表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やっぱりやらねば  作者: Anastasia
Part2-マレーシア編
159/215

その19-02

ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります! どうぞよろしくお願いいたします。

「俺は、空港でチケット買うのでいいぜ。現金使ってないから、どうしようかなって、考えてたんだ」

「そうか」


「それより、今の会話、お母さん?」

「そうだよ」


 へえぇぇぇと、アイラも不思議な相槌を返す。


「自分のお母さんに、あんな丁寧な会話で話すわけ?」

「うちは、いつも、あんな感じなんだ」


 へえぇぇぇぇと、更に、アイラが不思議そうな相槌を出す。


 アイラにとって、家族や身内の会話で、わざわざ敬語を使ったりするような会話は初めてなのである。


 もしかして、廉の家は、結構、堅苦しい家なのでは、なんて考えがアイラの頭にも浮かんでくる。


 急遽、予定変更になって、デザートが運ばれてくると、その間も、アイラと龍之介は、シンガポールで簡単にできる観光の計画で忙しい。

 少々、お行儀悪くなってしまうが、デザートを食べながら、携帯電話で、シンガポールの観光スポットを検索してしまう。


「俺、マー・ライオンって見てみたいな」

「それは、有名だもんね」


「そうそう」


 わいわいと、賑やかな会話が続きながら、その夜は過ぎて行った。



* * *



「ああ、廉。久しぶりですね」


 コロコロと、手荷物用の小さなスーツケースを押して、上品そうな女性が廉の姿を見つけていた。


「ああ、廉。久しぶりだな」


 そして、その隣を歩いて来る年配の男性も、廉の姿を見つけていた。


「お久しぶりです」


 そして、廉と言えば、普段と全く変わらない淡々とした態度である。


 実は――廉に付き添って一緒に空港にやって来ていたアイラは、顔には出さないようにしていたが、家族や身内内で、あまりにも――淡々とした挨拶を交わす簾の一家に、ものすごい驚いていたのだ。



――えっ……、なに?! もしかして、これが、日本式の挨拶なの?!



 なにしろ、アイラと言えば、生まれた時から、家族や身内、親しい人との挨拶と言えば、全員でハグをするのが習慣だ。


 それがあまりに当たり前の環境として育って来たアイラにとって、今、見ている廉の家族の挨拶は――さすがに、驚きだったのだ。


 それも、ただ、距離を置いて立ったまま、「久しぶりですね」なんて、ハグもしなければ、握手もしない。


 あまりにあっさりし過ぎているような、淡々とした挨拶など、生まれてこの方、お目にかかったことがなかったアイラだ。


 廉の両親の視線が、後ろにいる龍之介とアイラに向けられた。


「こちらは、俺の友人です。菊川龍之介さんと、柴岬藍羅さんです」


 “さん”付で紹介されたのも、アイラには初めての経験だ。


「ああ、それは、初めまして。今日は、わざわざ来ていただいて、申し訳ありません」


 廉の父親が(あまりに)礼儀正しい挨拶をする。


「あっ、いえ……。お初にお目にかかります……」


 ペコっと、龍之介がその場で頭を下げていた。


「初めまして。お会いできて、光栄です」


 ペコっとなど、頭を下げたお辞儀などしたことはないが、この場は――仕方がない……。

 それで、アイラも(仕方なく)頭だけを少し下げたような挨拶をしてみせた。


「そうですか。いつも、廉がお世話になっています」

「いえ……」


 廉の父親は、その年代では、きっと背の高い方なのだろう。

 ポロシャツに、紺色のブレザーを着て、カジュアルっぽく見えるが、それでも、真っ直ぐに伸びた姿勢や、その雰囲気が、裕福なお金持ちである様相を醸し出していた。


 廉って、もしかして、お金持ちのお坊ちゃんだったんじゃ……。


 これは、アイラだけではなく、龍之介の頭にも、ふと、浮かんだことだった。


 高校最後の一年。同じクラスになって友達になった廉だ。

 アイラも、廉と龍之介が高校生の時に知り合いになって、それから、友達になって、付き合いが続いている。


 それでも、この廉は、いつも淡々としていて、何にも動じたことがなく(動じたことだってあるの?)、自分からうるさく話しかけてくるタイプでもなくて、大抵、龍之介とアイラの二人に挟まれて、ただ、二人のはしゃぐ様子を眺めているタイプだ。


 だからと言って、無口な男でもない。

 アイラとは気が合うのか、大抵、毎回、言い合いをしている(龍之介には、面白い光景だった)。


 高校生の時は、一人暮らしをしていて、マンションで、一人で自活していた。


 その時だって、あまり、生活感を感じさせない男だな、とアイラだって思っていたほどだ。


 それからも、あまり、生活感がにじみ出て来なくて、普段の生活が想像できないような、本人だったのだ。


 今日、シンガポールに朝早くやって来て、三人は、市内観光をちょっとだけ済ませている。


 その時に、「お友達もいらしているのなら、もし迷惑でなければ、ご一緒にどうかしら?」などと、母親からのメールの知らせが入っていたらしい。


 久しぶりに会う息子の友人もやって来ているので、是非、会えたら――なんていう、会話だったらしい。


 邪魔をするつもりはなかった龍之介とアイラだったのに、廉の両親に会える興味心も(ぬぐ)えず、誘われたので、結局は、龍之介とアイラも、廉に付き添って、空港までやって来た、というのが話の次第だったのだ。


 廉の母親の方も、上品そうなワンピースを着ていて、長旅のフライトをしてきた影響など全く見られない。

 お化粧も落ちていなくて、ワンピースだって、皺だらけにもなっていない。


 廉の両親って、こういう人達だったんだなぁ(だったのねぇ)と、龍之介とアイラの二人も、感心してしまっていた。


 なんだか、アイラの一族に迫られて、ものすごい勢いで歓迎されてしまった挨拶を思い出すと――天と地ほどの差があるような気がする……。


 でも、龍之介は日本人で、そういった挨拶が普通だったのだが、ここしばらく、アイラの一族の習慣に感化されてしまって、それを、一瞬、忘れてしまっていた竜之介だった。


「二人共、あまり、変わりはないようですね」

「ええ、そうですね。廉も、変わりありませんか?」

「ありません」


 そして、端的で、淡々とした、廉の態度だ。


 廉の両親もその簾に慣れているのか、それが普通なのか、特に気にした様子はない。


「修一にも、今回、一緒に誘ってみたのですが、仕事で忙しいようでしてね」

「そうですか」


 そして、全く廉からは想像できない、噂の“お兄ちゃん”の話題が出てきているようだが、それ以上の情報は出てきそうにもなかった。


「ここで、立話もなんだから、カフェにでも入ろうか」


 廉の父親から提案されて、空港についてきたアイラと龍之介も、特別、反対はない。


 空港内にある、お洒落なカフォを見つけ、テーブルについていた。


「皆さんは、どのようにして知り合ったのかしら?」


 無害な質問で、廉の母親がテーブル越しから聞いて来た。


「高校の関係で」

「そうでしたか。日本には、どのくらい滞在するんですか?」


 廉の母親が隣に座っている夫に顔を向ける。


「一週間程。仕事でね」

「そうですか」


「皆さんは、マレーシア旅行、どうでしたか?」


 そして、また、当たり障りのない質問が投げられた。


 アイラは龍之介の隣に座り、大人しくジュースをすすっている。


 これは――龍之介が返答をすれば? の態度であるのは、間違いなし。


「あっ、とても楽しかったです。クリスマスとお正月を兼ねて、でしたから」

「そうですか。それは、良かったですね。簾も楽しめたようで、安心しました」

「ええ、良い休暇でしたから」


「廉に、こうして会うのも、随分、久しぶりですね」

「そうですね」


「もう、三年ほどになるのかしら……?」

「いえ、たぶん、四年半くらいになると思います」


「ああ、そうでしたね……。最後は、まだ高校生の時でしたから――」


 そして、どこの高校に行っていたのかは知らないが、高校最後の年は日本にやって来て、日本の生活をした簾だ。


 その後は、日本の大学にも行っていたが、すぐにアメリカの大学に編入し直し、今に至っている。


 この話の内容からすると、すでに、日本にやってくる前から、両親とは別々に暮らしてたような話しぶりだ。


 そんな若い時から、ずっと、一人で生活してきたのか? と、龍之介とアイラも、新たな謎を発見し、口には出さずに不思議がっている。


「大学の方はどうですか?」

「順調です。日本にいた分、半年分の教科が、少し、ずれてしまいましたが」


「ああ、そう言っていましたね。それは、どうするんですか?」

「半年遅れですから、卒業の方も、半年遅れになるでしょう」


「そうですか」


 そして、家庭内の会話をしているはずなのに、なにか……こう、ものすごい他人行儀な会話に聞こえてしまうのは、アイラの気のせいなのか。


 こんな、淡々として、あっさりと、質問と答えだけの会話など、アイラも初めてである。


 もっと、こう、打ち解けて、楽しくお喋りなんて、この家族ならしなさそうな雰囲気で、なんとも奇妙な家族の再会の場に居合わせたものである。


 それから、廉の両親は五時間ほどシンガポールにいる予定だったのだが、飛行機の乗り換えなので、二時間前にはまた空港ゲートに戻って行かなければならない。


 それで、廉を含めたこぶ付き二人と、会話は弾んだような(弾んだのか……)?


 二時間ほど、カフェで過ごし、廉の両親とお別れを言っていた。


「では、体に気を付けて、勉強に頑張ってくださいね」


 最後まで、丁寧で、そんな挨拶だった。


 今日は、廉の両親に会えて、少しは廉のことも解ったのかな?



読んでいただきありがとうございました。

一番下に、『小説家になろう勝手にランキング』のランキングタグをいれてみました。クリックしていただけたら、嬉しいです。


Twitter: @pratvurst (aka Anastasia)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングタグ、クリックしていただけたら嬉しいです (♥︎︎ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
小説家になろう 勝手にランキング

大人になってもはちゃめちゃ恋愛物語『やっぱりやらねば(続)』は大人の恋愛編です。
やっぱりやらねば(続)(18歳以上)

別作品で、“王道”外れた異世界転生物語も、どうぞよろしくお願いいたします。
奮闘記などと呼ばない(18歳以上)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ