、まだ何か隠してるのかも。帰ったら、タダじゃ済まないんだから。ヒトの柔肌に傷つけておいて、タダで帰れると思う方が、間違ってるわ』


『まあ、柔肌は当たってるけど。でも、あっちの深追いは、しない方がいいと思う』

『うるさいわね。ヤスキを問い詰めて、あの男達だって、タダじゃ済まされないわよ』


 絶対に許す気なしのアイラは、その瞳の強さから判断しても、あの男達に復讐するのが当然のように、その気配が明らかだった。


 廉が運転しながら、横のアイラの気配に、また一人、静かに溜め息をこぼしていたのだった。



読んでいただきありがとうございました。

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大人になってもはちゃめちゃ恋愛物語『やっぱりやらねば(続)』は大人の恋愛編です。
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別作品で、“王道”外れた異世界転生物語も、どうぞよろしくお願いいたします。
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