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やっぱりやらねば  作者: Anastasia
Part3-アメリカ編
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その5-01

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 アイラはホテルのロビーに置かれているソファーの一つに近付いていった。


 ホテルの部屋に連絡が来て、アイラに面会したい男性がいる、という話なのだ。


 それで、部屋から出て、ロビーに降りて来たアイラは、受付で、「あちらの男性ですよ」と促され、ロビーに置かれているソファに座っている男の元に進んで行く。


 相手の方も、ソファーに座りながら、向かってくるアイラを眺めているようだった。


 アイラが近づいてくると、スッと、重さも感じさせず立ち上がり、テーブルを回ってアイラの前にやって来る。


『それで? 誰なの?』


 社交辞令もなく、挨拶もなく、その質問だけが出された。

 でも、その口調は、気軽な挨拶をしているかのような軽く、明るいものだ。


 目の前に立っている男は、アイラよりも背が高く、グレーのスーツを着込み、一見したら、裕福なビジネスマン気風に見えなくもない。

 薄い金髪に、薄いアイスグレーの瞳を持つ容姿は、東欧的な要素も感じないではない。


 働き盛りの壮年と言った感じで、靖樹よりは年上に見えても、だからと言って、年が行っているほどの年齢は感じさせない雰囲気だった。


 男の方は、アイラの突然の質問に驚いた様子もなく、薄っすらとだけ、その口端を動かした。まるで、それで、薄っすらとだけ、微笑を浮かべているかのような仕草だ。


『ヴィクター・スボルスキーと言う。初めまして、かな?』

『人違いじゃないの?』


『そうかな? ヤスキから知らされたプロフィールは、当たっているようだけど』


 へえと、アイラは全く興味なさそうな、そんな愛想のない返事をする。


『まあ、まずは、どうぞ、座って。立ち話もなんだから』


 ソファーを勧められ、アイラは目の前のソファーに腰を下ろしていく。


 ヴィクターと名乗った男は、またテーブルを越えて、アイラの向かいのソファーに腰を下ろした。


『それで?』

『今回の件について、少し、きちんと打ち合わせをしておいた方がいいかな、と思ってね』


 ふうんと、アイラの返事は素っ気ないものだ。


『さっさと捕まえればいいのに?』


 アイラは何一つ説明していないのに、ヴィクターの方はアイラが不思議に思っていた謎を、簡単に口に出してきた。


『そうね』

『こんな風に、公の場所をうろついている割には、警戒心が強くてね。それで、男が近づいていくと、一目散に逃げてしまう』


 どうやら、一度は、男の捕縛を試みたようである。


『それに、くだらない邪魔を雇っているようだからね』

『なんの邪魔?』


『追いかけようとする人間の間に入って、時間潰しをする邪魔、だよ。別に、危険人物を雇っているわけじゃない』


 へえと、アイラの返事はそれだけだ。


『それで、なぜ、君に白羽の矢が立ったか、と?』


 まるで、アイラの考えていたことを先読みしているような、男の態度だ。


『私も、仕事を一緒にするのなら、相手を選ぶ主義でね。ヤスキには、大抵、こういう仕事があるがどうか? 程度で、尋ねるだけなんだが。今回は、それで、君を紹介された、というわけ』

『へえ』


 その話の内容からすると、仕事を選ぶヴィクターは、一応、靖樹のことは、仕事上では信用しているらしい。


 だから、素性もしれないアイラの名前が紹介されても、靖樹からの紹介だから、一応、ヴィクターも仕事上だけなら、アイラと一緒に仕事をすることを気にしていないのだろう。


『今回の件は、根本的に対象人物が逃走したとしても、追いかける必要はない。ただ、対象人物に接近できて、ある仕掛けを仕込んでくれればいいだけだから』

『その仕掛けは?』


『それは、この会話が終わった時に、君に渡しておくよ。簡単な説明と一緒にね』

『それで、色気落としで迫れ、って?』


 ヴィクターが、また、口端だけを動かしたような表情をみせた。


 まるで、そのほんの些細な動きで、一応、自分の感情のようなものを見せているかのような、芝居がかった(張り付いた)表情だ。


『こう言っては失礼なのだろうが、男は単純だからね。色気仕掛けで迫られたら、大抵の男は、一瞬でも、気を抜いてしまうものだ。それが、君のようなゴージャスな女性からなら、特にね』


(注:英語でGorgeous は、日本語の豪華・豪勢と言う意味の他に、人の形容で表現された場合は、「とても魅力的な」という意味合いで使用される)


『あら? 誉め言葉として受け取っておくわ』


 だが、その態度も口調もあまりに淡々として、全く、誉め言葉としてなど受け取ってはいない様子が明らかだった。


『まあ、お互いに会うのは今日が初めてだから、君が警戒しているのは、理解できる。私も、自分の使い道を知らない人間は、個人的に好きではないから』

『へえ』


『だから、君にはこの名刺を渡しておくよ。身元証明書、とまでは行かなくても、きちんと正規のものだから』


 ポケットから財布のような者を取り出したヴィクターが、一枚の名刺をテーブルの上に置き、スッと、指だけでアイラの方に差し出してきた。


 少し腕を伸ばし、アイラがその名刺を取り上げる。


『ヴィクター・スボルスキー。セキュリティー・コンサルタント』

『まあ、それはただの概要で、仕事内容じゃない。私立探偵のようなものだと、考えてくれればいい』


 ふうんと、名刺を持っているアイラの瞳だけが上がり、ヴィクターを見返す。


『報酬は?』

『無事に仕掛けを仕込むことができれば、その時点で、半分は君に支払われる』


『ただ、仕掛けを仕込むだけで、随分と、気前がいいのねぇ』

『期限が迫っているからね。期限内に仕事を終わらせなければ、私の事務所にも問題が上がって来る』


 なるほど、裁判所からの保証金や賞金は、裁判が予定されている期限内に制限されていることが多い。


 理由もなく裁判の期限がずれたり、延期されたりすると、訴訟を起こしている側も、また新たな裁判の申請が必要となってくることが多いからだ。


 そうなると、Bounty のような仕事を引き受けたヴィクターの事務所でも、信頼問題が上がって来てしまう。


 仕事をきちんと完了できなかった、などとレッテルを貼られてしまっては、そう言った業界では、すぐに仕事が来なくなってしまうのが常だ。


 裏に通じている者は、その手の噂話にも、すぐに耳にするものなのだ。



読んでいただきありがとうございました。

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大人になってもはちゃめちゃ恋愛物語『やっぱりやらねば(続)』は大人の恋愛編です。
やっぱりやらねば(続)(18歳以上)

別作品で、“王道”外れた異世界転生物語も、どうぞよろしくお願いいたします。
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