その19-01
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ペナンでの観光も終え、全員が、ペナンからクアラルンパー(注:日本読みでは、クアラルンプル)に戻って来てた。
この旅行で仲良くなったウィリアムとマイケルは、クアラルンパーに戻って来たその夜、イギリス行きの飛行機が出るらしく、「じゃあな」と、簡単な別れの挨拶を済まし、二人は空港に向かった。
短期間ではあったが、ウィリアムとマイケルとは仲良くなり、よく、一緒にも遊んだし、その過程で、色々な話もした。
だから、別れになると、少々、寂しさが上がって来るものだ。
特に、二人はイギリスに在住しているから、電話などで声はきけるかもしれないが、もう、たぶん、会うこともない距離で、間柄だ。
龍之介達の休暇も、そろそろ、終わりに近づいてきている。
クアラルンパーが最後の観光地の予定だったので、この観光が終えれば、また、それぞれに、自分の住んでいる国に戻って行く。
クアラルンパーにやって来ると、アイラは、早速、ショッピングに出かけ、龍之介と廉から離れて自由行動だ。
その日、一日は、ショッピングを満喫したらしく、ホテルの部屋に戻って、アイラを訪ねて行ったら、アイラの部屋は、ショッピングの紙袋などで溢れかえっていた。
「すごいな、アイラ……」
ベッドの上にも、椅子にも、テーブルの上にも置かれた紙袋の山……。
持っているおこずかいを全部使いきったような勢いでの、ショッピング三昧。
「これ……、どうやって、スーツケースに入れるんだ?」
「ほとんどは洋服だから、丸めれば、それほどの量じゃないわよ」
「ええ……? そう、かなぁ……」
龍之介と廉は、ショッピングに興味がないので、その日は市内観光を済ませていた。
その夜は、クアラルンパーでも、超高級レストランに入るレストランで食事となった。
今回は――思ってもみないボーナスが出ただけに、奮発して、超高級レストランでも食事なったのだ。
その為……、龍之介と廉は、またも、スーツを着る羽目になってしまったが……。
生まれてこの方、超高級レストランになど行った経験がない龍之介は、レストラン内でも緊張し、食事中だって、粗相をしないように緊張しまくりだったから、食事がおいしかったのか、そうでなかったのか、あまり覚えていない。
「バカねぇ、龍ちゃんったら。ちょっと格式張っていようが、食事なんて、どこも同じでしょう?」
その龍之介の様子に、あまりに呆れているアイラだ。
「いやいや……。そんなことは、ないと思うぞ……」
やっぱり、雰囲気に呑まれる――とかあると思うし……。
それで、デザートを待っている間、廉の携帯電話が鳴っていた。
この休暇にやって来てから、自分達の携帯電話に電話がかかってくることなど滅多にない。
龍之介だって、友達には、
「マレーシアに旅行に行くんだっ!」
と宣言してきたので、LIMEくらいのメッセージは来ても、電話は全くかかってこなかった。
それで、廉の電話がなって、龍之介もアイラも珍しそうに簾を見ている。
「廉です」
「ああ、廉、久しぶりですね」
電話の向こうでは、廉の――母親が電話をかけてきていた。
「ええ、久しぶりですね」
「確か――今は、マレーシアに旅行に行っていると、思いましたが?」
「ええ、そうです」
「そうですか。――実は、お父さんが、急遽、東京に戻ることになりまして、それで、ストップオーバーで、シンガポールに停まることになったんです」
廉の耳に入って来る微かな雑音は、きっと、母が飛行機の中から電話をかけているかもしれないことを、思わせた。
ガサガサと、機械音が混ざって、声が遠くに聞こえるのだ。
「廉は――まだ、マレーシアにいるようですから、せっかくですので、シンガポールで会うことはできませんか?」
「いつですか?」
「シンガポールには、明日の午後に到着する予定なのですよ」
「そうですか。俺は――問題ではありませんが、友人にも確認してみますので、ちょっと待ってください」
それで、廉が携帯電話を少し押さえ、声を聞かせないようにしながら、興味津々で廉を見ている二人に向き直る。
「俺の両親が、明日、シンガポールにやって来るらしいんだ。それで、せっかくだからと、シンガポールで会えないかと、誘われたんだ」
「レンの両親? だったら、会いに行けばいいじゃない。シンガポールなんて、すぐ隣だもの」
「そうだよ、廉。廉のご両親って、海外に住んでいるんだろう? それなら、廉と会うのも久しぶりなんじゃないのか?」
「そうだね」
「だったら、せっかくだから、会いに行けよ。シンガポールって隣の国だから――そんなに、時間かかるのか?」
「それは、交通手段によるわよ。飛行機なら、一時間程度じゃないの?」
「そうなのか? それなら、すぐだな。やっぱり、新年の挨拶もあるだろうからさ、ご両親に会いに行くべきだよ。俺達のことは、気にするなよな」
「あら? 何言ってるの、龍ちゃんったら」
龍之介の言葉に、アイラが意味深な眼差しを向けて来る。
「え? なにがだ?」
「私達だって、シンガポールに行ったっていいじゃない」
「えっ? 俺達が? でも、廉のご両親に会いに行くんだろう?」
「あら? 別に、うちらは、シンガポール市内の観光を続けてればいいだけじゃない。廉が両親に会いに行ってる間、邪魔もしないわよ」
「あっ――そっか」
棚から牡丹餅……だったかもしれない。
盲点である。
別に、龍之介とアイラが、クアラルンパーに残らなければならないという理由はないのだ。
「それに、龍ちゃんだって、マレーシアのお金、全然、使い道ないじゃない。もうすぐ、日本に帰るのよ」
「そう、なんだけどな……」
思ってもみないボーナスが入って、龍之介の懐は、マレーシアのお金で潤っている。
だが、ショッピングもしないし、他に出費がなかったので、今は、そのお金は手づかずのままだ。
「そのお金で、飛行機代にすれば、話は簡単よ」
「あっ、そっか。それは、いい案かもしれないな」
「かもしれない、じゃなくて、いい案、じゃない」
「そう、だな。そっか。それなら――俺も、シンガポールに行こうかな?」
「そう。じゃあ、明日は、全員でシンガポールのようだ」
「俺達もいいか?」
「問題ないよ。両親は、午後にやって来る予定のようだから」
急遽、旅行の計画変更だったが、思いもかけない、好機である。
廉が自分の携帯電話に戻り、
「もしもし」
「ああ、どうでしたか?」
「問題はありません。友人も、明日は、シンガポールに行くそうですので、俺も便乗する形になります」
「まあ、そうですか」
「待ち時間は、どのくらいですか?」
「一応、5時間ほどと、聞いていますよ」
「では、空港で会った方が、簡単かもしれませんね」
「そう……かも、しれませんね。午後1時30分ほどで、シンガポールに到着する予定なのですけれど」
「わかりました。その頃に、国際空港の方に寄っていきます」
「そうですか。それなら、また、明日に」
その会話は、そこで終わっていた。
「明日は、いつ、シンガポールに行く予定?」
「もちろん、朝早くから。観光するんだもんね」
「そう。だったら、今夜、オンラインでチケット取れるか確認してみるよ」
「あら、それはいいわよ。龍ちゃんは現金を使わないといけないんだから、少しお高になるけど、空港のカウンターでチケット買えばいいじゃない」
「俺はどっちでも構わないけどね」
別に、廉のクレジットカードでオンラインのチケットを購入しようが、カウンターで現金を払おうが、廉にとっては大した問題ではない。
読んでいただきありがとうございました。
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