その3-03
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「ええぇっ……?! 仕事って……。ええっ……?! また、靖樹さんの仕事なのか? それは……」
なぜ、旅行に行くと、必ずと言っていいほど、あの(変に)有名な靖樹の仕事が、アイラに回されてくるのだろうか?
ああ、でも、NZにいた時だけは、靖樹からの連絡がなかったから、NZは平和な国だったのかもしれない……。
「また?」
廉が警戒したような眼差しを向けて、その話題にも、賛成していないようだった。
「危ないことするんじゃないだろうな……?」
出会いが出会いだけに、龍之介もすぐに心配になってしまう。
「さあ――」
仕事内容を、まだ、知らされてないアイラだ。
だが、自分の携帯のイーメールが届いたようで、アイラは新着のメールを開いてみる。
画面をスクロールして行って、今回の仕事内容を確認する。
どうやら、さっき電話を切ったばかりなのに、すでに、三人分のフライトの予約もできていて、ラスベガスでのホテルの予約もできているようだった。
随分、仕事が早いではないか。
これだと、初めから、アイラが仕事を引き受けることを前提に、すでに、フライトも、ホテルの予約も済ませていた感じだ。
「脱税して、裁判所から呼び出しかかった男が、今は逃亡中なの。その男を捕まえるだけよ」
「それ、だけ、なのか? でも、脱税って……。そういうの、税務署とかの仕事じゃないのか?」
「だから、裁判が決まってたのに逃げ出したから、裁判所から、逃亡扱いで――スキップって言うのよ。それのお札が出たのよ」
「お札?」
「要は、逃亡者を捕まえた人には、ちょっと賞金が入る、ってやつ」
「そう、か……」
それでも、理解し難そうに、龍之介は顔をしかめている。
「ラスベガスに潜伏しているらしい情報があるわ。まあ、これから、ラスベガスにも行こうって、考えていたところだから、丁度良かったじゃない。フライトとホテルは、ヤスキが払うのよ」
「靖樹さんが? 仕事だからか?」
「そうね。その分だけは、儲かったじゃない」
いや……、そう簡単に、アイラに同意して良いのかどうか、龍之介も考えものだ。
「でも、仕事ばっかりなんて、しないわよ。今週末で解決できないなら、さっさと見切りつけるわ。私は、アメリカに旅行に来てるんだから」
わざわざと、アイラの貴重な時間を割いて、靖樹のくだらない仕事になんか付き合ってやる為に、アメリカまでやって来たのではない。
「それに、カジノも行くわよ」
「行くのか?」
「そうよ。カジノで遊んでいるらしいから」
「えっ? 逃亡した脱税者が? そんなことしたら、すぐにバレるだろう? なんで、カジノなんて派手な場所に、顔を出してるんだ?」
「龍ちゃん、犯罪人だからって、誰もが、ものすごく頭が良くて、いつでもどこでも警戒してる、なんてあるわけないのよ。大抵の犯罪者って、結構、頭の足りないのばっかりなのよ」
ええぇぇ……?!
龍之介も、それには賛成して良いのか分からない。
「それは、あるかもしれないな」
「えぇ……? 簾まで、そう思うのか?」
「思うって言うか、極悪非道人のような犯罪人でなければ、結構、逃亡した後に捕まった理由が、彼女とデートしてたとか、お腹が空いたから食事をしてたとか、そんな理由で、通りすがりの警察官とかに捕まっているケースも、良くあるんだ」
「えええぇぇ……? それ、マジで?」
「そう」
じゃあ、何のために逃亡を図って、逃げ出したのだろうか?
龍之介の頭の中では、犯罪人と言うのは、こう、なにか、最初から計画を立て、綿密に行動して、抜け目ないような――そんなイメージがあったのだが、日常では、どうやらそのイメージは違っていたらしい。
「わざわざ、裁判をすっぽかして逃亡したのに、それで、自宅に戻って、また捕縛されたケースもある」
「あるのか……? それって、逃げた意味、ないじゃん」
「そうだね。アメリカでは、裁判にかかる場合、全員が全員、警察に逮捕された人とは限らないんだ。誰でもすぐに、他人を訴えられるから、それで、裁判所に行く羽目になることが多いんだ」
「へえ……。そうなのか……」
「龍ちゃん、だから、アメリカなんて、弁護士が多いのよ。どこにいても、すぐに裁判沙汰だから、弁護士ばっかり」
「へえ……、そう、なんだ……」
これも、新たな知識を学んだことになるのだろうか。
「明日は、ラスベガスに向けてフライトだから。11時のフライトなのよね。だから、朝食食べたら、仕方がないけど、空港に直行ね」
「そうか。それは、いいけどな……」
「週末だけよ。私の貴重な時間を無駄にするなんて、絶対、イヤよっ」
「いや……、俺も、その気持ちは、分かるけどな」
必死で稼いで、遊びまくる為に旅行にやって来ているのだ。
仕事――の為に、時間を費やす為にアメリカにいるのではない。
「ねえ、私、このままシャワー浴びたいわ」
「あっ、先に使っていいぜ」
「あら、そう。じゃあ、お先~」
気軽に返事して、アイラは一人さっさとバスルームに消えて行く。
その背を見送り、龍之介も、自分のスーツケースを取りに行った。
「ラスベガスは、行く予定だったからいいけど、カジノかぁ……」
「あんまり、お金を使い過ぎないようにね」
「それは、ないぜぇ。俺、あんまり博打とかって、得意じゃないんだ。廉は? カジノ行ったこと、あるか?」
「一度だけ」
「あるんだ。儲かった?」
「いや、50ドルも賭けてないから、それは全部なくなったよ」
「そっか。俺も、それくらいにしておこうかなぁ。初めてカジノ行くから、ちょっと挑戦、ってな?」
「そうだね」
急遽、予定変更だったのか、予定通りでラスベガスだったのか、どちらとも言えないものだ。
そして、またも、あの一族でも(変に)有名な靖樹からの依頼で、だ。
この仕事の話が吉と転ぶのか、凶と出るのか、廉も、少々、心配になってくる。
はっきり言って、今までの前例からしても、靖樹が関わることで、吉と出た試しがない。
アイラは話を切るかのように、さっさとシャワーを浴びに行ってしまったから、詳しい説明は聞けていない。
ラスベガスに行ったら、きちんと確認してみないことには、廉達にもどんな問題が降りかかってくるか、分かったものではない。
そして、あの問題児の靖樹を許してやっているのか、アイラ自身だって――かなり危ないことを平気でしでかす行動力だ。
だから、靖樹に関わるアイラから目を離すのは――かなりの心配が上がって来るのだった。
まだ、旅行が始めったばかりだと言うのに、なぜか、問題の兆しだけしか見えてこないのは、廉の気のせいなのだろうか。
読んでいただきありがとうございました。
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