その4-03
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『――んっ……!』
なんだか、急に、お腹を針で刺されたような痛みが走って行った。
『……痛い……』
一瞬だったが、少しお腹を押さえたアイラは、顔をしかめてしまう。
もしかして、お腹の調子が良くないのだろうか。
今夜、夕食に食べたのはシーフードの乗ったパスタだ。全部、料理されていたはずなのに。
だが、一瞬だけで、その後は、それほど痛みが継続しているのでもない。
それで、龍之介とホテルの外で合流したアイラと廉は、まず、初めに、巨大な観覧車に乗って、ラスベガスの夜景をエンジョイする。
見渡す限り、煌々としたネオンが輝いていて、見渡す限り、ド派手なネオンが街中を埋め尽くしていて、観覧車の一番上に到達すると、その夜景は壮観だった。
「さすが、ベガス~! 最高にきれいねぇ」
「さすがっ、100万ドルの夜景っ!」
「100万ドルの夜景?」
「そうやって、言うらしいんだぜ」
「へえ、そうなの。でも、今じゃ、100万ドルとか、簡単に支払っちゃえそうな金持ちだってたくさんいるけどね」
「あっ、確かに、そうだ。そういう金持ちなら、きっと、この夜景ごと買い占められそうだよなぁ」
「そうよねえ」
予約していたエッフェルタワーにも昇り、閉館時間が近づいているせいか、慌ただしく、一緒に参加してくる他の観光客の数もかなりのものだった。
観覧車近くのホテルの前では、大きな噴水が立ち上がり、その下で光る光線が色鮮やかで、〇ニーランドで見た光のショーにも劣らずの迫力だった。
大満足でホテルに戻って来た3人は、まず、初日のラスベガス観光を終える。
* * *
『アイラ。具合が悪いの?』
バスルームから出てきたアイラの前に、廉が待っていた。
アイラがバスルームに行く為にベッドから起きたのは、その動きと気配で、廉も気がついていた。
だが、トイレかもしれないなと、そんな予測をつけて、そこまで注意を留めていなかった簾だ。
龍之介は、時差ボケと、最初の旅疲れから、今はグッスリと熟睡している。
アイラのバスルームに行った音でも、起きはしなかったようだ。
『どうしたんだ?』
げっそりとした様子で、バスルームから出てきたアイラは、お腹を少し押さえながら、機嫌悪そうに、ジロッと、廉を睨め付ける。
だが、それには構わず、廉が少し屈み込むようにして、アイラを覗き込んだ。
『どうしたんだ?』
『――当たったわ』
『当たった? 何に?』
『シーフードよ。――ちゃんと料理されたやつなのに、一体、どういうことなのよっ』
ムカつく――だったのか、腹が立つ――だったのか、どちらも同じことだろうが、アイラがあっちの方向を、キッと、きつく睨み付けている。
『食中毒?』
『たぶんね……。――ああ、もう、何なのよっ』
その言葉を、敵意一杯に言い捨てて、アイラは、仕方なく、自分のベッドになんとか戻って、ドカッと、そこに座り込んでいた。
『どのくらいひどい?』
『さあね。出すものは、全部、出し切ったわよ』
『吐き気は?』
『両方よ。――ああ、全く、賠償させても、腹の虫がおさまらないわ』
アイラの怒りも理解できるのだが、そこに横になったアイラは、かなり疲労困憊していた。
廉はアイラの下の毛布を引っ張り出すようにして、半分だけアイラの上に毛布を掛け、少し屈んでアイラを覗き込む。
『お水はいらない?』
『いらない』
『そう。だったら、少し休めるなら休んで。あまりひどかったら、ドクターを呼んでもらうしかないだろうし』
うん、だったのか、ううん、だったのか、アイラが素っ気無く返事をしたが、疲労しているアイラは、半分、眠り始め出していた。
一応、そのアイラの額に手を当ててみたが、熱は出始めてないようである。
全部、出し切ったと言っている本人だから、寝ている状態で、吐き出すこともないだろうと推測して、廉も、一応、自分のベッドに戻っていた。
翌朝、いつも通り、朝から元気で爽やかで、やる気満々の龍之介が起きて、超機嫌が悪そうに、その龍之介を睨み付けるアイラに驚いて、その理由を廉から話された龍之介は、
「だったら、俺、正露丸持ってるぜ。それ飲めよ。すごい効き目が抜群だぜ」
「セイロガン?」
「そう。日本の正露丸は、有名なんだぜ。100%効き目、バッチリ。やっぱり、海外旅行で何があるか判らないから、正露丸と、効き目バッチリの胃腸薬は、手放せないよな。それ飲めよ。すぐに効くぜ」
それで、親切にも、アイラの前に正露丸の粒を持ってきた龍之介から、手の上にその粒を渡され、グラスを持ちながら、アイラも仕方なくその粒を飲み込んでいた。
ものすごい匂いで、うえぇ……と、半ば、吐き出しそうになっていたアイラだったが。
「無理矢理、下痢を押さえ込むのはいいけど、根本的な中毒症状が直らないと、胃腸も痛んだままだろうに」
「それは――そうかもしれないけどさ。でも、一日中、トイレに篭ってるよりはいいじゃん。アイラ――仕事、あるんだろ? やめ――たりは、しないよな」
龍之介と廉の二人が揃って、ベッドに座り込んでいるアイラに顔を向けた。
「このセイロガンは効くんでしょう? だったら、30分程度で動けるなら、準備するわよ」
やっぱり……と、なんだか、二人とも諦めたような、無言の同意が出されていたのだった。
さらっと、廉が、まだベッドに座り込んでいるようなアイラの額にかかる髪の毛をすくい、アイラの額を確認する。
熱は出ていないようである。
一応、龍之介からもらった“日本の特効薬”の効き目を待ってみるべきなのだろうか。
「君も時差ぼけの疲れが出始める頃だろうから、今夜は、無理をしないで、休んだ方がいい」
「さっさと、こんなくだらない仕事を片付けて、遊びたいの。いつまでも、こんなくだらないことなんか、してられないわ」
「そうだけどね」
それなら、さっさと、靖樹の仕事を放りだせば済むはずなのに、なぜか、アイラはいつも(あの)靖樹に、アイラを使わせてやっているのだ。
一体、アイラも何を隠しているのか。
そこまで、靖樹に恩着せがましく恩を売りつけるようなアイラでもないのに。
嫌なものは嫌だと、はっきりと言い切るし、その気でないのなら、絶対にアイラに言うことを聞かせることなど無理なのだ。
なのに、靖樹の仕事だけは、なぜか……、アイラも仕方なくの癖に、仕事を引き受けているアイラだ。
「効き目はどう?」
「まだ、分からないわよ。こんな、飲んだばかりで」
「そうだけどね」
「30分くらいはかかると思うから、やっぱり、その間は、ベッドに横になって休んでた方がいいぜ、アイラ……」
壁側に置かれている自分のベッドに座りながら、心配そうに龍之介もアイラも見ている。
「最悪……。あのレストラン、クレームつけても、気が済まないわ」
「……つけるのか、やっぱり?」
アイラがそこで、にっこりと、笑みを投げつける。
それも、背筋が凍り付きそうな、猛吹雪が背後で荒れ狂っているような、冷たい微笑だ。
「あら? 衛生管理は、食事処では、絶対必須でしょう? お客様に被害を出すようなら、衛生だけじゃなく、お客様の体調にも問題をきたすかもしれないでしょう?」
「いや……。うん、まあ……、そう、だけど、な……」
この口調だと、アイラなら、絶対に、ラスベガスの市役所にでも苦情の電話を入れて、あのレストランで食中毒を起こしました、と報告をきっかり忘れないだろう。
衛生管理問題……だとは、思うけれど……。
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