その6-01
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こんな中年男に色気を使い、(うんざりと)媚売って、ここぞとばかりに、アイラの躰にベタベタと触ってくる中年男の手や体を器用に避けながら、軽く一時間は、アイラはこの中年男に付き合っていた。
会話も面白くなければ、中年男のイヤラシさ丸出しで、ものすごい美女に迫られているからと言って、鼻高々で、上機嫌の男だ。
ルーレット台では、どうやって勝ち目を見るか、勝ちに行くか、そんなことを自慢して、アイラに説明しているのか、教えているようだが、はっきり言って、毎回、毎回、勝ち目を見ているほどの腕前でもない。
割合で行ったら、半々以下で、大した、金額の儲けでもなかった。
『私、お金が切れたから、もうそろそろ、帰るわ』
『帰る? まだ、いいじゃないか』
『大した、勝ってもいないじゃない』
『まだまだ、これからだぞ』
なにを、そんなに自信満々なのかは知らないが、賭け事にはまっている人間は、引き際を知らないのが常だ。
『かなり注ぎ込んでて、随分、余裕よねぇ』
この一時間ほどで、この男の軽い身上調査と素性は、大体、把握しているアイラだ。
アイラに誘導されているとも知らず、アイラに迫られて鼻の下を伸ばしている間、アイラの確認した質問に、それはもう、ベラベラ、ベラベラと、簡単に答えてくれた。
地元はラスベガスではない。ロサンゼルスだ。
そして、レストランを経営しているオーナーだと言う。でも、コックではない。
ラスベガスには数日程前から泊っていて、毎晩、カジノで少し遊んで帰って行く。
アイラの見る限りでも、今夜だって、すでに2千ドルは軽く飛ばしている状態だ。
それなのに、連日連夜で数日。毎回、2~3千ドルを軽く使い切っているなんて、随分、金遣いの荒い男だ。
脱税分で遊びまくってるとでも?
『まあな』
『なあに? お金持ちなの? それなら、私に貢ぐって言うなら、もっと楽しいことしてもいいわよ』
その言葉に、中年男が簡単に反応する。
薄汚い欲望まみれの細い目が、嬉々として輝き出していた。
『貢ぐ? 貢いだら――その、いいのか?』
『貢ぐ額にもよるわよぉ。私はねえ、安くなんてないの。私を買う為なら、男はどんなことでもするのよ。勝ち星を教えてくれる、なんて言うから、付き合ってはみたけど、全然、勝ってないじゃない。つまんないの』
それで、わざとらしく、ぷんっと、アイラが拗ねた顔をしてみせる。
『ああ、そんなことないぞ。すぐに挽回するからな』
『もう、いいわよ。飽きちゃった。カードゲームだって、毎回じゃ、飽きて来るしぃ』
『だったら、スロットマシーンはどうだ? おれが出してやるぞ』
『それだけ? そんなものなら、そこらの男だって、いくらでも出してくるわよ。大体、私を欲しがる男なんて、そこら中にいるんだから』
うふと、微笑を浮かべ、蠱惑的で、煽情的、そして、あからさまに誘うように、その紅い唇をキスの形に出して、ちゅっと、アイラが唇を動かした。
そして、人差し指を、胸を強調させたようなピッタリとしたドレスの胸元で、ゆっくりと、肌とドレスの間で行ったり来たりをさせる。
その間も、男の目がアイラの指を追ってばかりだ。
『それにぃ、私はね、激しいのが好みなの。わ・か・る?』
自分の胸元をなぞっていた指先が、今度は、男の喉仏から、少しずつ、ツーっと、焦らすように男の胸に降りてくる。
『ねえ、どうなの?』
鼻息荒く、男が唇を舐めていた。
『なにが欲しい? おれは、なんでも買ってやるぞ』
『なんでも? あら、そう~。じゃあ、その貢ぎ次第で、今夜は寝かせないけど、どうするの?』
ゴクリ、と男があからさまに唾を飲み込んでいた。
『も、もちろん、問題ないぞっ。なんでも、好きなものを買ってやる!』
『あら、そう。じゃあ、行きましょうよ。こんな場所で、つまらないゲームばっかりじゃ、飽きちゃったもの』
『お、おお。問題ないぞ!』
アイラに腕を組まれて、更に、上機嫌の男が、スキップをする勢いで、アイラと一緒にカジノを後にしていく。
邪魔くさそうに、ふぁさっと、肩に落ちて来る長い金髪をアイラが払っていた。
荷物預かり場所で、男は自分のアタッシュケースのようなバッグと、車のキーを受け取り、アイラは自分のコートを持ち帰る。
わざと腕を通さずに、反折りにしたコートを腕にかけ、それで、男は自分のバッグを持っているので、今はアイラと腕組みができない。
『こっちだぞ』
足並み軽い男に促されて、(仕方なく)アイラは男の後をついていく。
『なに? どこに行くの? こっちなんて、駐車場じゃない』
あからさまな不平を含ませ、アイラがその瞳を細めていく。
そして、疑わしそうに男を見返し、
『まさか、車に連れ込んで、ぼったくる気じゃないでしょうね、今更』
足を止めたアイラに、大慌てで、男がアイラの元に戻って来る。
『なっ――ち、違うぞっ! そんなことしない。今から、金を取りに行くんだ』
『お金? なんでよ』
『自分で管理する分は、持ち歩いているんだ。他の奴らになど、任せておけないだろう? 信用ならんからな』
まさか、大金を持ち歩いて、車で移動している――なんて、そんなあまりに馬鹿げた話をしているのではないだろうに。
だが、男の様相から判断して、その“まさか”の可能性が大だ。
銀行に預金をするでもなし、大したセキュリティーがあるのでもない自分の車の中に大金を残すなんて、あまりに胡散臭過ぎる。
“他の奴ら”なんて、一体、誰を差して、信用が置けないから、大金を自分一人だけで持ち歩いているのか。
この男、一体、脱税以外で、どんな悪行に手を染めているのか。
ヴィクター・スボルスキーは、その点について、なにも言わなかった。
捕縛の仕事だって、危険がないから、素人のアイラに任せて、発信機を取り付けてくれ、というくだらない仕事を寄越してきたのだ。
ヴィクター・スボルスキーの方も、脱税容疑だけの犯罪者を追っていて、その裏で――一体、この男が何の悪巧みに手を染めているのかまでは、確認していなかったようだ。
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