その17-02
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『アイラが言った通り、大抵なら、アイラのことを、口がうるさくてただ自分勝手に騒いでる――とだけしか思わないんだろうけど、アイラの場合は「有言実行」だ。ケンカを売れば、本気でケンカを買うし、叩き潰すって言うなら、きっと本気でやるだろう。アイラはミカさんに、「Bimbo に見られる」と話していたけど、俺はそう思ったことはないな。出会った時からそうだったけど、君のその目がね』
『私の目がなによ』
『Bimbo じゃない、って暴露してる。その目を見てれば、油断なんかする方が間違ってる。本気の目、だ』
初めて出会った時から、ずっと、物怖じもせず、ただ、真っ直ぐに見返してくる意思の強い瞳。
その瞳を見ていたら、到底、頭の無い軽い女、なんてそんな低次元な形容で済まされるような女の子になど見えないと、本能的に、警戒を呼んでしまうような存在だった。
『性格も強くて、態度も強くて、気性が強くて、自由奔放だし、注文と要求が多いし、この組み合わせを聞いているだけでも、ものすごい性格を物語ってる』
『いい度胸ね、レン。本気でケンカ売りたいようね』
剣呑に睨め付けてくるアイラに、ふっと、廉が軽く笑った。
『だけど、そういう激しい性格をしてるのに、アイラは、家族とか友達を大切にする。あのヤスキさんの肩を持つんじゃないけど、龍ちゃんの腕なら、あの程度のトラブルは、簡単に蹴散らすことができただろう。でも、アイラは龍ちゃんを心配して、本気で怒っていた』
背筋が凍り付くほどの殺気が現れ、凍り付いた怒気を見せていた。
本気だった。
『それに、人数がいる方が割り引きがきくから、龍ちゃんや俺を、旅行に誘ってくれたんだろうけど――』
『レンの場合は、そっちが懇願してきたんでしょうが』
廉はそんな指摘方をされて、また、くすっと笑っていた。
『龍ちゃんだけ遊びに行くのはズルイだろう? 俺がお願いしたら、アイラは最終的には誘ってくれたじゃないか。でも、この集まりを見て、本当に、家族が集まる大切なものだと、俺にも判る』
親戚側の親しい友人や、その家族なども招待されていたようだったが、それでも、今回のホリデーは、アイラの祖父母の結婚記念日と、祖母の誕生日を兼ねた、一族全員が揃う、稀にない機会だったのだ。
誰もが、皆に会えて嬉しそうで、喜んでいて、滅多に会えなくなったアイラにも会えて嬉しそうだった。
きっと、もっとアイラと一緒にいて、話をしたり、遊んだりしたかったはずなのに、アイラの友達が一緒にいるからと、あまり親戚に時間を割いていないアイラを責めるような身内は、誰一人、いなかった。
アイラが楽しそうだからいっか、ときっとアイラを入れた三人を、好きに遊ばせてくれていたのだろう。
『それでも、アイラは、俺達がここにいるのを嫌がっていない。一生に遊ぼう、って言ってたくらいだし。龍ちゃんがいるから、日本語と英語の通訳が必要だけど、いつも、アイラは二ヶ国語を同時にペラペラと喋っている感じだ。話が途切れないで、どっちも通訳がされてて、それで龍ちゃんも、全然、問題がなかった』
それも、意識的にしている様子でもなく、アイラはいつもペラペラ、ペラペラと、簡単に両方の通訳をしていた。
全員が話を途切れることもなく、二か国語で会話をしていられた。
『一見したら、その強い性格で判断して、人に気を遣う――なんていう細やかな面があるとは、到底、想像できないだろうし――』
『褒めてる割には、貶してることが多すぎるのよ』
ムッと、あからさまに気分を害している様子のアイラは、更に冷たい目で廉を睨み付けていた。
廉はさっきから、一向にその冷たい眼差しを気にしている様子もなく、そんなアイラをただ見やりながら、話を続けていく。
『貶してるんじゃなくて、事実を話してるんだ。性格がきつそうだけど、でも、アイラは皆に愛されている。身内だから多少のことも我慢する――とかじゃなくて、アイラは、君の家族や親類にとても愛されている』
その事実は、この旅行にやってきて、廉が、一番に気が付いたことだった。
『龍ちゃんも言っていたけど、「アイラは性格が強くてハチャメチャだけど、アイラの性格だと嫌じゃないかな」って』
不思議だけど、その性格や気性の強い所も、アイラだ。
遊ぶ時は、景気がいいほどに遊びまくる所も、アイラだ。
意外なところで、男気がある所も、アイラだ。
家族や友達を大切にしている所も、アイラだ。
嫌そうな顔しながらも、ヤスキさんにわざと利用させてやってる所も、アイラだ。
アイラを舐めてかかると後が怖いのも、そうだ。
『そのどれを取ってもアイラで、どの一つが外れてもアイラじゃないんだな、これが。単純そうに見られるのは、アイラ自身がわざとそうさせてることであって、アイラを見てたら、とても“単純”――だなどと、そんな簡単な言葉で締めくくれるようなものじゃない。君は“複雑”だし、そのミックスが、アイラのトレードマークだろう。それを、思い出していた』
アイラはまだ廉を睨め付けていたが、その話を最後まで聞き終わって、その口端を少しあげていた。
『今まで聞いた中じゃ、最高の賛辞、とでも言うべきかしら。どうも、レンの口調だと、全く賛辞には聞こえないのよねぇ。珍しく、よく喋るじゃない』
『そうかな。俺は、別に無口な男じゃないが?』
『普段なんか、猫被って大人しくしてるだけじゃない』
『猫かぶり、ねえ。俺はいたって普通の男なのに』
『その態度が胡散臭いのよ。出会った時から、胡散臭い男じゃないの。そこら辺の警戒信号が鳴りっぱなしなのよ』
『もしかして、それで俺を悪人にしてるとか?』
『悪人、にはしてないじゃない。胡散臭い男で、いつも一人冷めた顔して、何考えてるのか判らないような男で、それなのに、随分とまあ、細かいことまでよく見てて、ジェイド並よね』
『君のお兄さんには、まだまだ負けるけど』
『どうだか。適当にあしらってる割には、ケンカ慣れしてるのか、腕は立つわよね。そんな風に、全然、見えないのに。正義感とかそんなの関係ないくせに、でも、私の世話は嫌々でもしてるし。ヤスキにコキ使われて、はめられてるけど、何でか知らないけど、文句は言わないし』
『まあ、君も俺のことをよく見てるようで』
ドライなトーンで、淡々とそれを言う廉に、アイラが、ふっと、軽い笑みをこぼした。
そして、ドアの所に立っている廉の側に歩いていって、少し背伸びをしながら、ちゅと、軽く廉の頬にキスをした。
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