その6-02
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『言っておくけど、変な真似するようなら、すぐに警備員を呼ぶわよ。女の一人歩きなんか、すぐに狙われるんだから。なんにも持ち歩いてないと思ったら、大間違いよ』
今なら、オンラインでも、ちょっとした専門店でも、防犯グッズを簡単に手に入れることができる。
ティアガスの小型版。テーザーガン。それでなければ、鼓膜が破れるほどの警報機。
そんな危ないものを持ち歩いているんだぞ――という迫力と、雰囲気を出して、アイラが男をまだ睨め付けている。
『そんなことしないぞ。誓ってもいい。金をとりに行くだけだ。その後は、なんでも、好きなものを買っていい。なんでも、買ってやるぞ。それに、このホテルの最上階だって、部屋を取ってやる。どうだ?』
今更になって、これだけの超絶美人のアイラに拗ねられて、勝手に帰られてしまったら、今夜のお楽しみが台無しだ。
焦って、男がアイラの腕を必死で掴んでくる。
『なあ? だから、ちょっとだけだ。すぐに、終わる』
『本当なの?』
『ああ、本当だ。それに、なんでも買ってやるんだから、それくらいは、我慢できるだろ?』
それで、(はっきり言って、全く興味もない)アイラはわざとらしく、考慮している様子をみせる。
『好きなものを買ってやるぞ。毛皮でもいい。宝石もいいぞ』
『じゃあ、ドレスは? セクシーなの買ってくれたら、ねえ? 目の前で、ちゃーんと脱いであげるわよ』
それで、男の鼻が膨らみ、鼻息が荒い。
『おお、いいぞ。なんでも、いいぞ。さあ、行こう。こっちだ。時間はかからない』
今度はアイラを離さないように、空いている手で、必死にアイラを掴みながら、男が駐車場に向かって行く。
元々、全く乗り気じゃないアイラは、歩く速度も適当だ。
だから、男が、その度にアイラの腕を引っ張って行く形になる。
後ろで、廉の気配は感じない。
本当に、気配を殺して潜むのが上手い男だ。
男は自分の車の場所にやって来て、ドアの真横に立ったら、やっと、リモートで車の鍵を開けた。
黒いSUVタイプの四輪車で、運転席側のすぐ後ろの席のドアを開けていた。
中に入るのではなく、そのまま屈んで、ゴソゴソとシートを漁っている。
男の体が邪魔になって、男が何をしているのかは、薄暗い駐車場の灯りでは、あまり判断がし難い。
だが、その動きからしても、男は車のシートを半分持ち上げているようだった。
シートを改造して、その中にお金を隠していたのだ。
ゴソゴソと、一体、いくらの大金を隠し持っているのかは知らないが、男は、大急ぎで、札束を持っているアタッシュケースのようなバッグに詰め込んで行く。
それで、一応、ある程度の金額は詰め込んだのか、起き上がった男が、すぐにまた、リモートで車の鍵を閉めていた。
『さあ、これでいい』
『ねえ、寒いんだから、早く、中に入りましょうよ。たくさん買ってくれるんでしょう? それに、最上階のホテルの部屋も』
『ああ、もちろんだぞ』
『それなら、いいわ。ホテルの部屋で、の~んびり、お風呂を使いたいわ。ねえ~、そう思わない?』
『お、おお、いい考えだな』
『そうでしょう?』
うふと、その煽情的な微笑が投げられる。
唇を何度も舐めている男が、また、アイラの腕を取った。
『さあ、行こうっ』
『いいわよ』
また、男に腕を取られて、(仕方なく、嫌々に)アイラはやって来た道を戻りだす。
【見つけたぞっ!】
突然、後ろの方から叫び声が上がり、ビクリっ――と過剰なほどに、男がその場で飛び上がっていた。
【きさまっ、金はどこにあるっ!】
ものすごい勢いで後ろを振り返った男の顔が――一気に、蒼白になっていた。
『なんなのよ、もう』
『こっちだ、来いっ!』
『えっ……? ちょっと、なによっ――』
理由も分らず、いきなり、ものすごい力で男に引っ張られて、アイラは駆け出していた。
男が全速疾走に近いほど必死に、駐車場内を走り込んで、逃げ去っている。
『ちょっとっ、なんなのよ、もうっ!』
『こっちだ。早く』
『私は関係ないじゃないっ』
『追われてるんだっ! 早くっ――』
後ろから、二人を追いかけて来る叫び声が飛び交い、追っ手は一人だけのようではない。
ハイヒールのアイラなのに、よくも、こんな無理な体勢で走らせてくれたものだ。
駐車場で車を停めていた階は地上に近く、非常口から、ものすごい勢いで逃げ去って行く男と一緒に、階段まで駆け降りる羽目になった。
こんな場所で転んでもしたら、大怪我になるではないか!
そのまま非常口からドアを開けて外に飛び込むと、ホテルの裏口側にやって来ていた。
だが、周囲は、きらびやかなネオンが煌々と派手に光っているので、建物の影に隠れた部分は暗がりが広がるが、辺りは全く暗くもない。
アイラを連れて逃げ去って行こうと走り込んでいる男は、表通りに出るのではなく、更に、奥深くの裏通りに走り込む。
遠くから、叫び声が聞こえてくるから、まだ追っては、アイラ達を追いかけてきているはずだ。
【止まれっ!】
走り込んで行く先に、一つの影が現れた。
勢いよく走り込んでいた足が、一気に、止まる。
呼吸が乱れ、肩で激しく息をしている男の顔が、サーっと、蒼白になる。
アイラ達の視界の前に飛び込んで来た――男の手の中に、拳銃が握られていた。
革ジャンを着た、アジア人だ。
だが、その冷たい目は怒気だけを映し、男に向けられている拳銃の先は、全くぶれる様子もない。
改造ガン?
モデルガンではない。
アイラは、兄のカイリの仕事関係で、本物の銃を見たことがある。触ったこともある。
撃ったこともある。射撃の練習をしたから。
そして、銃の種類も、ある程度なら、精通している。
だから、視界の前にいる男の持っている銃が偽物ではないことを、即座に判断していた。
『なによ、これっ。こんな話、聞いてないわよ』
アイラはわざとに大声を上げ、ヒステリックに喚き叫んだ。
『Shut up!』
うるさそうに、男が拳銃の先を上げて、アイラに怒鳴りつけて来た。
『なんなのよ、一体……』
アイラが男の腕を振り払い、男を前に押し出すようにした。
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