その6-03
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『あっ、なにを――!?』
『知らないわよ。問題になんて、巻き込まないでよね。私は全く関係ないんだから』
『やめろ……!』
(せっかく)男を前に押し出したのに、悲壮も露わに、男が向きを変えて、アイラの背中に隠れて来たのだ。
なんて、セコイ男なのだ。
【金を出せ】
【わかった……! わかった……! 金なら、ここにあるっ……。あるから、殺さないでくれっ……】
男は、嫌がるアイラを、無理矢理、掴みこんで、アイラの背中から出てこようとはしない。
手に持っていたアタッシュケースのようなバッグを、思いっきり、男が放り投げていた。
拳銃を向けている男は、そのバッグを拾いにいくこともしない。
【こんな場所で、女遊びか? いいご身分だな】
それで、拳銃を向けている男の冷たい眼差しがアイラに向けられ、それでも、その値踏みしているかのような汚い目線が、アイラの躰を上下に舐め回す。
【上玉だなあ。高く売れそうだ】
【女はくれてやるっ。だから、殺さないでくれっ!】
何を話しているのかは分からないが、後ろから、男が、グイグイと、アイラを前に押し出してくる。
『ちょっとっ! いい加減にしてよっ』
アイラを盾にとって、おまけに、アイラを人質として差し出そうなんて、いい根性だ。
ロクデナシに情け無用!
アイラは太腿に忍ばせていた、小さな(最大級の爆音装置)警報機に、そっと手を伸ばしていく。
【女はくれてやるっ。だから、殺さないでくれっ――!】
アイラが(爆音機)警報機を鳴らすが早いか、男が邪魔をするのか早いか――
ドンッ――と、男がアイラを突き飛ばしていた。
『ちょっと、やめてよ――』
そのまま、男が、ダッと、逃げ出しかける。
【ふざけるなっ! きさまっ――】
ズキュン――!
耳を突き刺すような騒音と共に、アイラが悲鳴を上げていた。
ロクデナシ男がアイラを突き飛ばした間も、腕だけは掴んでいたせいで、アイラは姿勢を崩し――男に向けられて撃たれた拳銃の弾が、アイラの横腹をこすっていったのだ。
『……あぁ……っ……!!』
ドンッ、と勢いのまま、アイラが地面に倒れ込んでいた。
【殺さないでくれ――】
撃たれたアイラを放ったらかしで、中年男がその場を駆け出していく。
【くそっ――!】
『誰かっ! 警察を。こっちで、乱射事件がっ――』
通りの向こうで、叫び声が上がる。
それからすぐに、通りにいた通行人達が騒ぎ出し、『Police――!』と、次々に、叫び声が上がりだした。
くそっ――と、忌々し気に男が吐き出して、拳銃を革ジャンにしまい込んだ男が、中年男が逃げ去った方へと走り去っていった。
『アイラ――』
アイラは地面に半分うつ伏せになったまま、横腹を押さえ込んでいる。
廉が走り込んできて、アイラの隣に膝をついた。
『アイラ』
『やっぱり、レンだったのね……』
あれだけの大声で、叫び声が上がり、通りが騒がしくなっても、聞こえた声は廉の声だと、はっきりとアイラには判っていた。
アイラを起こすように腕に触れたアイラの肌が、凍るように冷たくて、廉が自分の着ている背広を脱ぎ捨てていた。
バサッと、アイラの肩にかけ、アイラの顔を覗き込む。
『アイラ、傷を見せて』
『かすり、傷よ……』
『いいから、見せるんだ』
廉はアイラを無視して、アイラが羽織っている廉のスーツを開くようにして、アイラの腰に手を伸ばしていく。
『やめ――っ!』
廉の手を払いのけようとしたが、無理矢理、引っ張られた反動で傷に障り、アイラが、一瞬、顔をしかめてしまう。
『やめ……』
嫌がるアイラだったが、その言葉にも、いつものような力が入っていない。
廉はスーツをめくるようにして、アイラの腰の後ろを確認するように屈んでいくが、暗がりでは、血糊が確認できる程度で、どれくらいの傷の深さなのか、はっきりと見取ることができなかった。
『病院には、行かないんだろう?』
『行かないわ』
『龍ちゃんには、話す?』
『話さないわよ』
はあ……と、廉は嫌そうに長い溜め息をついて、また姿勢を戻していって、アイラを見返す。
『病院には行かない、龍ちゃんには話さない、でも、アイラ、君は傷の手当てをする必要がある』
『かすり傷よ――』
『かすり傷だろうと、弾傷はしっかりと診ないと、後で化膿し始めたら、大変なことになる。それを判っているはずだ』
廉の口調は怒っているのでもなく、責めているのでもなかったが、それでも、今回はアイラの言うことは聞かない――と、はっきりとした強い口調だった。
アイラは少し嫌そうに顔をしかめるが、今は、言い合いをしている時ではないのだ。
『じゃあ……どうするのよ』
『車で移動するしかないだろう。ガソリンスタンドの店なら、今の時間でも開いているだろうし、ファーストエイド程度のものは、揃っているはずだろうから。一時的にモーテルに入ってもいいけど、あっちの――タチの悪そうな奴らが、アイラのことを探している可能性がある。ホテルやモーテルを通して、傷の手当てはできないだろう。――ホテルまで、歩けれる?』
『車取って来てよ』
『そう言うだろうと思ったけど、今回は、君を一人残すことはできない。傷がどの程度なのかも判らないし、奴らに偶然でも遭遇した場合、一人でいる君は危険だ。だから、俺はアイラをここに残して車を取りに行かないし、言い合いしても、今回は、アイラの言うことを聞かないから、するだけ無駄だよ』
先回りして、アイラの性格を把握している廉は、全く、アイラに口を挟める隙を与えない。
アイラは更に嫌そうに顔をしかめていくが、疲れ切ったように、ズルっと、廉の方に崩れ落ちて行った。
廉がサッと腕を伸ばして、そのアイラを抱きとめる。
『アドレナリンが切れ始めたわ……』
『俺が運ぶと目立つな』
『そうね。肩にかけて、酔っ払った女を運んでるようにすれば、いいじゃない……』
アドレナリンが急激に激減しているのであれば、それに伴った急激な眠気に、アイラは襲われているはずである。
だが、本人の意思がそうさせているのか、一応は、まだ倒れ込まないようだった。
廉に圧し掛かってくる重さが増してきた。
廉は傷口を刺激しないようにアイラの腰に腕を回し、半分、抱き上げるような形で、その夜道を動き出していた――
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