その18-03
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「あの……、では、まず、立礼から。立礼には、会釈、敬礼、準最敬礼、最敬礼――というのがあって――」
龍之介は背筋をピッと伸ばし、直立した姿勢のままで、体の軸を真っすぐにした部分から、15度、30度、45度、70度のお辞儀を見せる。
「お辞儀の基本は三息――えっと……、吸って吐いて吸う、っていう呼吸の仕方なんですけど――」
それで、呼吸の仕方も教えて行く龍之介の横で、アイラが真剣になって龍之介の動作を見ながら、通訳をする。
だが、いつもと違って、ペラペラ、ペラペラというテンポではなく、少し考えながら、言葉を選んでいるようだった。
たまに、日本語独特の単語が出てくるから、アイラも通訳に困難しているのだろう。
だから、龍之介も、できるだけゆっくりと日本語の説明をし、一応、説明も付け足してみる。
「……ここまでで、どうでしょうか?」
パチパチ、パチパチっと、アイラの両親二人揃って、感動したように大拍手されてしまった。
ちょっと照れながら、龍之介が、ペコっと、頭を下げる。
「あり、がとうございます。次は、座礼で――」
チラッと、下を見下ろすと、地面は砂場だ。
まあ、この程度なら、座っても問題はないだろう。
「座礼には、九品礼と言うのがあります」
首礼、目礼、指建礼、爪甲礼、折手礼、拓手礼、双手礼、合手礼、合掌礼だ。
『ちょっと……。さすがに、私も通訳できないわ……』
『ああ、それは気にしなくていいよ』
さすがに、あまりに専門的な日本語がでてきて、アイラもギブアップだった。
「えーっと……、最初の二つを抜かした残り七つの礼は、屈体に伴う、手の位置の変化から生ずる形なんです」
「くったい? なに、それ……?」
「あっ、それは、座礼は、座礼の基本で――体を曲げる姿勢のことなんだ」
「ああ、そう……」
理解したのか、していないのか、その両方とも取れそうなアイラの様子だったが、一応、それを通訳はしてみるアイラのようだ。
真剣に、アイラの通訳を聞いている二人が、その真剣な眼差しを龍之介に戻す。
「まず――」
龍之介は砂の上におっちゃんこをしてみせる。膝を揃えて、正坐だ。
「この礼の仕方は、ほとんど使われていないから、今日は、ただ、見せるだけな?」
「オッケー」
それで、龍之介が礼の名前を口に出し、それのポジションにつき、次の礼に入る。
あまり説明を入れず、ただ、一貫の動きを見せ、座礼をし終わっていた。
おおぉっ! と、更なる、拍手喝采が上がる。
「これは、あんまり使われていないので、普通の座礼は、うーんと……3つくらいかな? 最敬礼、普通礼と浅礼、なんだけど」
アイラの顔がまたしかめられる。
通訳に困難していて、単語が解らないのだろう。
「あっ、まあ、今から説明するから、難しい単語は、今は気にしないくていいよ」
「そう……。頭が痛くなりそうだわ……」
珍しく、アイラの弱音だったが、さすがに、自分の知らない難解な単語を羅列されたら、誰だって苦労するはずだ。
「まずは、浅礼から。これは、体を前に30度倒すだけなんだ。女生と男性とでは、手の置き方が違うから」
それで、女性の作法を説明して、男性の作法も説明する。
「次は、普通礼な? これは、地面から、大体30cmくらいかな?」
体をゆっくりと前に倒していき、手も滑らせ、地面と平行に頭を止める。
「地面と、頭の幅が30㎝くらいなんだ。平行に。それで、一秒止めて。次の二秒でゆっくり、体を起こして」
最後に、最敬礼。
これは、地面から5㎝くらいだけ頭を上げる、本当の意味で最敬礼だ。
「――こんな、感じなんだけどな……。どうかな?」
『素晴らしいわっ、リュウチャン!』
『すごいね。リュウチャンは、とても物知りなんだね』
パチパチ、パチパチと、アイラの両親揃って、さっき以上の拍手喝采だ。
「ありがとう、ございます……」
「すごいわっ、龍ちゃん。私だって初めて見たわよ。私も、結構、日本のこと知ってると思ってたけど、すごすぎっ!」
「そうか? まあ……、これくらいは、な……?」
海外にやって来て、日本の作法講座でした……。
その後は、アイラの両親とギデオンを囲んで、やんや、やんやと、賑やかな会話が続く。
パーティーは夕食まで続いて、結局は、アイラの両親達と一緒に、ずっと、夕食もともにしていた龍之介達である。
明日は朝早い、ということで、アイラ達はパーティーを後にする。
一週間半近く、ずっと、ホテルにステイしていたから、なんだか、自分の部屋のように感じてしまう部屋も、明日でおさらばだ。
全部の荷物をスーツケースに詰め込み、忘れ物がないか、再チェック。
アイラも早めに寝る用で、その前に、龍之介と廉の部屋に確認にやって来た。
「もう、パッキング終わった?」
「終わったぜ」
「そう。6時にタクシー呼んでるから、5時半には、ここ出るわよ」
「わかったぜ」
「また、フェリー・ターミナルで軽いスナックでも食べればいいわね。ペナンに着いたら、おいしいものたくさん食べれるから」
「オッケー」
それから、とアイラがそこで念を押してきた。
「龍ちゃん、双子の前で、昨日の件は離さないでね」
「あっ、うん……。いや、話さないから、心配するなよ」
やっぱり、さすがに、ホリデー中にアイラは靖樹の仕事をしていて、その上、龍之介は危ない事件に巻き込まれました――なんて、説明できないよな。
そんなことをしたら、一体、何をしてたんだ、って一気に詰め寄られそうだから。
「明日は出発が早いから、ミカは見送りしないって」
「大丈夫だよ。そんな朝早くから起こしてしまったら、悪いしな。出て行く時も、あんまり大きな音出さないようにするから」
「そうね」
「でも、帰る前に、ちゃんとお礼を言って、別れの挨拶も済ましておくかな」
「あら、そう? ミカも喜ぶわよ」
それじゃあ、と龍之介が身軽にベッドから飛び降りた。
そのまま、美花の寝室の方へダッシュする。
「最後の夜まで、龍ちゃんって元気ねえ」
その背を見送って、アイラも感心すべきか。
『アイラ』
顔だけをアイラに向けると、廉が自分のベッドに座って、アイラを黙って見上げていた。
チラッと、後ろを確認すると、龍之介が美花の寝室に入って行った。
アイラがスタスタと部屋の中に入って来て、廉のすぐ前に立つようにした。
『さっき、メールが入ってたわ』
『逮捕されたの?』
『そうね』
ジョー・ペトリの仲介人は、昨日の騒ぎを聞きつけてか、どこかに潜伏して隠れていたらしい。
だが、地元警察が、先程、あの仲介人を逮捕したと、アイラの連絡先にメールが入っていた。
『他につるんでいる奴はいないらしいわ』
『それでも、危険じゃないかな』
二人は、口をパクパクと動かしただけの、小声で話をしている。
『マフィアがらみでもないから、そこまでの心配はいらないでしょう。あの男は、個人的に密輸してただけのようだしね。仲介人だって、あの男が仲間に惹き寄せただけらしいわ。牢屋で、「悪い仕事なんてしていない」って、吠え叫んでるそうよ』
『仲介までしておいて』
バカな奴だ、との言葉に出されない侮辱は明らかだ。
『そうね。でも、今回は、全員一緒で行動すべきね』
『そうだね。ホテルの場所見たけど、あの近辺だろう?』
『だって、ジョージ・タウンって有名なんだもの。観光になったら、まず一番先に、あそこに行くじゃない』
『まあ、そうだろうけどね。俺は龍ちゃんと一緒にいるから、君も、あまり一人で離れないようにね』
『そこまでのバカじゃないわ』
『知ってるよ』
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