その3-03
「おい、そこで怯んでたら、なくなっちゃうぜ。早いモン勝ちだから。俺が買ってきてやろうか?」
「いえ――結構、です」
「だったら、なに食べるんだ?食堂だって込んでるから、食べるモンないぜ、今の時間なら」
「別に――いいです」
「昼飯食べないとダメだぞ。腹が減るだろ?俺のやるから、一緒にこいよ」
「いえ、結構です」
「いいから、いいから。早く。こっちだよ」
一緒に行くなど同意した覚えもないのに、龍之介が意外に力強くアイラの腕を勝手に引っ張り出してしまった。
「結構なんですけど」
「いいから、いいから。食べないと腹減るだろ? 午後ももたないぜ、そんなんじゃ」
いいと言っているのに、全く聞く耳を持たない龍之介だ。混雑しているその場を器用にくぐり抜けて、グイグイと龍之介がアイラを引っ張って行ってしまう。
すぐ近くの食堂も混雑を極めていて、とてもではないが列に並べそうにない。座れる場所があるようにも思えない。
「あ、いたいた。――おーい、待たせたな」
勢いをつけてアイラを更に中へと引っ張っていく先にいる三人を見つけて、アイラの顔が引きつっていた。
「悪い、悪い。時間がくっちゃってさ」
こんなに混雑を極めているのに、どうやら龍之介の椅子は保護されていたらしく、廉の隣の椅子が空いていた。
三人も顔を上げた先にアイラが来ているので、またなんとはなしにじぃっとアイラを見上げていた。
「丁度、そこで会ってさ。買い出しする暇なかったから、一緒に連れて来たんだ。俺のと半分こ。――空いてる椅子がいるなぁ」
「結構、です」
「いいから、いいから。――あっ、あっちが空いた。シバザキ、そこに座れよ。俺、あっちの椅子かっさらってくるから」
返事を返す前に、持っていたパンをドサッとテーブルの上に投げ捨てて、龍之介は止める間もなく颯爽と向こうに走って行ってしまった。
残されたアイラの前で、シーンと沈黙が降りてくる。
「――どうぞ」
廉が隣の椅子を勧めるようにする。極力関わらないようにと考えているその場で、なぜまたこの三人に囲まれてしまうのだろうか。
アイラはチラッと椅子を見下ろしたが、全く座る気配がない。
「なにしてるんだよ。そこに座れよ。俺も椅子持ってきたぜぃ」
そこらの生徒にぶつからないように大急ぎで、その喧騒の合間をぬって駆け戻ってくる龍之介が、トンとアイラの隣に椅子を下ろすようにした。
「さっ、食おうぜ。早く座れよ、シバザキ」
無理矢理、引っ張られるような形で椅子に座らされたアイラは、全くの無言。
「なにがいい? 今日も元気にたくさん仕入れてきたんだぜ」
「――結構、ですから」
「なんでだよ。食わないと、腹減るだろ?――まず、これから食おうぜ」
はい、と親切にもアイラに勝手にパンを投げてよこす龍之介は、自分のパンをすでに開けて、食べ出していた。
「シバザキ、って言うんだ」
目の前の生徒会長、大曽根がちょっとテーブルの端に手をつきながら問いてきた。
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