その3-05
「転勤で」
「へえ。じゃあさ、東京には大分慣れた? まだ来たばっかりなんだろ? 学校来るまで迷ってないよな。ここの学校、ちょっと都心から外れてるし。敷地が膨大に広いから都心なんかじゃ、建てられなかったんだろうけど。でも、なんでうちの学校?やっぱり、進学目指してるから?――まあ、大抵の奴は進学目指しだから、ここの学校に来るんだけど」
「進学目指しなの?」
「俺は――どこの高校でもいいんだ。大学に行ければ。ただ、うちの身内がちょっとうるさくて……」
ふうん、と簡単な相槌を返したアイラはもらったパンを食べきっていた。スクッ、と椅子から即座に立ち上がって、
「これ、ごちそうさま。それじゃあ」
止める間もなくその狭い隙間を抜けて、アイラはさっさと歩き出してしまった。
あまりの素早さに、龍之介のなにか言いかけた行動がポカンと止まっている。
「ああ、逃げられちゃった」
「素早いな」
「本当に怪しいな」
「怪しすぎかもな。後ろめたさがあるな」
ふーむ、とまた二人でそんなことを口にしている横で、龍之介は不可思議そうに顔をちょっとしかめてしまった。
「なんで、怪しい?」
「怪しいでしょう?あれは、ねえ」
「なんで?」
「だって、即効で逃げ去っちゃたじゃないか。質問されても、答えることもないし」
「話をいつもそらしている感じだな」
「そう――かな……」
そうそう、と二人があからさまに断言するので龍之介は、手元のパンをちょっと見下ろしながら、
「なんで――怪しいんだろ」
「さあねえ。理由がないと怪しくはないだろう?」
「そう、だけど――。廉も、そう思うのか?」
「さあ」
「思わない?」
「さあ。俺はこの二人みたいに機転が利くわけじゃないから、そういうのは分からないな」
つらっとして平気でそんなことを口にしているのは本心なのか、そうでないのか。
前に座っている大曽根と井柳院の顔が、
「よく言うぜ」
としらーっと白い目を向けていたのは間違いない。
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