その2-03
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「いいなぁ……。簾とアイラは背が高くてさっ……」
「場所を代わってあげてもいいけど――あんまり、意味がないかな」
「いや、それはいいよ」
左側になろうが、右側になろうが、混雑した状況は変わらない。
「じゃあ、レンに肩車してもらえば?」
「いや……、さすがに、それはいいよ。俺は、背が……小さいけど、そこまで、子供じゃないしさ……」
「俺も、さすがに、大の男を担ぐなんて無理だよ」
まあ、人込みには埋もれてしまっているが、パレードは、目線の高さのやつばかりじゃないはずだ。
だから、顔を上げて見上げる形なら、龍之介だってパレードは見れる。
「あっ、やって来たみたい」
「本当か?」
「あっちの方で、灯りがたくさん見えるわ」
そうしている間に、軽快な音楽と共に、煌々と光るライトが覆い尽くすほどのイルミネーションが移動してきて、周り中から歓声が上がる。
「龍ちゃん見える?」
「背伸びしてるから、見えるぜっ。大丈夫」
巨大な乗り物がイルミネーションで煌々と飾られていて、マッキーマウスが移動してくる。
「これを見ると、〇ニーランドに来たって感じがするわねえ」
「確かに」
「おぉぉっ! すごいなぁ」
身動きできないほどの混雑した中、メインストリートで、次々に、煌々と派手なイルミネーションを飾った乗り物が移動していく。
「アイラ、こっちにおいで」
グイッと、廉がアイラの肩を抱き、自分の前に立たせるようにした。
「ほら。バッグを抱えて、これで前を守ればいい」
廉がもたされていたアイラのバッグをアイラの胸側に返し、空いた手で、廉がバッグごとアイラを抱えるように腕を前に伸ばしていた。
アイラは廉と龍之介の両方の腕で腕組みしていたが、龍之介が隣で背伸びして立ち上がっているので、その隙間から、前方にいた体格のいい男が、パレード見たさに、体を前後に移動して来るのだ。
それで、アイラが無理矢理押されて、窮屈な状態だったので、廉がアイラをどかせていたのだ。
「さすがの人込みね……」
「確かに」
「そして、龍ちゃんは、隣でもみくちゃにされてるけど、全然、平気でいるわ」
人混みの歓声と騒音、パレードの興奮と軽快な音楽に混ざり、龍之介はずっと背伸びしたままで、周りの人込みからももみくちゃにされているが、全然、堪えていないようだった。
「さすが、龍ちゃんだ」
そこで、変な感心をしている廉だった。
パレードが終わると、一気にその場にいた人混みがまた動き出す。
ゾロゾロと帰宅する団体も多く、大波がうなるようにその場を去って行くかのようだった。
「ああ、パレードも本場ものだなぁっ! ――あれ? なんで、二人で抱き合ってるんだ?」
一人、興奮が収まったような龍之介は隣に目をやり、不思議そうに首を傾げてみせた。
アイラは前でバッグを抱えていて、廉は、そのアイラとバッグごと後ろから抱えるようにしていたのだ。
「龍ちゃん、もみくちゃにされても、全然、平気っぽいわね」
「まあ、混雑してたからな。仕方ないだろう?」
「仕方ないで、全然、平気なところが、龍ちゃんよねぇ」
アイラも、随分、変な感心をしている。
「もしかして、アイラも押し潰されたのか?」
「そうね」
「そうか。アイラは背が高かったから、大丈夫かなと思ったんだけどな」
「でも、アイラは女の子だから、体格のいい男に押されたら、吹っ飛ばされちゃうだろうね」
「そっか。それは、大変だったな」
それで、今、龍之介も気が付いたが、廉がそのアイラをかばっていたのだろう。
こういうところは、廉は、いつも、紳士だ。
「廉は大丈夫なのか?」
「まあ、一応は。これも、いい経験をしたかな」
「人込みはすごいけど、パレードはきれいだったよな」
「まあね」
廉がアイラから腕を外すと、アイラは自分のバッグを背負い直していた。
「人混みが落ち着いたら、シンデレラ城とか、記念写真だけでも撮って帰りましょうよ」
「記念写真だけか?」
「明日は、こっち側で遊ぶけど、夜遅くまでいるかは分からないじゃない? お城のイルミネーションとかもすごいのよ、龍ちゃん。きれいなんだから」
「そうかぁ。じゃあ、写真だけでも撮って帰ろうか」
そして、出口に向かってゾロゾロと移動し始めている団体とは反対に、三人はストリートの奥に足を進めて行く。
夜のイルミネーションだけではなく、クリスマスシーズンの豪華なイルミネーションも混ざって、普通の乗り物の場所も、どこもかしこも煌々と鮮やかな色が照らし出されていた。
「今日は、最高~! 一日の歩き疲れもあるけど、楽しかったわぁ」
「俺も、楽しかった」
そしてまた、二人の顔が、クルリと、廉に向けられる。
廉も苦笑いして、
「楽しかったよ」
「そうでしょう、そうでしょう」
それを聞いて、アイラも随分満足げだった。
そうやって、何度も確かめなくても、初めて〇ニーランドにやって来た廉は、アイラと龍之介と一緒に遊んで、随分、楽しんでいるのだ。
廉は子供の時から移動が多くて、こうやって、友人と一緒に出掛けて、一日中、過ごした経験はない。
遊園地に一緒に行ったこともない。
家族でそういった場所に行ったのは、廉が本当に小さな子供の時に一度だけだ。
だから、大人になって遊園地にやって来たのも初めてだったし、友人とパレードまで見たり、夜遅くまで遊園地に入り浸ったのだって、今日が初めてだ。
随分、楽しい一日だった。
「アイラのことだから、たくさんの記念写真を送ってくれるんだろう?」
「当然じゃない。でも、いい加減、自分の写真くらいは、自分で撮りなさいよね」
「いや。アイラと龍ちゃんが送ってくれるから、俺はいいんだ」
「面倒臭がり屋ね」
「違うよ」
「そうじゃない」
廉は、昔から、特別の記念写真など、あまり興味がないほうだ。
でも、アイラは、いつでも、どこでも、たくさんの写真を撮って帰る。
家族に見せる為に。話をする為に。記念になる為に。思い出になる為に。
その全部を廉にも分けてくれるので、廉は自分自身で写真を撮る必要を全く感じないのだ。
アイラの部屋には、気に入った写真はプリントされて、写真立てに飾ってあった。
家族の写真も、たくさんあった。
そして、あの時は、一枚だけ、お正月に着物を着たアイラと一緒に、龍之介と廉で撮った三人の写真も飾ってあった。
あれから、アイラの部屋に写真が増えたのかどうかは知らないが、今回の旅行で撮った三人の写真でも、また飾るのだろうか。
読んでいただきありがとうございました。
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