その6-04
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* * *
『アイラ』
少し肩を押されて、アイラは重たい目を少しだけ開けてみるが、暗がりが広がっているだけである。
サッと、周囲を見渡して、それから、自分の体勢が寝ているようで――うつぶせに近く――その頬に、寝ている床かなにかが当たっていた。
『どのくらい……寝てた、の?』
『1時間ちょっとかな。傷を診ないといけないから、悪いけど、起きてもらった』
『ここ、どこ』
『街から離れた住宅街にお邪魔してる。眠ってる間に傷を診ても良かったんだけど、痛みの反動で起きられても困るんで、仕方なく起こしたんだ。――傷を診るから、脱いで』
アイラはまだ横になっていて、手に触れる感触が車内のシートであることから、車に乗り込んだまでは覚えているが、その後、一気に眠りに陥った為、その後の記憶がないアイラは、まだ自分が車に乗っている状態を、今、改めて理解していた。
『自分で、診るわ』
『アイラ、無理矢理、脱がされたくなかったら、自分で脱ぐんだ』
廉の口調は辛抱強く、アイラに言い聞かせているようだった。
アイラの返事がないので、廉はまた仕方なくちょっと溜め息をつき、アイラの肩にかかっているスーツの上着を、ゆっくりと外していく。
『スケベ』
『文句なら、傷の手当てが終わったら聞いてあげるから、今は静かにしてなさい』
パチっ――と、ライトがつけられて、一瞬、暗がりに明るくなった車内が眩しくて、アイラは瞬きを何度かしていた。
『これ――後ろにチャックがないのに、どうやってこれを着たんだ?』
『くぐるのよ。決まってるじゃない』
なんだか、廉はまた溜め息をちょっとこぼして、ゴソゴソと、持っていた袋の中から、何かを取り出すようにした。
『何するのよ』
なんとなく不穏な気配を察して、アイラが横になったままそれを聞き返す。
『ドレスを切らないと、傷が診れない』
『このドレス高かったのよ。引っ張り下ろせばいいじゃない』
予想された通り、傷の痛みが廻っているであろうはずのアイラは、猛反対で言い返してきた。
『引っ張り下ろして、傷口に布地をすり込んで、更に悪化させるよりはいいと思うけど。それとも、ドレスの方が大事だ、って言ってるのかな』
『そうよ。大事よ。高かったんだから、そのドレス。切り込んだら、ゴミ行きじゃない』
『まあ、それも仕方がない』
全く同情した口調も見られなく、態度も見られなく、アイラが首だけを回して、廉を嫌そうに睨め付ける。
廉は、アイラのピッタリとしたそのドレスの背中の口を引っ張りながら、手に持っているカッターで、それを切り込み始めたのだ。
『それ、何なのよ』
『カッター』
『カッター? ――そんなので、私のドレスを切り込むわけ? 最低ぃ』
『仕方がない』
ジョキ、ジャリ――と、嫌な音だけが響いて、アイラのお気に入りのドレスが切られて行く。
『あぁん、最悪! そのドレス、高かったのに』
『靖樹さんが買ったやつじゃないか』
『そんなの関係ないのよ』
スーッと、背中に冷たい空気が触れ始めて、ピッタリと体を締めていた布が離れていく感触で、アイラの背中がさらけ出されたことが判った。
廉の指が傷口近くに触れ、その辺りを、ゆっくりと廉が確認し始めていた。
『――跡残るの?』
『それは、なんとも』
『なんとも、なによ』
『ちょっと、これは染みるかも』
アイラの返答はせず、消毒液をつけた綿花を、廉が傷口にそっと運んできた。
アイラが微かに引きつるが、アイラは声を出さなかった。
『ねえ――そんなに……こすりつけないでよっ』
アイラが抗議するが、廉は、まだ、綿花をアイラの傷口にこすりつけるようにし、おまけに、その上に、直接、消毒液までも振り掛けるようにした。
ダラダラと、背中に液体が流れていく感触で、アイラは更に顔をしかめてしまう。
『ちょっと、かけ過ぎじゃないの』
『弾傷で怖いのは、銃弾が当たった場所が化膿するんじゃなくて、銃弾が洋服をこすって、そのファイバーが皮膚に残り、化膿し始めるから、弾傷は怖いんだ。この傷――は、幸運なことに、銃弾が残っているんじゃないから、弾傷の周囲をきちんと消毒すれば、ひどいことにはならないかもしれない』
淡々と説明されて、アイラは不満顔。
その間に、廉は背中にしたたり落ちた消毒液を拭き取って行き、ガーゼを傷口にあて、包帯が入っている袋を、器用に片手で開けて行った。
いきなり、グイッと、アイラのお腹から持ち上げられて、何事かとアイラが振り向きかけて――その腰に、クルクルと包帯が巻かれだしていた。
『随分、器用じゃない』
『それは、どうも』
廉の片腕に支えられながら、アイラの腰に包帯が巻かれていって、それが終わると、ゆっくりと、廉がアイラをまたシートに寝かせるようにした。
『これで、たぶん大丈夫だろうと思うけど、痛みが増すようなら、隠さないこと。アイラ、それじゃなきゃ、龍ちゃんの前で、確認するから』
『脅さないでよ』
『今回は仕方がない。龍ちゃんに知られたくなかったら、ちゃんと俺に話してもらう』
アイラは返事をしないので、廉が少しアイラの髪の毛を引っ張るようにした。
『アイラ?』
『わかったわよ』
不満げ一杯に、アイラが嫌そうにそれを言い捨てていた。
『スタンドにTシャツがあったから、それも買って来た』
『それは、親切なことで』
全く、一から十まで抜かりのないことである。
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