表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やっぱりやらねば  作者: Anastasia
Part3-アメリカ編
178/215

その5-03

ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。

* * *



「今夜は、その格好なんだ」


 バスルームドアの横に立って、廉がちょっとそこに姿を出した。


「ちょっと、勝手に入ってこないでよ。失礼ね」

「でも、ドアが半開きだったから、入ってきても構わない、ってことかと思ってね」


「トイレに行きたいならって、開けておいてあげただけじゃない。でも、着替えを覗かないでよ」

「もう、終わってるじゃないか」


 アイラは鏡に向かって、マスカラをつけているのか――付け直しているのか――パチパチと瞬きながら、その長いまつげのマスカラを整えているようだった。


 今夜も、カジノに出向く3人は、それぞれにその身支度を済ませていた。


 アイラは着替えと同様に、化粧を済ませるのに、一人、バスルームを占領していたのだ。


「用意できたの?」

「俺達は、ただ着替えるだけだから」


 ふうんと、鏡の端で廉の姿を、サッと、確認したアイラは、今度は口紅をつけ始めていた。


「今夜は、その格好なんだ」

「そうよ。いいでしょう」


「そのドレスもそうだけど、いつ、そんなもの買う暇があったんだ?」

「ここに来てすぐよ。ホテルに、ブティックが揃ってるじゃない。何でもあるのよ、ベガスは」


「まあ、そうだけどね。どうせ、靖樹さんが払うから――って、高いのを買ったんだろう?」

「当たり前じゃない。私にこんな格好させて、オヤジに迫らせるんだから、それ相応のものは貰わないと、私の気が済まないわ」


 アイラは唇を少し開け、両方の唇に口紅を塗り終わり、そこにあったティッシュを取り上げ、余った残りを唇から落とすようにした。


 その様子を、ドアから廉は黙って眺めていて、


「アイラのその格好なら、大抵の男は落ちるだろうけど、危ないだろう? ()()()でも」


 アイラは鏡越しに、口元を上げた薄い笑みを廉に向け、

「ボディーガードがいるじゃない。しっかり、見張ってなさいよ」

「その分は、しっかり払ってもらわないと」


「まあ、仕事次第よね」


 「さあできたっ」と、アイラが化粧品を簡単にしまい直し、くるっと、廉の方に向き直った。


 そして、気取ってポーズを取りながら、長い金髪のカツラの髪の毛を振り上げてみせる。


「どう? いいでしょう」

「すごいね」


「その、すごいって、どういう意味なのよ。表情一つ変えずに、貶してるんじゃないでしょうね。全く、どうして、「あまりにセクシーで、目が眩みそうだ」――くらい言えないのよ」


「あまりにセクシーで、目が眩みそうだ」


 アイラの言いつけたままを、ただ淡々と繰り返す廉に、アイラの冷たい眼差しが返された。


「今夜も会わなかったら、どうするんだい? 見つかるまで、ずっとベガスにいる?」


「そんな無駄はしないわよ。この週末で見つからないなら、ステイするだけ無駄だから、さっさと帰るわよ。何の為に、アメリカくんだり、旅行に来たと思ってるのよ。レンはいいけど、龍ちゃんだって、たくさん廻りたい所があるんだから。こんなカジノに篭りっきりなんて、退屈過ぎるじゃない」


「アイラ、支度できたのか?」


 廉の隣で龍之介が、ひょこと、顔を出した。

 それで、そこに立っているアイラの姿を見やって、一瞬、その顎が大きく開かれてしまった。


「――また――今夜も――すごい……格好、なんだ、な……」

「二人揃って、褒め言葉の一つも言えないわけ? 全く、どうして、こんなスムーズさも欠ける男ばっかり、私の周りにいるのかしらね」


 廉も龍之介も役に立たないものだから、アイラは、一人、プンプンと、文句を言いっ放しである。


 アイラはその二人を放っておくことにして、口紅と香水を手持ちの小さなバッグの中にしまい込み、カツカツと、ゆっくり二人の方に歩いてきた。


 それで廉と龍之介がバスルームのドアから動くように、部屋の方に足を戻す。


 バスルームから出てきたアイラは、絨毯の上をゆっくりと歩いてくる。

 ピンヒールを履いたその背がかなり高く、腰まであるカツラの髪の毛が、かなり本物らしくゆらゆらと揺れていた、


 体にピッタリとくっついた真っ赤なドレスが燃えるように赤く、太ももの上を行きそうな、その短いドレスの下から出ている足が――もう長い足で、龍之介も、なんだか、溜め息がこぼれそうだった。


 自分の背と比較するのではないが、なぜ、アイラの足の付け根が、自分の腰辺りまで来ていそうな感じに受けるのは、龍之介の気のせいのなのだろうか。


「龍ちゃんも、こんなくだらないことばっかりやらせて、つまらないわよね。この週末が終わったら、さっさと旅行に戻るわよ」


「俺は、大した気にしてないけどな。ラスベガスに来るのだって、旅行の一つだぜ。俺なんか、テレビでしか、ラスベガスのカジノとか、見たことないんだから」


「カジノなんて、どこも同じじゃない」

「そうかもしれないけどさ、でも、すごいライトが一杯で、あっちこっちで鐘が鳴ってて、俺はいいと思うぜぃ」


 ラスベガスのカジノ回りをさせられているのに、どうやら、龍之介はかなりご満悦の様子なので、アイラも、それ以上は、心配する必要もないようだった。


「龍ちゃん、賭けてもいいけど、あんまり負け過ぎないようにね」

「俺は40ドルくらいでやめるから、いいんだ。でも、昨日は、20ドル戻ってきたし」


 毎回、毎回、負けばっかりではないカジノの魅力に、龍之介も、結構、ホクホクである。


「あれ? ――今、気付いたけど、その瞳、コンタクトなのか?」

「そうよ。いいでしょう」


 金髪のカツラだけではなく、アイラの瞳も見たことがないブルーの瞳だったので、龍之介も珍しそうに、繁々と、その瞳を眺めてしまっていた。


「それ――カラーコンタクトって、度が入ってなくても、売ってるんだな」

「売ってるわよ。なんでもね。模様の入ったのもあるし」


「へえ。俺も、お土産に買って帰ろうかな」

「だったら、ドクロとかのにすれば? ああいうのは、面白半分で買って帰るのが多いから」

「いいかもな」


 お土産の一つが決まって、龍之介は更にホクホク顔だった。


「レンとはぐれたら、ちゃんと電話するのよ。はぐれた場所か、ら動かないでね。判った?」

「判ってるよ。大丈夫だって。迷子になっても、あんまり動き回らないからさ。このホテルの名前は判ってるから、いざとなったら、ホテルに戻ってきてもいいし」


「変な奴には、ついて行かないのよ」

「判ってるって」


「呼び止められても、無視するのよ」

「判ってるって」


 一人息子をたった一人で外に行かせる母親のように、アイラは執拗に、さっき言いつけたことを、繰り返し、念を押す。


 それで、龍之介もつい笑いながら、

「大丈夫だって。英語はあんまり喋れないけど、変な奴にはついていかないし、迷子になったら、廉に連絡するか、ホテルに戻ってくるし、英語で話しかけられても、お金は出さないし――大丈夫だって」


「そうかも知れないけどねぇ――」


 まだ、アイラは龍之介を見やりながら、次のお小言を言いそうである。


「大丈夫だって」


「そうなんだけどねぇ――龍ちゃんは、いかにも日本人、って見えるから、ベガスの治安は、それほど悪くないとは言っても、カジノにやって来るような人間の中には、マシなのばかりとは限らないしねぇ。日本人は、いまだに金持ちだと思われてる傾向もあるから、簡単にカモにされそうだし」


 じぃっと、アイラが少し瞳を細めて、まだ龍之介を見やっている。


「俺は――カモに、されそうかなぁ……」


 つい、隣の廉にそれを聞いてしまう龍之介であった。


 廉も、ちらっと、龍之介の全体を見下ろして、

「まあ、本人次第だろうけど。気をつけていれば、大丈夫だろうとは思うけどね」


「そうか……。じゃあ、たくさん気をつけるから、まあ、大丈夫だと思うぜ」

「仕方ないわね。ヤスキのバカのせいで、こんなことさせられてるんだし」


 諦めたようにそれを締めくくり、アイラは腕時計に目を落とすようにした。


「大体の時間ね」

「そっか。じゃあ、行こうぜ。今夜は、次にでっかいホテルに行くんだろ?」


「そうよ。どデカイわよ」

「写真取ったら、ダメなのかな?」


「外ならいいんじゃないの。結構、他の観光客も、やってるみたいだし」

「そっか。スーツの内ポケットに、カメラ入れてるんだ」


「中は、たぶんダメだろうけどね」

「外だけでもいいんだ。派手だから」


 それで、3人は、いざ、今夜のカジノに目指して、レッツゴー、だった。




読んでいただきありがとうございました。

一番下に、『小説家になろう勝手にランキング』のランキングタグをいれてみました。クリックしていただけたら、嬉しいです。


Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングタグ、クリックしていただけたら嬉しいです (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
小説家になろう 勝手にランキング

大人になってもはちゃめちゃ恋愛物語『やっぱりやらねば(続)』は大人の恋愛編です。
やっぱりやらねば(続)(18歳以上)

別作品で、“王道”外れた異世界転生物語も、どうぞよろしくお願いいたします。
奮闘記などと呼ばない(18歳以上)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ