その1-02
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「龍ちゃんったら、いつ着いたの? 今朝じゃなかったの?」
「俺は、昨日着いたんだ。夕方だったんだけどな。飛行機の予約した時に、今朝で着くやつより、一万円多く払ったら、夜を越さないでサンフランシスコに来れるって分かったから、その分払ったんだ」
「あら、そう。一人で、税関とか通れたの?」
「いや、緊張したけど、俺は一度も引っかからなかったぜ」
龍之介は、見るからに、問題もなさそうな日本人で、少々、童顔に見えることを除けは、全くの安全圏だ。
止められることも、滅多にないだろう。
駐車場に向けて三人がゆっくりと動き出した。
「NZ は真夏なんだけど」
「そうだよなぁ。南半球だもんな。俺は、今回は、冬から冬だったから、全然、問題ないんだ」
「今までは、真冬から真夏だったもんね」
「そうそう」
「ねえ、レン、なにか飲み物買いたいわ」
「ジュースじゃなくて、お水とか?」
「ジュースは、もう、いいわ。フライト中に、結構、飲んだから。でも、ヒーター入ったり、空気が乾燥してるから、喉が渇いたのよね」
「パーキングに行く前に、空港内のお店に戻る?」
「それはいいわ。レンの家に行くついでに、どこか寄ってよ」
「お水なら、家に着いてからでもできるけど。空港から街中まで、十分程なんだ」
「え? そうなの? それなら、レンの家まで待つわよ」
国際空港からダウンタウンの街中に行くのに、ほとんど時間がかからないではないか。
「そう言えば、アメリカには何度も来てるけど、サンフランシスコにやって来たのは、今回が初めてだわ」
「じゃあ、アイラにも観光になるようだ」
「そうねん」
二人の会話を聞きながら、龍之介も、ふと、思うことがあった。
「あっ……」
「なによ、龍ちゃん」
「いやさ……、今回は、俺の希望って言うか、そのさ……俺がアメリカに来たことなかったから、アメリカ旅行になったけど、廉には、あんまり旅行の気分にならないかなぁ……。悪かったな、廉」
「俺は、気にしてないよ。俺はアメリカにいて長いけど、だからと言って、一人旅したことはないから、知らない場所もたくさんあるしね」
「そうなのか?」
「龍ちゃん、アメリカ大陸なんて、でっかいのよ。東西で分けても、ものすごい広くて、その全部を見て回るなんて、何カ月もかかるんだから」
「そうなのか?」
ああ、でも、龍之介だって、日本にいるのに、日本全土を見て回ったことはない。
日本にいるから、まあ、国内旅行はいつでもいけるか、なんて、つい考えてしまうほうだ。
だから、北海道にやって来て、龍之介は友達と一緒にドライブに出かけたり、キャンプに出掛けたりと、北海道旅行は満喫しているが、東京にいた時は、修学旅行以外、それと、武道大会の移動くらいしか、違う場所に行ったことがなかった。
「じゃあさ、廉とアイラが行ったことのない場所も行ってみようか」
「今回は、一ヶ月近くも遊ぶんだから、色々できるわよ。龍ちゃん、ちゃんと、しっかり稼いできたの?」
「おうよっ! 今回だって、俺も、たくさん遊ぶぞーっ!」
「あら、私だって遊びまくるわよ」
旅疲れも見せず、二人の意気揚々とした熱気に、廉もおかしそうに笑っていた。
今年の年末はどうなることかと思いきや、どうやら、今年も、三人で、また騒がしく遊べることができるようだ。
「ここだよ」
「どこ」
通りの道端に車を停めた廉に、アイラは窓越しから外を覗いてみた。
「向かい側の入り口に、白いアーチがある所」
「なんかな、すごい場所なんだぜ。俺も最初に来た日は、感動しちゃったくらいだしさ」
よく判らない龍之介の説明だったが、龍之介は何でも素直に感心するので、今回は何に感心をしたのだろうか――と、アイラもそんなことを考えていた。
車から下りると、廉がトランクを開けて、アイラのスーツケースと他の荷物を取り出していく。
「龍ちゃん、スーツケースは重いから、レンにやらせればいいのよ」
「なんでだ?」
「身長さから言ったら、レンの方が、スーツケースに合ってるでしょう」
「そりゃあさ……、廉の方が、背が高いけど――俺も力はあるぜ」
「別に、比べたんじゃないわよ。でもまあ、龍ちゃんは力持ちだから、私はどっちでもいいけど」
「それでやっぱり、君は荷物無しなんだな」
龍之介が言い張るので、スーツケースの方を龍之介に渡して、もう一つの荷物を廉が取り上げながら、廉がそれを指摘した。
「あら、レディーファーストじゃない」
「こういう時だけ、いっつも、レディーファーストだ」
「いいじゃない。女の特権よね」
言い返す気も失せて、廉は荷物を片手に持ちながら、龍之介とアイラの二人を通り側に呼ぶようにして、動き出した。
二人が揃って廉の後ろをついていく。
『Mr.シバザキ。お帰りなさいませ』
『Mr.スミス。こちらの女性は、俺のもう一人の友人です。しばらく、ここに泊まりますので』
『わかりました。――ミス、ようこそ』
『どうも。――Mr.スミス?』
『はい』
『よろしくね。しばらくお世話になるわ』
満面の笑みを投げてアイラが挨拶し、入り口に立っていたバトラーの前を通り過ぎていく。
その後を、龍之介と廉が入ってきていた。
入り口のドアを通り抜けるとすぐに、昔風の開き扉のエレベーターがあって、上のボタンを押すと、時計の針のようなものが、チン、チンっと、上の階の番号からゆっくりと下がってくる。
1階に下りてきたエレベーターが到着したので、その外扉を開いて、アイラが中に進んでいった。
「何階なの?」
「3階」
それで、丸ポチのボタンを押したアイラの横で、廉が外の扉を閉めていた。
「こんな所に住んでるわけ? 随分、お坊ちゃまなのねぇ」
「ここは、両親が買った場所なんで、俺は、ただ、部屋を使ってるだけだよ」
「広い部屋なんだぜ。なんかな、西洋の本とかに出てくるような部屋だし」
へえと、アイラも多少の興味をみせていた。
いつも冷静沈着で、全く物事に動じないこの廉は、龍之介同様、知り合ってから、大分、経つのだが、どうも、本人自身の生活感が全く想像できない男だった。
平然とした態度で、顔で、様子で、問題もなく、なんとなく、何でもこなしているようだし、本人自身もできないことがあってもがいている――というような素振りもないものだから、本当に、実生活が想像しにくい男だったのだ。
3人で、毎回、旅行を共にすることが多くなって、旅行では、ある程度、それぞれの知らない面も見始めてきたり、知り始めたりしたが、それでも、本人の自宅に行って、その生活を見ない限り、まだまだ、知らないことはあるのである。
チンと、金が鳴って3階に到着した一行は、エレベーターを降りて、廉のアパートに入っていく。
「この部屋を使っていいよ。龍ちゃんと俺の部屋は、居間を挟んで向こう側だから」
入り口から細長い通路を抜けて、居間に入る前の左手の部屋が、アイラにあてがわれたようで、アイラは、一歩、部屋の中に入って、サッと、周囲を見渡した。
「あのドアは?」
「続きのバスルームだよ。もう一つは、向こうの寝室側の隣にある」
「エンスーツ? ――ここ、両親の部屋なんでしょう。いいの?」
「俺の両親がいた時はそうだったけど、今は、二人共イギリスだ。龍ちゃんとアイラがいる間に、俺の両親が帰ってくることもないから」
「大きな部屋だろ? それに、部屋にバスルームもついてるから、アイラだったら、この部屋がいいって言うと思って、俺はあっちの部屋にしたんだ」
「それは、どうも」
「俺達は、居間にいるから」
廉が荷物を入り口の近くに置き、龍之介も廉に習って、スーツケースをその荷物の隣に置いていた。
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