その3-02
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まあ、龍之介は二人に背を向けているし、今夜はクリスマスということもあり、廉も片手で少しだけアイラの腰を囲うようにした。
ちゅっと、軽いキスを落し、
「龍ちゃんをからかうのも、そこまでにすれば? 顔が真っ赤じゃないか」
それで、アイラもどうしようか考えているようだ。
だが、その瞳が、またいたずらをたくらんでいるように、爛々と輝きだしたのは言うまでもない。
「アイラ、龍ちゃんが困ってしまうだろう?」
まったく、アイラときたら、すぐに龍之介をからかって遊んでしまうのだから。
「龍ちゃん、もう終わったわよ。いつまで、後ろ向いてるのよ」
「そうか?」
それで、龍之介が、少々、警戒しながら、一応、二人を振り返ってみる。
だが、龍之介の視界の前で、アイラは、まだ、廉にぶら下がっているような状態ではないか。
そのぶら下がったままの体勢で、アイラは龍之介を眺めていた。
それから、その紅い口元が薄っすらと上がって行き、蠱惑的な微笑が上がる。
「龍ちゃん、クリスマスじゃない。一々、堅苦しいこと言わないの。廉だって,
嫌がってないじゃない」
それを言い終わると、アイラがまた廉の唇を塞いでいた。
それも――軽く唇を合わせるようなものではなくて、唇を深く押し付けて――ディープキスをお披露目するのだ!
龍之介の顎が外れそうな勢いで大きく開き、ものすごい見開かれた大きな目も、龍之介がそこで唖然としたまま立ち尽くす。
そしてまた、龍之介をからかう為に、廉は実験体にされてしまった。
アイラはキスをしているだけではなくて、ピッタリと、アイラの滑らかな体を押し付けて来て、艶めかしく、廉を煽っているのは間違いなかった。
アイラは、毎回、毎回、これをしなければ、旅行が始まらないのだろうか。
そして、激しく唇を絡めてきているアイラは、その強い眼差しを真っすぐに向けて来て、体で廉を煽っているのに、その蠱惑的な薄い微笑を浮かべて、この状態を楽しんでいるのも間違いなかった。
「まったく、君は懲りないな」
「あらん? 私に迫られて、喜ばない男なんていないのよ」
「そうだろうね。でも、今回は、口紅をつけられた」
「いいじゃない。紅い唇になって、男前が上がったわよ、レンちゃん~」
その場で、いきなり、予想もしていなかったメロディーが流れだし、アイラと廉の二人が同時に、ベッドの方に顔を向けた。
アイラが廉の首から腕を離し、すぐに、スタスタと、ベッドに向かって歩いていく。
ハンドバッグから携帯電話を取り出したアイラは、その表示を見て無言だった。
それで、無言のまま電話を取る。
『よう』
『クリスマスなのに、それしか言えないの?』
アイラの文句にも、相手は全く気にした様子はない。
『メリークリスマス』
『メリークリスマス』
オウム返しで、アイラもその言葉を返していた。
『それで?』
『スキップ(逃亡者)がいる』
その一言で、アイラの瞳が細められ、冷たい輝きが浮かび上がっていた。
『相も変わらず、成長してないのね、ヤスキ。今日は、クリスマスなのよ』
『明日は違う』
それは、ただの屁理屈だ。
『ふざけないでよ。私はね、わざわざ、ヤスキの仕事する為に、旅行に来てるんじゃないのよ』
『女で誘った方が早い。警戒して、近寄って来る奴を見て、すぐに逃げ出すだろうからな』
アイラの文句を徹底的に無視して、自分の用件だけを話す男だ。
一回、あの男の頭をぶん殴ってやらないと、更生の一つもしないだろうことは、分かり切っている。
今回、アメリカにやって来ていることを知っているのは、正確には二人だけ。
アイラの母親と、従姉の美花だけだ。
なにしろ、アメリカにもたくさん親戚がいるだけに、アイラがアメリカにやって来ているのに、顔の一つも出さなかったら、
「友達も一緒に連れてくればいいじゃない! 泊まる部屋なら、たくさんあるのよ。遊びに来なさい!」
などと、すぐに邪魔が入ってしまうだろうから。
だから、母親にも、
「今年のクリスマスは、また友達と旅行するって、伝えてね」
と堅く、口留めしておいたのだ。
きっと、場所はどこなの? ――と、質問される羽目になるだろうが、それは、アイラの旅行が終わった後でのお楽しみ――なんて、まあ、それで誤魔化されるような一族の女性陣ではないが、連絡が取れない間は、文句も言えず。
従姉の美花は、アン叔母さんの娘3人以外で、唯一の女の従姉とあって、アイラが生まれてからは、美花とアイラは、いつでもどこでもお喋りをする仲だ。
まあ、遠距離の、姉のような扱いで、美花との連絡は欠かしたことはない。
だから、美花は、アイラがアメリカに来ていることを知っている。
でも、この旅行も、アイラの兄であるカイリに邪魔されたくないので、美花は他の一族に、アイラの居場所を知らせていないはずなのだ。
それなのに、今、ロスアンゼルスにやって来ているアイラの元に、あの問題児である靖樹からの電話だ。
仕事の電話、だ。
『ラスベガスに潜伏しているらしい情報が入った』
一体、どこからそんな情報が入ったのか、日本に住んでいるくせに、アメリカの問題にまで、首を突っ込んでくる靖樹だ。
靖樹には、いつも、外国での情報を漏らしてくるのか、売って来るのか、そんな情報人がいる。
日本にいようが、靖樹がその人物とよく連絡を取っているのは、アイラも知っている。
今回もまた、その人物が流してきた情報なのだろうが、日本にいる靖樹がスキップを捕獲したとしても、靖樹の利益にはならないはずなのに。
そうなると、今回は、靖樹に情報を流してきている人物が、女性がいれば? ――なんて、話を持ち掛けてきたのかもしれなかった。
『いつ飛べる?』
『ふざけないでよね、ヤスキ。誰が、あんたの仕事なんかしてやるって、言ったのよ』
『移動とホテルは経費で落ちる。スキップを捕まえた場合、賞金は5分で分ける』
『誰と分けるのよ』
『会えば判る』
どうやら、今回は、靖樹に情報を流している人物が、アイラに会いにやって来るのかもしれなかった。
せっかくの旅行にやって来ているのに、靖樹の仕事で邪魔をされたくなかったが、靖樹の背後にいる人物にも、一度、アイラ自身が会っておく必要はあるかもしれない。
なにしろ、あの問題児の靖樹は、日本にいようがいまいが、仕事が入れば、危険なことを、すぐにしてしまう悪癖がある男だ。
裏でつるんでいる人物が、一体、どんな人間なのか、アイラも確認しておくべきだろう。
『明日。ロスから』
『詳細は、メールで送る』
そして、それだけの会話で、挨拶もなければ、お礼もなし。
勝手に、ぶっつりと、電話を切っている男だ。
忌々し気に、アイラが自分の携帯電話を睨み付けている。
「それで?」
アイラの電話の相手が靖樹と分かり、廉はアイラの邪魔をしなかったが、アイラの会話を聞いていた。
龍之介も(やっと)正気に戻ったようで、興味深そうに、アイラを見やっている。
「ロクデナシヤスキの仕事が入ったわ」
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