その18-06
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「なんか、若い学生っぽいのばっかりね」
ホテルから歩いてやって来られたナイトクラブの店内は、ものすごいネオンが連なっていて、壁から、テーブルから、椅子から、ネオン尽くしだ。
平日でも、まだ休暇が続いているのか、店内はすでにかなりの混雑を見せていた。
それで、見渡す限り、アジア人の若い男女の団体が、お酒を派手に飲んで、宴会――以上の賑わいを見せていた。
ライブDJの音楽がガンガンとなり、ステージでも賑わっている。
「すげぇ……轟音だな……」
耳に直接響いて来る轟音に、龍之介も頭痛がしてきそうだ。
「リュウチャン、初ナイトクラブってことで、最初は俺がおごってやるぜ」
「あっ、それは、どうも」
この髪の毛の色は――ウィリアムだった。
「じゃあ、次は、俺がおごってやる」
それで、気前よく、マイケルも奢ってくれるらしい。
「ありがとう。でも、そんなに飲めないと思うけどな……」
すでに、カウンター側に移動しながらでも、轟音に負けないよう、お互いに大声を張り上げているほどだ。
「まあ、若いのが一杯で、ナイトクラブって言っても、こんなもんかしら」
「なんで?」
「ヨーロッパとかのは、もっと派手だったわ」
「NZは?」
「NZは、ネオンはないけど、兎に角、ミュージックだけがうるさいわね」
「でも、行くんだ」
「そりゃあ、たまにストレス発散しなくちゃね」
双子が龍之介のドリンクのオーダーをしている間、アイラの隣で、廉は派手な音楽を鳴り響かせているステージの方を、ただ、眺めていた。
突然、アイラが、廉の肩に自分の腕を、ズシっと、乗せて来た。それで、寄りかかるように、その体重を乗せて来る。
ハイヒールを履いているアイラだと、今夜は、横を向いた廉の目線と、アイラの目線が近い。
それで、燃え盛るような紅の口紅を付けているアイラの口が、廉の耳に押し当てられた。
「どうせ、龍ちゃんのことだから、今夜は、ダンスなんてしないだろうけど、目を離さない方がいいわね」
「まあ、それはいいけど」
廉だって、ダンスをする気はない。
だから、龍之介のお守りで、側にいることに問題はない。
「君は?」
「私は大丈夫よ。これだけ着飾ってるんだからねん~」
「まあ、それだけ目立つ格好をしていたら、とてもじゃないけど、同一人物とは見えないね」
「派手に遊ぶんだから、当然じゃない」
せっかく、ナイトクラブにやって来ているのに、派手に着飾らなくては、思いっきり遊ぶ醍醐味も薄れてしまうだろう。
アイラの理屈はいつものことで、廉にも理解不能だ。
だが、背の高いアイラは、モデル並みのスタイルで、おまけに、体にピッタリとしたドレスなど着込んでいるから、店内に入っただけで、すでに、そこら中の男達からの眼差しが向けられている。
チラッ、チラッと、未だに、アイラを確認している男達もいる。
「君のことだから目立つけど、せめて、ウィリアムかマイケルを一緒に連れて行くんだね」
「その程度は、無視するわよ」
「無視しようが、言うことを聞く酔っ払ないなんていないだろ」
アイラがまだ廉の耳元に唇をしっかりと押し付けているので、廉が、グイッと、アイラの腰を抱いた。
それで、淡々としたまま、アイラの頬にわざと顔を寄せるようにする。
端から見たら――仲良さそうにイチャついて、廉がアイラの頬にキスしているようにしか見えないだろう。
「もう、帰る日も近くなってる。これ以上、問題を呼ばなくてもいいだろう?」
「呼んでないわよ」
「呼ぶだろう、その恰好が」
「いいじゃない」
「忠告はしたよ――」
「――なっ、何やってんだっ、二人共っ……!?」
両手にカクテルのグラスを持ってきた龍之介が、そこで叫んでいた。
目を真ん丸に見開いて、その顔が真っ赤である。
「……なっ、なっ、なに、何やってんだ、二人共……!?」
「ただの虫除けだよ」
「虫除け? なんの虫除け? なにが? でも、なんで、そんな……風に、抱き合ってるんだよ。なにして……いや、いいけど……。でも……」
「龍ちゃんったら、イチャついてるトコ見たくらいで、そんなに動揺しなくてもいいじゃない」
「イチャ……いや、そんな見るつもりじゃないけど、でも……なんで? なんで、抱き合ってんだ?」
「だって、レンちゃんが、ワイルドなんだもの~。私を離したくないんだって」
「えっ、廉が!? なんで!? いや――それは、いいけど、いいけどさ……。でも、なんで……?」
激しく自問自答して、激しく動揺しまくっている龍之介だ。
毎回、このアイラにからかわれて、動揺しまくっているのだから、少しは進歩するか、多少は学んだりはしないのだろうか。
「ただの虫除けだよ。まあ、酔っ払いには効かないだろうけど」
スッと、廉は何事もなかったように、アイラの腰から腕を外す。
「ドリンク二つも飲むんだ」
「え? いや、これは――廉の分だよ」
「俺の分?」
「そう。ウィリアムが最初のドリンクだからって、全員分、買ってくれたんだ」
「それは、どうも」
せっかくなので、廉も龍之介の両手に持っているグラスを一つ受け取ることにした。
「私のは?」
「うるさいな。ほれよ」
その態度を予想していたのか、ウィリアムがアイラの分のグラスを渡す。
「あら、ありがとん。さあ、龍ちゃんの初ナイトクラブを祝って、乾杯しましょう」
「いや、祝わなくていいんだけど……」
「いいから、いいから。ほら? 乾杯しましょう。――乾杯~っ」
アイラがトースト(乾杯)するので、一応、龍之介もアイラのグラスに自分のグラスを近づけた。
ウィリアムとマイケルにもグラスを当てて、やっぱり、廉にも乾杯する。
全員が、最初のグラスのカクテルを口に含む。
「あっ、結構、さっぱりしてる」
甘いのかなあ、と予想とは反して、柑橘系で、甘さも控えめで、夏の暑さにはさっぱりしておいしいカクテルだった。
「ねえ、それ何?」
マイケルの手の中には、ラミネートされたメニューのようなものがある。
「料理も頼めるらしい」
「そうなの? じゃあ、夜食にオーダーしましょうよ」
あれ?
でも、今夜の夕食は、マーケットで、ものすごい量を平らげていてなかっただろうか?
それも、アイラだけではなくて、双子だって揃って?
これから夜食なんて、入るのだろうか。
「じゃあ、テーブル探そうぜ」
料理を食べる区画は、ダンスやお酒が売っているバーからは少し離れた場所が区画されていて、そっちに向かうと、レストランとして利用しているようなお客が、料理を食べていた。
チカチカと、目に眩しく、ネオンの光る椅子やら、テーブルやらを通り過ぎ、横にはゲーム機器のような台もたくさん並んでいた。
六人席はなかったので、丁度開いている四人席を二つくっつけて、テーブルを作る。
龍之介の隣には廉が、その向かいに、マイケル、アイラとウィリアムが座った。
「メニュー、何あるの?」
「アイラ、すごい食べるな……。夕食の分、もう、消化したのか?」
「これから、少し動けばいいだけじゃない」
それで、興味津々で、メニューを確認するアイラだ。
「ピザ、結構いけそうだ」
「2~3個、頼めばいいんじゃねー?」
「この、ウナギドン、って怪し過ぎね。あんまり日本食には見えないわ」
三人が頭を寄せて、揃いも揃って、好き勝手なことを言っている。
それで、手を上げて待っていたら、ウェートレスがやって来て、ウィリアムが適当な料理をオーダーしていた。
でも……、かなりの量に聞こえてしまったのだが……。
ガンガンと、耳鳴りするほどの音量で、音楽が鳴り響き、ステージ側やダンスホールの方では、若い団体が、ごちゃ混ぜになって体を動かしている。
こっちの食べる場所の区画の方では、派手なネオンがチカチカを目に眩しいほどだ。
それで、ゲームの台のような場所に集まっている、女の子達もたくさんいる。
きょろ、きょろと、物珍しそうに店内を見渡している龍之介の視線が戻って来ると、ウィリアムとマイケルの二人が、面白そうに龍之介を眺めていた。
「え? ……と、なに?」
「初ナイトクラブは、どうよ、リュウチャン」
「いや……すごいな、って」
「そうか?」
「結構、普通だけどな」
「普通じゃないナイトクラブって、あるのか?」
そして、その質問をしてくる龍之介に、双子が笑いを堪えたような顔をした。
「異常なナイトクラブか?」
「そいつはすごいな」
「いや――そういう意味じゃなくて……。その、普通って、どんな普通なんだ? もっと、違う、ナイトクラブもあるのか?」
「あるぜ。サイズも、ミュージックも、内装も、全部違うやつ」
「そうなんだ」
でも、やっぱり、龍之介は、日本にいたら、きっと、友達に誘われようが、ナイトクラブには顔を出さないことだろう。
マイケルにせかされて、龍之介は始めの一杯目を終えていた。
それで、次にはマイケルに奢ってもらったグラスを口にする。
全員も、簡単に、二杯目に入っていた。
「ねえ。料理遅いのね」
「確かに」
料理のオーダーが運ばれてくる前に、すでに、全員の二杯目は終えようとしていた。
「じゃあ、三杯目は私ね」
「あっ、俺は、もういいよ」
「大丈夫よ。ゆっくり飲めばいいじゃない。すぐに帰るんじゃないんだから」
アイラは乗り気で、椅子から気軽に立ち上がっていく。
「レンは?」
「なんでもいいよ」
「あっ、そう。だったら、二人はどうするのよ」
「俺も行く」
それで、マイケルが椅子から立ち上がった。
アイラとマイケルの二人がカウンターの方に向かい、少し酔い始めて来た龍之介は、これ以上、お酒を飲めるか心配になってくる。
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