その6-05
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ファーストエイドを用意するだけではなく、最初から、ドレスを切り込む予定でカッターまで買ってきて、それで文句を言うアイラを承知しているから、その後のTシャツまで、用意しているのである。
『でも――君の洋服のセンスには――少し、外れているだろうけど』
『どういう意味? まさか、ど最低なTシャツなんか、買って来たんじゃないでしょうね』
『ただ――ラスベガスのホテルの絵柄があって、後ろも絵柄があるやつだよ』
観光用の、あの派手な――ダサい――Tシャツなのである。
それを聞いて、アイラは遠い目をして、無言状態だった。
まさか、アイラの意思とは反しているとは言え、このアイラが、あのダサい派手な観光用のTシャツを着る羽目になるとは、一体、誰が想像しただろうか。
ラスベガスのホテルが立ち並び、ホテルのライトがキラキラと反射して、
“ハッピーカジノ!”
ドーンと、でかいロゴが入ってるやつではないのだろうか。
それを聞いただけで、アイラは一気に脱力していた。
『肩だし用のブラでも、こんなにセクシーのがあるんだ』
『どこ見てるのよ。ジロジロ見ないでよ』
『まあ、傷の手当てをした特権かな』
『ジロジロ見ないでよ、変態』
『君は出会った時から、そればかり繰り返すんだな』
『変態は変態じゃない。ジロジロ見ないでよ』
『傷の手当てのお礼は、されてないような?』
『タダで下着まで見てるんだから、それで十分じゃない』
そこまでを言って、ふと、アイラが何かを思いついたのか、首だけを回し、アイラが廉を振り返った。
その瞳が妖しげに輝いていて、口元が薄く上がっていく。
『でも、パンティーもお揃いなのよ。紐だけだけど。レンが、無理矢理、引っ張るから、取れちゃったかも』
『それで、俺に押し倒されたいわけ?』
『へえぇ、傷した女を押し倒すんだぁ。最低ぃ。動けないと判ってるから、押し倒すなんて、超えげつないわよねぇ』
『それで、わざわざ誘い込む方も、どうかしてると思うけど?』
『そう? だって、私がドレスを破いたんじゃないしぃ。レンが、無理矢理、ドレスを剥すから、アイラ、悲しいぃ。こんなに乱暴されたの初めてで、ショック受けちゃった』
アイラが腕を立てるようにして、少しずつ起き上がりだし、ゆっくりと向きを変えて座りなおしていく。
その動きで、アイラの裂かれたドレスがゆっくりと落ちて行き、それを押さえる様子もないアイラの前見ごろが、白くさらけ出されていく。
廉の視線がその落ちていくドレスの動きを追っていき、それで、その視線がアイラの顔に戻ってきた。
嫌そうに顔をしかめて、
『それでまた、そうやって、俺を誘惑するんだな、アイラは。全く、君も懲りないな。それ、いい加減、やめないのか?』
『レンちゃんワイルドだから、アイラ、すごいショックぅ。怪我してるのに、レンちゃんったら、押し倒すしぃ』
廉は長い溜め息をこぼし、Tシャツをアイラの顔に押し付けるようにした。
そして、手を伸ばし、パチっと、車内のライトを消すようにする。
『俺に押し倒されなくて、ラッキーだったと思うんだな』
『押し倒すのぉ、レンちゃん? ひどーい』
廉がそうしないと判っていて、アイラはまだわざとに廉を刺激する。
うんざり――と言った様子で、廉は、更に、そのTシャツをアイラの顔に押し付けていた。
『さっさと着替えるんだ。龍ちゃんも、ホテルで待ってるから』
『無事なの?』
『もちろんだよ。俺と別れた時に、ホテルに戻るように言っておいたから』
『あっ、そう』
コロッと態度が変わったアイラは、Tシャツを頭からスッポリと被り、袖に腕を通していった。
それを見て、廉が車のエンジンをスタートしだした。
『お腹空いた』
車が動き出して、自分の椅子のシートもきちんと起き上がらせたアイラが、まず、それを一番に口にした。
『まあ、それは仕方がないかも』
『ホテルに、なにかあったっけ?』
『ないよ』
『だったら、おやつ買ってよ。お腹空いた』
『また、お腹痛くなるだろ?』
『いいじゃない。お腹空いてるんだから。お腹空いたままじゃ、眠れないわ』
『それでお腹が痛くなって、また眠れなくなるだろう? 今夜は仕方がないから、ジュース程度で終わらせておくべきだな。その傷のこともあるし、眠って、きちんと体を休めた方がいい』
傷の手当てまでしてもらい、今夜だけで、かなりの借りを廉に作ってしまったアイラは口を尖らせているが、廉に、無理矢理、説得されたような感じで、その話題は締めくくられてしまった。
『あの男達――何者なんだ』
廉は、真っ直ぐ前を向いて、運転をしている。
アイラはちょっと後ろに頭を寄せるようにしながら、
『さあね』
『拳銃まで持ち歩いているようだし――どう見ても、ギャングまがいの悪党にしか見えなかったけど』
『ヤスキのやつ、まだ何か隠してるのかも。帰ったら、タダじゃ済まないんだから。ヒトの柔肌に傷つけておいて、タダで帰れると思う方が、間違ってるわ』
『まあ、柔肌は当たってるけど。でも、あっちの深追いは、しない方がいいと思う』
『うるさいわね。ヤスキを問い詰めて、あの男達だって、タダじゃ済まされないわよ』
絶対に許す気なしのアイラは、その瞳の強さから判断しても、あの男達に復讐するのが当然のように、その気配が明らかだった。
廉が運転しながら、横のアイラの気配に、また一人、静かに溜め息をこぼしていたのだった。
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