Epilogue 02
【マレーシア編】はこれで終わりになります。長い間、お付き合いくださり、ありがとうございました。
次は、【アメリカ編】に突入です。一応、5月27日(金曜日)を投稿として予定していますので、その時に、またお会いしましょう •͙‧⁺o(⁎˃ᴗ˂⁎)o⁺‧•͙‧⁺
「龍ちゃんは、どうなのよ?」
「俺? 俺は、普通だぜ」
「でも、龍ちゃんの両親にだけ、まだ会ってないわね」
「まあな。二人共日本だしな。俺も、東京じゃなくて、今の所、北海道だからさ。でも、そういう機会があったら、ちゃんと紹介するぜ。でも、普通の両親だけど」
「それは、アイラと俺の両親が普通じゃない、と聞こえるけど」
「え? そんなこと言ってないぜ。いや――さ……、変って言う意味じゃなくてさ……。いや、だからさ、その……、俺の両親とは違う、って意味で……」
そして、素直な龍之介は、いつものごとく、大焦りで説明し直してくれる。
アイラと廉が、クスクスと笑っていた。
それで、からかわれたと気づいた龍之介が、ぷぅっと、少しだけ頬を膨らませてみせた。
「ひどいぜ。からかうなんて」
「龍ちゃんの反応が良くて」
「あら、いいじゃない、龍ちゃん。龍ちゃんって、ホント、素直だもんねえ」
「それ、あんまり褒めてるように聞こえないぜ」
「そんなことないわよ」
それで、シンガポール最後の夜、旅行最後の夜、時間が許す限り、三人は、最後の時間を楽しんでいた。
「龍ちゃん、元気でね~」
「お、おう……。アイラも、元気でな」
ぎゅうっと、しっかりとアイラに抱きしめられて、ワタワタしながら、龍之介も、ちょっとだけ、アイラを抱き返すようにした。
アイラと廉は、龍之介より先に、飛行機の便が出るのだ。
それで、龍之介はかなり時間があったが、一人ですることもないので、アイラと廉と一緒に、すでにマレーシアの国際空港に来ていた。
これで、本当に、またお別れの時がやって来てしまった。
「家に戻ったら、旅行の写真を整理して送ってあげるから」
「うん、よろしくな。俺も、整理して、いいのがあったら送るからさ」
「そうね」
アイラが離れて行って、龍之介の視線が廉に向く。
「廉も、元気でな」
「ありがとう。龍ちゃんも、元気で。獣医の勉強、頑張って」
「おう、サンキューな」
「今年の冬休みはどうなるか分からないけど、もし旅行ができなかったとしても、龍ちゃんが獣医の免許を取れたなら、その時は、一度だけ、お祝いに来れると思う」
「え? そうなのか? それなら、もっと、やる気出して、がんばんないとなぁ。そうしたら、廉とも会えるかもしれないしな」
「あら? それくらいのお祝いなら、私だって、来れるわよ」
「本当か? じゃあ、もしかして、俺の獣医免許に、三人で会える機会が懸かってるのかなあ」
「たぶんね。まあ、今年の年末の話は、まだ分からないけど」
「まあ、そうだけどな」
そして、また、アイラと廉が最後の挨拶を済まし、龍之介と別れていた。
セキュリティーゲートを過ぎて行き、南半球と北半球への搭乗口は全く違う。
それで、アイラが簾にも、ぎゅぅっと抱きついていた。
『それじゃあねん』
『今日は、ハグするんだな』
『そりゃあ、お別れの時だもんね』
廉も軽くアイラを抱きしめ返していた。
『アイラも、元気で。あまり無理しないように』
『若いからできるのよ』
その口調だと、また、無理をするらしい。
『やっぱり、学生の間じゃなきゃ、遊びまくれないわよねえ』
『まあ、それはあるかな』
『だから、もう一個くらいペーパー加えようかな』
でも、アイラが取っている教科は、数も量も――尋常ならない量だ……。
『それで、今年の最後に旅行ができるわ』
『そう。まあ、あまり無理をしないように』
遊ぶことに命を懸けているアイラだと、遊び代を稼ぐのに、また、二つも三つもバイトの掛け持ちで――寝る暇もなくなってしまうことだろう。
『君は、いつでも無理をするタイプだからね』
『若いからできるのよ。今のうち、でしょ』
そう、とも言うのだろうか……?
それで、まだ廉にぶら下がってるようなアイラが、いきなり、チュッと、廉にキスしてきたのだ。
『今日は、随分、寛大だね』
『まあ、お別れだからね』
スッと腕を外し、それで、アイラが離れて行く。
『じゃあねん、レン』
その笑顔を投げて、アイラが颯爽とその場を去って行く。
その際も、もう、一度も廉を振り返らずに。
どうやら、最後のキスは、アイラのお礼返しだったようだ。
ハチャメチャで、豪快で、時には、意見が強く、行動も強くて早い。
でも、アイラは義理堅いし、筋の通らないことはしない。
今回は、予定にないボーナスが入り、三人で分けても、随分、たくさん遊べるボーナスが入ったものだ。
だが、廉はショッピングにも興味がないし、元々、旅費にかかる費用や経費は、自分の持っているクレジットカードでの支払いがほとんどだった為、ボーナス分はほとんど使い道がなかったのだ。
それで、今朝、最後の確認をして、スーツケースに荷物を詰め終わった頃合いに、廉は、アイラにもらったボーナスを返していたのだ。
廉は、アメリカンに帰ってもバイトをする必要はない。今の所、両親が廉の生活費を支払ってくれているから、自活していても、生活費にも困らない。
だが、アイラは、学費以外は、全額自持ちで、自活をしている。
だから、マレーシアのお金だったが、それでも、換金したら、少しは生活費の足しになるだろう。
アイラは、もらえるものはもらうし、わざわざ遠慮はしない。
そうやって、本人がお金をくれると言っているのだから、わざわざ二度聞きして、遠慮をするタイプじゃないのだ。
「嫌なら、初めから、お金をやるなんて、言わないじゃない」
わざわざ、名義上やら、立場上だけの意味のない会話をしないアイラだ。
そのアイラを知っている廉だから、ボーナス分は、アイラに返していたのだ。
廉も、こんな風に、友人と旅行をしたり、ずっと一緒にいた経験などない。
両親の転勤が多くて、学校が変わり、クラスが変わり、顔を覚えるのに、名前を覚えるのに、勉強に追いついていくのに、そんなことばかりで、多忙な毎日だけが過ぎて行った。
だから、龍之介の話ではないが、こうやって三人で旅行ができて、それから、少しずつだけど、もっと、お互いのことを知って行って、家族や身内のことも知って行って、そんな関係を持ったのは、初めてかもしれない。
『確かに、学生の間だけ、こうやって、自由でいられるね』
アイラの普段からの多忙さに加え、またも大学の教科を増やしてしまったら、アイラなんて――もう、死ぬほど忙しいこと間違いなし。
それでも――
今年の年末、また、三人で旅行ができれば、楽しいことだろう。
日本からと、NZからと、アメリカからの、三人が。
廉も、少々、期待してしまうものだ。
読んでいただきありがとうございました。
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