その18-02
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ものすごい量のランチを食べ終え、テーブルを移動し、別れの挨拶を済まし、その度に、ハグがたくさん。
いえ……、さっきも済ませたんだけど、セカンドラウンドです。
『アイラぁ、気を付けて帰るのよ。旅行、楽しんで来てね……!』
『Mum も、元気でね~。写真沢山撮って、送ってあげるから』
『そうねえ。楽しみにしてるわぁ……』
今度は、アイラの母親が、アイラとハグを交わす――だが、未だに、なんだか、アイラにぶら下がっているような状態で、アイラから離れない。
『アイラも、あまり無理し過ぎないように。旅行楽しんでおいで』
アイラの母親がアイラにぶら下がったまま離れる様子がないので、その母親の背中から、アイラにも腕を回すようにするアイラの父親だ。
『Dad も元気でね』
『寂しくなるね……』
『大丈夫よ。たくさん電話するから』
『そうだね』
電話で声を聞けるのも嬉しい。
でも、こうやって、姿を見て話をすることだって、父親としては嬉しいのだ。
もう、早くから、一人立ちした(し過ぎた)可愛い一人娘は、遥か彼方の遠い国で、一人暮らし。南半球など、中々、簡単に遊びに行ける場所ではない。
そして、ここ数年、毎年、クリスマスになると、友達と旅行をしているアイラは、実家にも帰郷できない。
なんとも寂しいことだ……。
『今年も、また、クリスマスに旅行をするのかい?』
『どうだろ。私の大学次第かなぁ』
アイラは、もう、最初の専攻科目を終了している。
それで、趣味で取った科目も何個か残っている。それと、一応、修士学用の科目も一つ。
だが、今年でそのペーパーは終了する予定だ。
その後、就職すべきか、それとも、まだ学生を続けるべきか。
アイラも、まだ、そこまでの将来は考えていない。
『そうか……』
『Mum だって、龍ちゃんとレンに挨拶しないの? うちら、次のテーブルに行くわよ』
『ええええ? ダメよ、そんなの。最後の夜なのに、一緒にお話できないじゃない』
思いっきり不貞腐れて、アイラの母親が、(やっと)アイラの身体から腕を放していた。
ものすごい綺麗な女性で、サラサラとした黒髪に真っ青な瞳。
なのに、不貞腐れて頬を膨らませている顔は、ちょっと……可愛いとも、思えてしまうアイラの母親だ。
「リュウチャン、ゲンキデネ。アエテ、ヨカッタワァ……」
「あっ、はい。ありがとうございます。俺も、お会いできて、光栄でした。皆さんも、お体に気を付けて、元気で……」
「リュウチャンノアイサツハ、トテモ、テイネイナノネ? ソウデショウ? スゴイワ」
「いえ……。そこまで、丁寧なものでもないんですが……」
そして、なぜだか知らないが、アイラの母親は、またも、龍之介にしがみついたままだ。
この状態……、離してくださいって頼んだら、失礼なんだろうか?
「まあ、あんたも、ガンバレよ。生き延びれよ、なあ?」
ギデオンが廉の肩を抱き、そんな呑気なことを口にする。
廉も、一応、肩を軽く抱き返すが、その指摘には無言。
「ねえね、龍ちゃん、丁寧な挨拶って、どんなの?」
「えっ? どんなの、って……? 別に、サヨナラ、くらいじゃないのか?」
アイラの興味心も、変な場所で湧いてくるなあ、と思いながらも、別れの挨拶なんて、そこまで丁寧なものなんてした記憶がない龍之介だ。
「他には? ものすごい丁寧なやつとか、ないの? 日本人でしょう? 日本人のやり方してみてよ」
「ええぇ?」
そんな無理難題を押し付けて来るアイラだ。
困ってしまったが、なぜか、アイラの家族全員から、(ものすごい)期待の眼差しが向けられていることに気が付いた龍之介だ。
ひくり……と、顔が引きつってしまう。
「あの……丁寧、って……」
廉に助けを求めても、ごめん、と廉は首を振るだけだ。
帰国子女の廉に、日本式の挨拶を訪ねる方が、無理があったかもしれない。
「あのぉ……」
うーんと、真剣に考えてしまって、すみません……と、アイラの母親の腕をゆっくり外す。
「あの……、それでは、これで、失礼させて頂きます。皆様、どうかお体に気を付けて、無事にお帰り下さい(?)」
適当に取り繕った挨拶だが、龍之介は、しっかり45度、体を傾けて、深いお辞儀をした。
『おおぉ、すげぇ!』
『すごいわっ!』
『お辞儀が様になっているねえ……』
適当なアドリブだったが、それでも、アイラの家族は大満足だったらしい。
「リュウチャン、すげーなっ。頭下げるの、すごい、カッコ良かったぜ」
ギデオンが、ものすごい素直に褒めてくれる。
「いや、その程度は……」
頭を下げて、これだけ喜ばれて、褒められたのは、人生初めてである。
「すごいじゃないっ、龍ちゃん。やっぱり、日本人って、そうやって頭下げるのね」
「まあ……、お辞儀は、基本だしな……」
すごいわっ! と、アイラを含めた全員から、大喜びされてしまった。
別れ際に、大した芸でもなかったが、喜ばれたようなので、一応、良しとするか。
「お辞儀の姿勢がきれいだな」
廉も感心しているようだった。
龍之介が廉の方に向いて、
「まあ、この程度は」
毎回、やらされていることだった。
座礼だって、厳しく躾されている。
「俺も、最敬礼のお辞儀は教わったけど」
「教わったのか?」
「うん、まあ」
そう言う習慣を躾されるって、結構、廉の家では厳しい習慣があったのだろうか。
これは、龍之介にとっても新発見だった。
「ねえ、龍ちゃん、帰る前に、Dad とMum 達に、日本のお辞儀の作法教えてあげてよ?」
「ええ? お辞儀の作法、って……」
「いいじゃない。二人共、日本のこと、すごく好きなのよ。だって、Pop が日本人なんだもの。昔は、Dad だって、結構、日本語勉強したのよ。今じゃ、ほとんど使う時がないから、忘れ出してるって言ってたわ」
「そっか……」
それで、年を取るにつれ、日本語を忘れたり、日本の繋がりを忘れてしまうのは寂しいことだろうな、と龍之介も思ったことである。
「じゃあ、まあ、簡単な説明だけなら……」
それを聞いて、アイラが嬉しそうに後ろを振り返った。
『リュウチャンが教えてくれるのかい? それは、いいねえ』
アイラの通訳を聞いて、アイラの父親はすごく嬉しそうだった。
「ありがとう、リュウチャン」
「いえ……。この程度は……」
『ビデオに撮っても、いいかな?』
「えっ……? ビデオ、ですか……?」
『ダメかな?』
そんな残念そうな顔をされたら、あまりに悪いことをしている気になってしまう。
「いえ、問題、ありません……」
『そうか。ありがとう』
『Dad、俺がビデオ撮ってやるから、説明、ちゃんと聞いておけよ』
『ああ、そうか。だったら、ビデオはギデオンに頼もうかな』
「じゃっ、決まりねっ! 龍ちゃん、お願いね」
「お、おう……」
変な展開になってしまったが、もう、明日になれば、アイラの家族とも会えなくなってしまう。
こんな風に、マレーシアにやって来て、外国に住んでいるアイラの家族に会えることができるなんて、一生に一度あるかないかの機会だったことだろう。
海外にやって来て、日本の習慣と作法なんて教えることになろうとは、一体、誰が考えただろうか。
これも、一生に一度あるかないのかの、貴重な経験だ。
読んでいただきありがとうございました。
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