その5-02
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『現金がいいかな』
どこまでアイラの事情を知っているのかは知らないが、靖樹がアイラを紹介したからと言って、あの男が、ベラベラとアイラの身上を素直に説明するとは考え難い。
それで、ヴィクターの方も、アイラを紹介されて、裏で簡単な身元調査でもしていても、アイラには全くの不思議はなかった。
『そうね』
『そう。では、現金を用意しておくとしよう。連絡先は、名刺に記してあるから』
『そう』
『君への連絡先は?』
それで、アイラが簡単に電話番号を羅列していく。
ただ、ペラペラと。
そして、その連絡先は、もちろんのこと、廉の携帯電話である。
なぜ(勝手に)廉の連絡先を出したかと言うと、一つに、アイラ自身の連絡先を他人にやるのは好きではない。
二つ目に、アイラの携帯電話はNZで繋がっているものだから、アメリカで使用した場合、国際電話の料金で請求されてしまうことになる。
わざわざ、靖樹のくだらない仕事の為に、アイラの必死で稼いだお金で国際料金の電話代を払うつもりは毛頭無い。
三つ目に、アイラがお色気仕掛けで、逃亡者に迫っている時は、携帯を持ち歩いていない。
何かの拍子で、アイラの足を掴まれてしまっては、元も子もないからだ。
アイラが(勝手に)廉の連絡先を口頭だけで話しても、ヴィクターは焦っている様子もなかった。
メモに書き写すこともしなかった。
余程、記憶力に自信があるらしい。
そして、電話番号がアメリカ用であることも、指摘しない男だ。
ヴィクターだって、薄っすらとした微笑を浮かべている割には、ものすごい警戒の強い男である。
余計なことは喋らないし、余計な詮索もしない。それで、上げ足を取られることもなく、自分自身に触れられたくない嫌な質問が返って来ることもない。
『仕掛けは、薄いシールのようなものに近い。洋服などに貼り付けることもできるが、嵩張ったり、厚みが出てくると、すぐに気が付かれてしまうかもしれないな』
『じゃあ、安全な場所ってどこ?』
『洋服の内ポケットとかが最善かな』
『洋服を着替えられたら、終わりじゃない』
『そうだね。だから、靴底にもできたらいいかな』
『厚みはどうするのよ』
『そこまでの厚みではないよ』
『歩いている途中で外れないの?』
『泥や水溜りに、わざわざ入って行かない限り、歩く程度なら、数日は貼られたままだ』
だから、その間に、逃亡者を追い詰めて捕縛すればいい、とも聞こえる。
『後は、バッグなどの小物があるのなら、その中にも潜ませておくという手もあるけどね』
『へえ。何個なの?』
『一応、5個は用意してある。君の判断次第で、好きに使ってくれて構わない』
『ああ、そう』
『1番目星いホテルにのカジノには、来てなかったわよ』
『そうか。それなら、次のカジノに移ってくれ』
『一番目にやって来る可能性もあるじゃない』
『そちらには、ただの見回り程度の人員を置いておくよ。もし、対象人物が現れた場合、君に連絡するから』
『あら、そう』
『たかが、一人の男に、随分な経費ねぇ』
『まあ、そうだが、この手の依頼内容は、少し時間はかかっても簡単に済ませることができるものだから』
それで、まあ、経費は経費で落として、後は、簡単に報酬が入って来る楽な仕事、と言いたいのだろう。
まあ、脱税者で、まだ、警察から追われているような犯罪人でもない。税務署が、脱税分の支払い請求をして、それが未支払いだから、裁判所に訴えただけのようだし。
男が捕縛されなければ、いずれは、警察沙汰にまでなるのだろうが、今の所、逃亡者を捕獲すれさえすれば、後は簡単に報酬が入って来る仕事だ。
『整形している可能性は?』
『今の所、それはないかな。ベガスのカジノで見かけたという情報を掴んだ時点でも、元の顔写真と同じ顔だったようだ』
『へえ』
それなら、整形手術をしてまでも、身元を隠しているような男ではないらしい。
『一応、護身用として、小型のテーザーガンもあるけど』
『それは、いらないわ。下手に武器なんか使ったら、銃刀法違反で、警察に目をつけかねられないもの』
『では、あまり対象人物を刺激しないように、後は頼んだよ』
それで、アイラが薄っすらとした挑戦的な微笑を浮かべ、ふっと、笑い飛ばす。
『もちろん、刺激しまくりに決まってるじゃない。一体、どこの誰が相手だと、思ってるのよ』
『ああ、確かに。心臓発作でも起こしてしまいそうだね。それなら、徹底的に落としてくれ。そうなったら、きっと、捕縛も簡単に済むことだろうから』
『現場で捕縛すればいいじゃない』
『カジノの中では目立ち過ぎる。せめて、裏口や、少し一目のつかない場所なら問題ない』
『あっ、そう。私を尾ける?』
『どうしたい?』
『私は、わざわざ捕まえてやる気はないわよ。それは別料金』
ふむと、ヴィクターの方も考えるような素振りをみせる。
『もし捕縛できたのなら、私の仕事は、身柄の移動と受け渡しだけになるね。それなら、半分の半分は褒賞となるだろう。だから、4分の3だ』
『あら、そう』
それで、アイラが逃亡者を捕縛できる可能性があるのなら、アイラが勝手に男を捕縛してもいいらしい。
そこまで必死になって、逃亡者を追いかけているのではないようだ。
要は、身柄を捕縛し、確保し、移動させて裁判所に連れて行けば、仕事の依頼としては、それで完了だ。
確かに、ヴィクターにとっては、随分、簡単な仕事になるだろう。
『一応は、確認を終えたのかしら?』
『そうだね』
『そう。じゃあ、商談成立ね』
それで、アイラは、スクっと、ソファーから立ち上がっていた。
『では、後で』
あまりに簡単なヴィクターの挨拶に、アイラは首だけを回し、
『Bye 』
そして、ヴィクター以上に簡潔で、簡単な挨拶だけで、その話を締めくくっていたのだった。
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