その18-01
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『会えて良かったわ……。気を付けて、旅行してきてね』
「あ、ありがとう、ございます……」
これで何人目か分からない抱擁を受けて、龍之介も、一応、礼儀に習って、ちょっとだけハグを返してみた。
今日は、昼から、盛大なパーティーである。
龍之介達は、ペナン旅行に向け、明日、ランカヴィを発つ。
アイラの親戚達も、明日から、ぼちぼち、休暇を終えて出発する組がたくさんいるらしい。
それで、今日は、昼から、送別会もどき、盛大なパーティーが開かれている。
なんだか、この休暇にやって来て以来、なにかとパーティーが開かれて、全員が集まって、全員で大騒ぎして、賑やかな時が過ぎて行った。
「これから、また全員、家に戻って行くのよ。お別れパーティーしないわけないじゃない」
なぜその理屈なのかは計り知れない龍之介は、アイラに交じって、盛大で賑やかなパーティーに参加している。
今回は、前回のバーベキューパーティーに似ていて、ビラの近くの海岸沿いで、外でパーティーを行っている。
もちろん、旅行費用の一端として、このパーティーも全て支払い済みだ。
美花さんって、本当に、何から何まで卒がなくて、全部、きちんと揃っていて、文句のつけようがないほどのサービスが、旅行のパッケージとして繰り込まれていた。
ご馳走は、ホテルの従業員やコックが作ってくれて、朝方、独身の男組が(また)飲み物の買い出しに行ってくれたおかげで、この間のよりも、更に、高く積みあがっている段ボールの山。
ジュースや炭酸だけではなく、もちろん、お酒もある。
それに、今回は、最初から、山程のデザートも用意されていた。
アイスクリーム類だけではなく、シャーベットもあり、ケーキもあり、他のスイーツも盛りだくさんだ。
デザートセクションは、どうやら、ホテル側から冷蔵できる機器まで持ち運んだようで、昼間の熱い日差しの元でも、デザートがぐちゃぐちゃに溶けてしまっていることは避けられている。
『この休暇は、楽しめたかしら?』
「あっ、はい。ありがとうございます」
アイラの親戚全員からのハグ攻めを終え、今は、アイラの祖父母のテーブルで席を一緒にしていた。
アイラの祖母は、にこにこと、本当に嬉しそうに微笑みながら、龍之介の手をしっかりと握りしめて、それで、龍之介の話を聞いている。
『Pop、また会えなくなっちゃうわ。元気でね。身体に気を付けてよ』
ぎゅーっと、音が聞こえるほど、しっかりと、アイラが祖父を抱きしめている。
『アイラも、あまり無理をしてはいけないよ。みんなで、旅行を楽しんでおいで』
『もちろんよっ。その為に、しっかりと稼いできたんだから』
可愛い孫を抱きしめながら、アイラの祖父が本当に優しそうに微笑みを浮かべる。
アイラの祖父が龍之介達の方を向いて、とても優しそうに瞳を細めて行く。
初日に会った時から、アイラの祖父母とは、それほどたくさんの会話をしたのでもない。
それでも、アイラの祖父は、いつ会っても、とても優しそうな雰囲気が醸し出されていて、その優しさを映した瞳も、態度も優しくて、年を取っていても、とても紳士的な男性だなぁ、なんて龍之介も尊敬してしまうほどだ。
「お会いできて、とても、嬉しかったです」
「あっ、いえっ……!こちらこそ、あの……、皆さんの集まりに招待してくださって、ありがとうございました」
そうやって、日本語を話す龍之介の前で、アイラの祖父は嬉しそうに瞳を細めている。
そして、久しぶりに聞く日本語を喜んでいるのと、その貴重な時間を、なんだか――噛み締めているような感じにも見えた。
「お会いできて、とても光栄でした。お二人も、お体にお気をつけて」
ゆっくりと、言葉を紡ぐように、廉がアイラの祖父に挨拶した。
アイラの通訳を聞いて、アイラの祖母が嬉しそうに頬を緩ませる。
『若い時って、いいわね。少し苦労して、お金を貯めて、旅行したり、友達と遊びに出かけに行ったり。そうやって、たくさんの自由と、世界を見に行けるわ。私も、色々な場所に回ったのよ。源治のおかげでね』
『子供達が大きくなるまで、移動が多かったからね』
『ええ、そうね。移動する時は、いつも、大変だったけれど、それでも、楽しかったわ』
そう言えば、アイラのお父さんの兄弟姉妹は、全員を入れて、五人兄弟姉妹だ。
アイラだって、父親の転勤で、生まれた時から色々な国に行ったと言っていた。
アイラのお父さんも、子供の時にたくさんの移動をしたのなら、五人も子供がいて、その移動だけでも大変なことだっただろう。
『子供っていうのは、いつの間にか大きくなっていて、大人になっているものなのねぇ……。グウェンだって、アメリカに行くって言い出した時は、まだ早いんじゃないかしら、なんて心配したものよ。一人で危ないのに、ともね。でも、グウェンにしてみたら、一人立ちしていたから、そんな心配いらないわよ、って笑い飛ばしていたわね』
グウェンとは、アイラの伯母さんで、アイラの父のすぐ上のお姉さんらしい(アイラ談)。
『私もね、シンガーポールに行く時は、私の母親にも同じことを言われたわ。そんな心配いらないのに、ってね。成人してるんだから、もう子供じゃないのよ、って言い返したくらいよ』
龍之介も、大学が北海道に決まり、一人暮らしする際、母親と一緒にアパート探しをしている時に、母親から言われた台詞を思い出していた。
一人で大丈夫かしら……、って。
一人暮らしは初めての龍之介でも、そこまで心配されるほどひどいものじゃないだろう、って母親の心配を打ち消していた。
近くにコンビニだってあるから、食べるものには不自由しない。札幌は、交通手段が行き届いているから、大学以外でも、どこかに行く時に交通手段も、ほとんど心配していなかった。
むしろ、これから独り暮らしをする期待に満ちて、早く、一人暮らしできないかなあ、ってワクワクしてた。
でも――今考えてみると、親にしてみたら、龍之介はずっと子供だったし、本人が大人になったと思っていても、母親には、まだまだだっていう心配があったのだろうか。
『本人にしてみたら、もう、大人になって成人していて、一人で何でもできるんだ、って思ってるのよね。親の方は、心配でハラハラしてしまうんだけれど。そうやって、子供が大人になって、いつの間にか、小さかった孫達も大人になって……。月日が経つのが、アッと言う間ねえ……』
『Nana ったら、しんみりしちゃって。孫が大きくなったんなら、これから、ひ孫を待てばいいのよ。なにしろ、ものすごい数の独身組がいるんだから、それが結婚する時になったら、うちの一族だもん。てんやわんやよ。それに、ひ孫が重ねって、ベビーブームになったら、どうするの?』
相変わらず、ポジティブというか、考え方がザックリと大らかと言うか、アイラの口調だと、確かに、その未来を考えてしまって――きっと……、たくさんのひ孫になるんだろうな……、なんて心配の方が大変かもしれない。
『あらあら、そうね。ふふふ』
『そうよ。Pop とNana だって、膝の上にひ孫を乗せてても、足元にもズラリとひ孫が並んできて、身動き取れなくなったらどうするの? だから、今から、その時の為に、しっかり体力残しておくのよ。二人でちゃんと散歩に出たり、体力つけなきゃ』
『あらあら、そうねえ』
『確かに、大変かもしれないね』
祖父母にしっかりと説教する当たり……アイラだな、うん、これは。
読んでいただきありがとうございました。
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