その5-05
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他にも、何台もルーレット台があって、そこでも、テーブルを囲むように客は賑わっているが、だからと言って、アイラ一人くらい入れないスペースがないわけでもない。
『ちょっと、失礼』
あの中年男の隣に滑り込むように、アイラがルーレット台に並んでいた。
左隣の男がアイラを睨め付けかけて――アイラのその容姿を見て、すぐに口を噤んでいた。
だが、その目だけが動き、アイラの躰を嬲るように眺めながら、口元に嫌らしい笑みが浮かぶ。
それと同時に、右隣にいた男も、アイラが隣に入って来て、まず最初に、燃え盛るような赤いドレスの色が目に飛び込んで来た。
すぐに若い女性だということを認識したのか、アイラを視線が合わないので、アイラの顔をわざわざ確かめるように、アイラを見上げて来た。
おおぉ……、アホ臭いほどに間抜けな顔をして、ものすごいスタイルのいい美女を見つけて、中年の男はあからさまに口を開けて、アイラを凝視している。
『あら? もう、回っちゃったの。それなら、ミスちゃったわね』
『すぐに終わりますよ。次の回で、どうぞ試してみてください』
ルーレット台にやって来た新たな客が、あまりにそそられるほどの美女で、あまりに刺激されるほどの艶めかしい躰をしていて、ルーレット台の従業員だって、顔には出さずとも、アイラに微笑みかけて来る。
その目は、しっかりと、アイラの躰を舐め回すように動いていたのは、アイラだって見逃してはいない。
この手の、あからさまな男の腐った眼差しには、アイラだって慣れている。
毎回のことだ。
だからと言って、その汚い眼差しに欲望の目を向けられて、アイラが喜んでいるとは限らない。
その分、靖樹には、絶対に、倍額支払わせてやるのだ。
アイラがミスったルーレットは、すぐに、終わり、掛け金がテーブルの奥に下げられていく。
『さあ、次のルーレットをどうぞ』
それで、アイラが、数枚にチップを適当な場所に置いた。
『あら? 置かないの?』
『おっ……? あっ、いや……。置くぞ、俺も、置くぞ――』
我に返ったように、中年の男も、自分のチップを端の番号に、中央の番号にと置いていく。
『そんなに賭けるの?』
アイラが気軽に声をかけると、中年男の顔が煌々と輝きだした。
『おお、そうなんだ。あっちは、保険のようなものだな』
『なんで? 別に、負けるくらい、いいじゃない。遊びなんだから』
『負け――は、面白くないだろう?せっかくだから、勝たないとな』
『その口調だと――へえ、勝ってるの?』
『今の所は、半々なんだ』
それで、随分、自慢げにそれを言いきって、中年の男の視線が、少し山になっている自分のチップの方に、わざわざ、視線を向けるようにした。
『あら? 悪くないわねぇ。じゃあ、私にも、その勝ち方、教えてくれない?今夜は負け続きなのよ』
『ああ、いいとも。教えてやるぞ』
『あら、そう――』
その会話を終えずに、グイッ――と、いきなり、アイラの腕が引っ張られていた。
反応する前に、アイラはルーレット台のテーブルから、無理矢理、離されていた。
随分、手荒で、失礼なことをしてくれる。
それで、アイラがきつく相手を睨め付けかけて――
『――ケード!』
『よう。久しぶりだな』
アメリカで顔を合わせたくない人物、その1だ。
そうやって、龍之介や廉の前で話したばかりではないか。
まさか、ラスベガスにやって来ているアイラの前で、ケードに出くわすなど、全くの予想外に、予定外である。
ケードはハイヒールを履いたアイラとの目線が近く、腕を掴んだまま、その隙の無い琥珀色の瞳には、微かな怒気が含んでいた。
『まさか、お前とこんな場所で顔を合わせるとはな』
『そうね。まさか、ケードがこんな場所で夜遊びしてるなんて、思いもよらなかったわ』
『そういうお前は、一体、こんな場所で何をしてるんだ?』
『夜遊びに決まってるじゃない』
その適当な返答に、ケードの眉間が微かに揺れる。
チラッと、その目線が動き、
『へえ、お前の趣味も、随分、変わったものだな』
『あら? 私の趣味なんて、ケードが知ってるわけ? 知りもしない癖に。そういうケードは、相変わらずよねぇ』
そして、アイラの視線もまた、意味深に、わざとらしく、ケードの後ろ側に向けられる。
長い赤毛の女が、ケードとアイラの方を黙って眺めているのだ。
だが、その瞳には敵意満々の色が映っていて、アイラ同様、体を強調するような短いドレスを着こみ、どうやら、ケードを誘っていたらしい。
それで、自分の前で、アイラほどのスタイルの良い美女が現れて、敵意満々、というところだ。
『相変わらず、お盛んねえ、ケード』
『別に。大人の付き合いなんて、驚くことじゃない』
『そうねえ。驚くことじゃないわ』
だから、アイラだって子供じゃない以上、ケードが驚くべきじゃない、と暗黙の忠告だった。
そんな忠告に気付かないほどの愚鈍ではないケードだ。
微かにだけ目を細め、アイラを睨み付けて行く。
『お前、一体、何をしている? あんな――男を誘うなんて、気でも違ったのか?』
『あらぁ? そんなの、ケードには関係ないじゃない。別に、カモは、容姿とは関係ないのよ』
その言葉を聞いて、ケードの眉間が、また、微かに揺れた。
アイラの手が動き、自分の腕を掴んでいるケードの手を引きはがしていた。
『じゃあ、お互い、忙しいようだから、邪魔はしないわね』
邪魔しないでよ――と口に出されぬ言葉に言いつけられて、ケードもいい顔をしない。
『せっかくの相手を待たせちゃ悪いでしょう、ケード?』
それで、わざとらしく、挑戦的な薄い微笑を浮かべたアイラが、ケードから離れて行く。
また、ルーレット台に戻って行ったアイラの背を、ケードがまだ睨み付けている。
だが、その眼差しだって無視して、アイラは中年の男に撫で声を出して、甘えてみせる。
『もう、一緒にどうだ、ってしつこいのよ、あの男。だから、違うテーブルに行きましょうよ。そこで、勝ち方教えてくれるんでしょう?』
『お、おお。いいぞ』
アイラに腕を組まれてご機嫌になった中年男は、にやけた顔を隠さず、アイラの腕をしっかりと組み返してきた。
そして、その小太りの体まで押し付けて来た。
全く、こんな男に、ベタベタと躰を触られて、アイラの期限だって最高潮に悪い。
靖樹に倍額支払わせようが、その程度で、アイラの期限が収まるはずもない。
全く、余計な仕事を押し付けて来てくれたものだ!
まだ、アイラを睨んでいるようなケードの視界の前で、男と仲良さげに腕を組んで行くアイラと男は、向こうのテーブルの方に消えて行く。
このまま、アイラを引っ張り戻して説教をすべきなのか――
だが、ケードはアイラの身内ではあるが、保護者ではない。
おまけに、アイラは子供ではなく、れっきとした成人した大人だ。
なぜ、ラスベガスになどやって来ているのかは知らないが、おまけに、あんな――中年男を誘い込んでいるのかは知らないが、それは、アイラの問題であって、ケードが説教して止める問題ではない。
それで、嫌々に(かなり仕方なく)、ケードは溜息を吐いて、その場を立ち去っていた。
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