その18-05
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「今日、出かけよーぜ」
「どこ?」
「どこでもいい」
ただ、ホテルに帰って、のんびり~、だけはしたくなかった双子だった。
「飲みに出かけるのか?」
「それでもいいけど、クラブでもいいし」
「クラブ? なんのクラブだ?」
はたと、その質問で、双子が揃って龍之介を見返す。
「クラブに行ったことないのか?」
「なんのクラブだ」
その返答を聞いただけで、二人は、もう、そこで理解してしまっていた。
「リュウチャン、もしかして、あんた、ナイトクラブに行ったことないのか?」
「ないぜ。そんな場所に行って、何するんだ?」
「酒飲んで、踊って、バカ騒ぎして、ストレス発散だろ」
「そうなのか? 俺は――あんまり、そういう場所は、行かなくてもいいからさ……」
お酒なら、居酒屋でもたくさん飲める。食事をしながら、お酒を飲めるので、龍之介は、断然、そっちの方がいい。
それに、ダンスなんて……人前で踊れないし、踊ることに抵抗がある龍之介なんか、そんな場所に行けない。
本人も、恥ずかしくて、行きたくない。
「リュウチャン、ナイトクラブの一つや二つくらい、行かなくてどうするんだよ」
「そうそう。若い時の経験、だろ?」
「いや……。俺は、いいんだ。そういう場所に行っても、何していいか分かんないし……」
何を思ったのか、双子の口元がゆっくりと上がって行く。
なにやら――悪巧みをしそうな、世にも意地悪そうな顔つきにも見えなくはない。
「だったら、リュウチャン、俺達がナイトクラブに連れてってやるよ」
「えっ?! いいよっ、そんなこと気にしなくて。いいって、全然、いいから。平気だから。俺は、そういう場所……行きたく、ないなぁ、なんて?」
「遠慮するなよ。たかが、ナイトクラブくらい、どうってことないだろ」
「いや、いいって……。俺は、行かないからさ」
「まあま」
大焦りで、双子を止めようとする龍之介を無視して、双子が、トイレから戻って来たアイラを呼び止める。
『おい、アイラ』
『なによ』
『今夜は、ナイトクラブな』
『なんで?』
『リュウチャンが行きたいんだってよ』
『そうそう。海外のナイトクラブに行ったことないからな』
『あら、そう』
「いやっ、違うぞ、アイラ! 俺は、ナイトクラブなんて、行きたくないんだ」
絶対に、双子の会話が間違ってることを確信している龍之介は、アイラにも大焦りで止めに入る。
「そんなに気合入れて、反対しなくてもいいじゃない」
「でも、俺は――そういう場所、行く必要ないんだ。行く気も、ないしさ……」
「ナイトクラブくらい、どうってことないじゃない」
そして、アイラまでも双子と一緒の返答だ。
「ええ? 俺は……、そんな場所に行っても、何していいか分かんないから、いいよ……。やめようよ」
「お酒飲んでればいいじゃない。せっかく、マレーシアまでやって来たんだから、ナイトライフも楽しみましょうよ。若いうちじゃなきゃ、派手に遊べないわよ」
「いや、いいって……」
チラッと、龍之介が廉に助けを求める。
「廉だって――行きたくないよな?」
「俺は、どっちでもいいけどね」
なにしろ、アイラを止められる人間などいない。
アイラが乗り気なら、即行動、有言実行の、正にお手本のような女性である。
今回は、どうやら、悪巧みの双子が揃っているようだから、廉一人が反対しても、絶対に、言うことなど聞いてくれないだろう。
「ええ? 簾、それはないぜ……。簾は、ナイトクラブ行ったことあるのか?」
「まあ」
「えっ?! あるの?! いつ? なんで?」
「大学で、飲み会の時に、連れて行かれたから」
「そうなんだ……」
さすが、アメリカ。
飲み会がナイトクラブなんて、龍之介とは次元が違い過ぎる。
「ええ……? 俺は、いいんだってば……。普通に、遊ぼうぜ」
「なに言ってんよ。ナイトクラブごとき、普通の遊びじゃない」
「ええ……?」
「決まりっ! 今夜はおめかしして、ナイトクラブで騒ぎまくりましょう」
「いや、いいって……」
でも、そんな龍之介の懇願なんて、誰一人、聞いてくれていない……。
『ミック』
『何件かあるな』
『予約しなくてもいけるとこ』
『まあ、歩くの面倒だから、近場にしようぜ』
『オッケー』
それで、定例のごとく、ピコピコと、自分の携帯電話で素早いサーチを終えたマイケルにより、今夜のナイトクラブの場所が決定していた。
「俺は、行きたくないのにぃ……」
龍之介の悲壮な叫びは、誰一人、聞いてはくれない……。
* * *
朝食(兼、昼食)はものすごい量だったので、午後は軽いドリンクやスナック程度。
それで、夕食は、ペナンでも有名なGurney Drive Hawker Centreだ。
通りの両端に、たくさんの屋台や露店が並び、通りのど真ん中に、テーブルと椅子が並んでいる。
所狭しと並べられてあるテーブルも椅子も、通りを歩けないほどで、屋台やら出店やら、ものすごい数の料理とお店が並んでいた。
ある一軒では、お店の真ん前に、何段もの段があって、そこには、長いスティックに刺さったサテイやら、海鮮類やら、段が串刺しの料理で埋め尽くされていた。
「すごいっ!」
全員の感想だった。
今回は、アイラと龍之介だけではなく(廉は、暴飲暴食しないから)、双子が揃っているので、全員で、色々試せるように、一本一本違う種類の串刺しをゴソッと買ってみた。
中華系マレーシア料理も多く、今夜も、双子の出番だ。
朝食では食べなかった料理やら、似たような料理でも味付けが違っていたりと、やっと見つけたテーブルには、燦然としたご馳走が並んでいたのだった。
ホテルに戻って来た全員はシャワーを済ませ、着替えも済ます。
今夜だけは、龍之介は乗り気ではないだけに、着替え中も、少々、しかめっ面が隠せない。
今夜、行く予定のナイトクラブは、それほど規制の厳しい場所ではないらしい。
レビューなどでは、Tシャツを着ているお客もいるようなので、フォーマルの格好はしなくていい。
それでも、一応、夜遊びなので、アイラから襟の付いたシャツでも着なさいよ、と言いつけられ、仕方なく、龍之介は半袖の襟付きのシャツを着ていた。
廉も似たような恰好で、黒のシャツに、白地の綿パンだ。
廉が着ると、背が高い廉は、カッコよく見えるし、大人の落ち着いた雰囲気にも見える。
双子も、襟はついた半袖のシャツを着ていた。下は、黒地のズボンだ。
双子は、普段は、口は悪くても、黙っていれば、ものすごい美形だ。
美形のお父さんに、美形のお母さんから生まれただけはある。
だから、ちょっと着飾るだけでも、派手な容姿が目立つほどだ。
そして、アイラと言えば――
「――アイラ……、すごいな……」
相変わらず、龍之介の態度が気に入らなくて、アイラのきれいに整った眉が、嫌そうに上がる。
「龍ちゃん、いい加減、普通に褒められないの? ホント、日本男児って、誉め言葉の一つも言えないの?」
「いや……、それは、人にもよると思うし……」
アイラは体にピッタリとフィットしたタイトドレスを着ていた。
だからと言って、ミニスカートで足を出しまくったり、胸が見えそうな下品なドレスではない。ボディコンでもない。
真っ直ぐにカットされた胸元はストラップだけで、他には飾りもない黒のドレスだ。
だが、スタイル抜群のアイラが着ると、その女性らしい優しい稜線がドレスに馴染むかのように強調される。
ドレスの下から伸びる長い足も目が惹いて、燃え盛るような紅の口紅をつけ、フルメイクをしたアイラは、あまりに――凄みのある美女に出来上がっていた。
迫力があり過ぎて、ある意味、目を惹き付けられて、目を離せなくても、うかつに近寄れないような、そんな雰囲気がある。
「龍ちゃん、彼女ができた時に、誉め言葉の一つも言えないような男じゃ、すぐに捨てられるわよ」
「ええ……? そんな、こと、ないと思うけどな……」
「あるわよ」
「いや、それは、そのさ……」
モゴモゴと、アイラには反論できない龍之介だ。
「じゃあ、行きましょうか。今夜は、派手に夜遊びする日なんでしょう?」
「いや……、そんなことないんだけどな……」
そして、またも、龍之介の呟きなど、誰一人、聞いてくれる人はいない……。
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