その4-02
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廉は、昔から、その年齢に合わず、スーツも難なく着こなし(元々が、冷静過ぎて、若造に見えないので)、貫禄のある青年によく見られがちだ。
だが、今夜は、少しお金持ちの気取ったお坊ちゃんが、夜遊びに出るような出で立ちだったのだ。
アイラを護衛するから、廉一人だけ、普通のスーツで目立ってしまっては、仕事にならないと判断したからだろう。
「アイラ、靖樹さんの仕事を受けるのは君の勝手だが、君を一人きりにさせることは、危険すぎるからね」
「今回は、そこまで危険じゃないじゃない」
「そう、祈りたいね」
なにしろ、今までの過去の記録から言って、あの靖樹が関わって来ると、ロクな結果になった試しがない。
「まあ、いいけど。レンが勝手にボディーガードするって言うんだから、しっかり、護衛しなさいね」
「わかってるよ」
まったく、余計な手間をかける靖樹に、手間がかかるアイラだ。
「龍ちゃんは、どうするのよ」
「龍ちゃんは、普通にカジノで楽しめばいいさ。初めてのカジノみたいだからね」
「まあ、そうだけど」
元々、龍之介を混ぜて仕事をするつもりはなかったアイラだけに、一緒に、カジノの場所には行っても、その後は別行動のつもりだったのだ。
「私の邪魔はしないでね」
「その約束はできない」
それで、嫌そうに、アイラの眉間だけが揺れる。
「できない約束は、しない主義なんで」
「邪魔しないでよ」
「それは、その時の状況によりけりだ。俺に邪魔されたくなかったら、あまり無茶なことはしないように」
アイラの行動を把握しているだけに、廉だって、アイラの先回りをして、アイラを牽制して来るものだ。
今日この頃では、アイラの扱いにも慣れて来たのか、このアイラに脅しまでかけてくるなんて、手に負えない男だ。
「どうするんだ、アイラ?」
「龍ちゃんを盾に取るなんて、卑怯じゃない、レン」
「まだ、取ってないよ」
屁理屈だ。
だが、ここで言い合いをしていても、廉とは平行線で話が進まないことは分かり切っている。
「それも、状況次第ね」
そして、アイラの返答だって、約束ではない。
アイラだって、したくない約束には、同意などしないのだ。
廉の方も、嫌そうに、少しだけ顔をしかめてみせるが、今の所、仕方なさそうに、長い溜息をついていた。
* * *
今夜、訪れたカジノは、一応、ラスベガスでも一番大きなカジノで知られているホテルだった。
もう、ホテルの入り繰りからして、ネオンが壁一杯に照らされていて、ホテルの形全部が、ネオンで出来上がっていると言っても過言ではないほどの、眩しく、煌々とした明るさだった。
「さすが……、ラスベガス! 目がチカチカするなぁ……」
初っ端から、ものすごい派手なネオンを見せつけられて、龍之介も感動しているのか、感想が出てこないのか。
「龍ちゃん、一人になったら、あまりウロチョロしないのよ」
「わかってるって。俺は、たぶん、スロットマシーンとかだけやると思うんだ。英語も分らないから、カードとかはできないしな」
「そう。それなら、大損しない分だけ、しっかり遊んで来なさいよ」
「おうよ」
「帰る時は、レンが連絡するから」
「わかった。音がうるさくて聞こえなかったら困るから、LIMEにしてくれな、廉。それなら、ちょくちょく確認するからさ」
「わかった。一応、龍ちゃんの居場所の確認も兼ねて、15分おきに、簡単なLIMEを入れておくから」
「オッケー。俺も、ちゃんと確認するから、大丈夫だぜ」
意気揚々と、カジノの入り口に向かう龍之介は――やはり、止められていた。
少し離れた場所から、列に並び出したアイラの視界の前で、入り口に立っているカジノの護衛に、龍之介は止められているのである。
「やっぱり……」
少し大人っぽく、Yシャツなどを着こんでも、あの日本人特有の童顔は、どこに行っても子供に見られてしまう傾向がある。
それで、龍之介は、予め用意していたパスポートを、ガードに見せていた。
ガードの方も、パスポートと龍之介の顔を見比べ、それから、またわざとに、見比べ、またわざとに、時間をかけて――あたかも、龍之介が問題であるかのような、態度だ。
どうせ、童顔に見える龍之介を見て、子ども扱いしてからかっているのだろうが、客商売で、随分な態度ではないか。
赤の他人の振りをしているアイラでも、いい加減、あのガタイのいいガードを蹴り飛ばしたくなるものだ。
当然のこと、アイラは全くの問題なしで、素通りパスだ。
廉も、全く問題なし。
大抵、こう言った場所で引っかかるのは、龍之介、ただ一人だった。
カジノの中に入って行くと、スロットマシーンがずらりと並び、スロット回る音、弾ける音、スロットが当たる音、それらが入り混じり、それだけで気分が高揚してくるものだ。
アイラはホール内も適当にうろついて、カードゲーム用のテーブルなども、回って見ていく。
時々、空いている席に座り、カードゲームをしては、大した稼ぎにならないので、次に移って行く。
そんなことを繰り返しながら、大体のホール内は観察できた。
だが、目的の逃亡者は見当たらなかった。
化粧室に行って、廉に確認すると、廉も、それらしき人物は見かけなかったという。
どうやら、今夜は、空振りだったようだ。
靖樹が寄越してきた情報によると、スキップ(逃亡者)は、ラスベガス内の3つのカジノで目撃されているらしい。
今夜のカジノも、その一つのうちだった。
それで、大抵、夕食後、よくカジノに顔を出して、それで、深夜まで居座って、また帰って行く、というのである。
そこまで調べ上げているのなら、さっさと一人になる隙を狙って、とっ捕まえてやればいいものを、なぜ、靖樹の知り合い――情報屋は、かなりの居場所まで突き止めておいて、その男を捕縛しないのだろうか。
なんだか、キナ臭い匂いがしてくるのは、アイラの気のせいではないだろう。
なぜ、靖樹のイトコであるアイラが、ラスベガスまでやって来て、スキップを捕縛しなければならないのか?
靖樹は、未だに、日本にいるのに。
これは――どうやら、あちらの情報屋も、どこかかしらで靖樹の情報を手に入れて、それで、身内であるアイラに、コンタクトをつけに来たと踏んでも、きっと、アイラの勘は外れていないだろう。
靖樹は、ある意味、御し難い男だ。
あの風体で、頭も切れる(全く、そんな風には見えないが)。
だから、靖樹を使っているとしても、靖樹自身が、簡単に、他人に使われるような男ではない。
一筋縄ではいかない男だから、靖樹の仕事を引き受けるアイラが、一体、どんなものなのか、確認しに来たのだろうか。
まあ、それならそれで、アイラには問題はない。
アイラだって、靖樹と影で繋がっている情報屋が、一体、どんな人物なのか、確かめておく必要があるからだ。
お互い、腹の探り合いで、さあて、一体、どっちに勝星が上がるのか。
アイラは、負ける気はないけれど。
今夜は初日で、それほど必死になって仕事をするつもりもないアイラは、10時になると、さっさと仕事を切り上げていた。
読んでいただきありがとうございました。
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