その3-01
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ロスアンゼルス二日目。
ホテルでの朝食を終えて、ふと、廉が思い出したように口を開いた。
「そうだ。今夜は、クリスマスのディナーなんて、どう思う?」
「いいわねん~」
速攻で、アイラが賛成した。
「やっぱり、クリスマスだもん。豪勢にしたいわ」
「そうか。それなら、クリスマスディナーを予約したんだ」
「予約?」
「えっ? どこの予約? 廉がしてくれたのか? クリスマスディナーを?」
「そう」
質問攻めの龍之介に対しても、廉は淡々としてあっさりしている。
「今朝、ホテルのレストランで、クリスマスディナーをやってる広告を見たんだ。それで、受付で確認したら、まだ席が空いているらしいから、予約してみたんだ。一応、夜7時に」
「そうなの? ホテル内のレストラン?」
「そう。豪勢なやつ」
やったぁ! と、アイラは嬉しそうに目を輝かせる。
「じゃあ、今夜は、パーク内の食事じゃないのねん」
「そういうことになる。それから、食事は俺の奢り」
「レン、太っ腹ねっ!」
クリスマスのディナーは廉の奢りで、アイラも大喜び。
「いいのか、廉……? 俺は、払うぜ」
「いや、いいよ。今回は、二人と違って、俺は飛行機代がかかってないから、その分を考えれば、ディナーは安いものだよ。まあ、クリスマスプレゼント、かな?」
「クリスマスプレゼント? それは、すごい、嬉しいけど、俺は、廉のプレゼントだって、なにも用意してないんだぜ」
「別に、プレゼントはいらないよ」
「でもなぁ……」
廉にクリスマスディナーを全額払わせてしまうのは、少々、龍之介も気が引けてしまうのだ。
「龍ちゃん、奢ってくれるって言ってるんだから、そういう時は、「ありがとう!」って、素直に受け取るものよ」
「えっ……? そうかなぁ……」
「そうよ。日本の習慣で、遠慮する気持ちは分からないでもないけど、本人が気にしてないのに、何度も、悪いからぁ……なんて、断ってると、奢ってやるって、言ってる本人にも悪いじゃない」
「そうか? ――いや、そうかもな……。ただ、廉に、悪いかなぁと思ってさ……」
「悪いことなんて、あるわけないじゃない。お金のこと気にしているのなら、最初から、奢ってやるとも言わないし、ホテルのディナーだって、予約なんてしないわよ」
「いや……、そう、だようなぁ……」
「そうよ。そういう時は、素直に「ありがとう!」って、お礼を言って、精一杯、料理を楽しめばいいのよ。そっちの方が、奢ってる本人だって、奢り甲斐があったな、って思えるじゃない」
「あっ……、そっか」
アイラに丸め込まれた形ではあったが、それでも、龍之介もそこで考え直してみた。
クリスマスだからと、せっかく、廉がわざわざ二人の為にレストランを予約してくれたのに、うじうじと、その好意を躊躇っていたら、廉にも悪いだろう。
「そっか……。――じゃあ、その、廉の好意に預からせてもらうな。ちゃんと、お礼も言うし」
「せっかくのクリスマスだから、おいしいものでも食べよう」
「おう。ありがとな、廉っ! 今からでも、楽しみだぜ」
「じゃあ、ディナーは7時からだから、5時くらいには終わって、ホテルに戻りたいわ。ディナー前に、シャワーも浴びたいもの」
「いいぜ。昨日、ナイトショーも見たから、今日は見なくてもいいしな。だから、もっと乗り物回りできるな」
「龍ちゃん、襟のついたYシャツくらいは、持ってきてるんでしょうね」
「一応は……」
これは、またも、アイラからしつこく説教されたことだ。
「旅行だからって、カジュアルな洋服ばっかり持ってくるんじゃないわよ」
いつどこで、少し気取った場所に行くか分からないから、旅行だろうと、必ず、一着はセミカジュアルでもいけるような、きちんとした洋服を持ってこい、と龍之介は念を押されていたのだ。
それで、襟のついたYシャツに、一応、背広のズボンだけ、そして、黒い靴も持って来た。
念の為に……。
早速、クリスマスディナーで、一応、持って来た一張羅が役に立つなんて、思いもよらなかった。
「廉もさ、一応、やっぱり……、出かけていけるような洋服、持って来たのか?」
「一応はね」
これは、アイラに言われたからではない。
廉も、移動や旅行が多かった為、その時の機会や状況により、正式な洋服を着なさい、と親に言いつけられたこともあるし、そういう場面に出くわしたこともあるのだ。
それで、一着程度は、外出行きの洋服を持ち歩いていることが多い。
「アイラは――いや、必要ないよな」
「龍ちゃん、それは愚問だよ」
「そうだよな……」
アイラがドレスの一着も持たずに、出かけるはずはない。
「ドレスアップもできないようなら、女が廃るわよ」
などと、過去に、速攻で言い返された位である。
「龍ちゃん、この私が、みすぼらしい格好して、ディナーに行くとでも思ってるの?」
「思わないよ」
「だったら、愚問じゃない」
「そうだな」
全く、その通りだ。
「ああぁ、ディナーがおいしかったわぁ~」
レストランを出て、部屋に戻って来たアイラは、ハンドバッグを気軽にベッドに投げて、おいしいご飯に、随分、満足しているようだ。
「クリスマスに、みすぼらしいご飯じゃなくて、最高~」
「それは良かった」
「そうよん。レンの奢りだから、たくさん食べたし。シャンペンもおいしかったわぁ」
「俺も、たくさん食べちゃった……。簾、ディナー、ありがとなっ。緊張したけど、料理がすごいおいしかったよ」
「それは良かった」
二人のご機嫌の様子を見て、廉も笑っている。
クルリと、アイラが体の向きを変えて、向き直った。
「クリスマスだし、ここは、素直にお礼言わないとね」
「言うの?」
「なによ。いらないなら、いいのよ」
「いるよ」
相変わらずの廉の態度に、少し口を曲げながら、アイラがスタスタと廉の前までやって来る。
スッと、長い腕を伸ばし、廉の首に絡めるようにした。
そして、躊躇いもなく、アイラが廉にキスをしたのだ。
『メリークリスマス、レン。ディナー、おいしかったわぁ~。ありがとねん~』
『どういたしまして』
「おわぁっ……!!」
ものすごい叫び声を上げて、龍之介の顔が真っ赤になっていた。
アイラはまだ廉にぶら下がっているような体勢で、ジロリと、龍之介にその視線だけを向ける。
「龍ちゃん、なんなのよ、一体。その変な叫び声は」
「いや……。その……いや、だから、アイラが廉とキスして――いやっ、俺は見てないぜっ! 見てないからっ――」
激しい動揺を見せ、早口の龍之介は、またもそれを叫んで、クルリと、ものすごい勢いで、二人に背中を向けたのだ。
「龍ちゃん、たかがキスの一つで、そんなに動揺しないでよ。クリスマスなんだから、普通じゃない」
「いや、普通じゃないぜ。日本人には、普通じゃないんだ。アイラの基準じゃないんだ……」
「なに? 龍ちゃんもして欲しいの?」
「いやいやいやっ! 俺はいらないから。絶対に、いらないからっ。しなくていいからっ」
「相変わらず、ものすごい拒絶の仕方ね。失礼ね、ホント。私にキスされて、喜ばない男なんて、いないのよ」
「いや、それはいいけど、でも、俺はいいからっ。俺は、いいんだっ!」
二人に背を向けて、必死で叫んでいる龍之介の動揺は、廉も、少々、同情してしまう。
純な龍之介には、挨拶代わりのキスだろうと、目の前で、廉とアイラがキスした場面を見てしまって、最高潮に動揺しているのだから。
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