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やっぱりやらねば  作者: Anastasia
Part2-マレーシア編
148/215

その17-01

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『なんなのよ』


 すっかり夜が更け、辺りが寝静まった頃、アイラは泊まっている宿のすぐ横で、腕を組んで立っていた。


 スッ――と、無言で前にいる人物が、何かの包みを差し出した。


 アイラはそれに手を伸ばすこともせず、ただ、片眉を上げて見せるようにする。


 それで、相手が嫌そうに顔をしかめてみせて、


『利用したのを誤って欲しいのか? 確かに利用したけど、勝算があってのことだったんだ』

『だから、何だって言うのよ』


『だから――悪かったよ』


 アイラはまだ冷たい目を向けて、何も言わない。


 それで益々嫌そうに顔をしかめた相手が、ふう……と、嫌そうに溜め息までこぼして、クシャと髪の毛をかきあげた。


『俺はロクデナシだと言いたいんだろ? 好きに言えよ。利用もしましたよ。あの僕ちゃんの腕は、証明済みだから、的には最適だからな。お前の友達も利用するし、身内も利用するし、俺は最低ですよ。――これで満足か?』


 苛立たしげに、それを口早に言い切った相手を見やりながら、アイラは少し首を倒すようにした。


『判ってるんなら、二度目はないわよ、ヤスキ。私をただのノータリンだと思って、甘く見過ぎね』


 靖樹は嫌そうに顔をしかめたまま、その眉間までも寄せて行く。


『ノータリン――だとは、言ってないだろうが』

『言わなくても、態度で判るのよ。二度目はないわよ、ヤスキ。私を甘く見ないことね』


 靖樹は眉間を深く寄せたまま、何も言わない。


 アイラを甘く見ていたのではないが、それでも、簡単に扱える――と、自惚れていたのは事実なのである。


『自分の仕事が大事なら、私を甘く見るんじゃないわよ。次は、叩き潰すわよ。――それとも、口だけのハッタリだと思ってるわけ?』


 嫌そうに顔をしかめている靖樹は、それにも何も言わない。


 アイラがふっと浅く笑って、

『それで用は何なのよ』

『半分だ』


『へえぇ、随分、懐が広いこと』


 皮肉を言われて、靖樹はアイラを冷たく睨め付ける。


『反省したわけ?』

『謝罪しただろうが。土下座でもさせたいのか?』

『さあねぇ』


 ものすごい嫌そうな顔をしたヤスキを前に、アイラは、ヤスキが持っている厚手の封筒を取り上げた。


『ヤスキ、身内じゃなかったら、今頃、道端で野たれ死んでるわね。それを忘れないことよ』

『うるさいな』


 それだけを言い捨てて、靖樹はその顔をしかめたまま、スッと、その場を動き出していた。


 ズンズンと、大股で歩き去っていく後ろ姿を見送っているアイラの横に気配がして、ハッと、振り返ったアイラの前で、廉がそこに静かに立っていた。


『気配を消さないでよ。嫌らしい男ね』

『それは失礼』


 誤っているのだが、その口調が淡々としていて、真実味に欠ける。


『それで――あの人も、許されたの?』


 すっかりと歩き去って行った靖樹の消えた方向を見ながら、廉がそれを口にした。


 アイラは少し口を歪めるようにして、

『わざわざ聞いてたわけ?』

『話し声がしたから』


『窓から聞こえる距離じゃないじゃない』

『そうかな』


『本当に抜け目のない男ね。胡散臭いだけじゃなくて』


 アイラの皮肉は無視して、廉がアイラの方に視線を戻して行く。


『それ、なに?』

『賞金の半分よ』


『へえ、それは太っ腹だな』

『反省する気がないなら、それは地に落ちたも同然ね。とっくに見放してるわ』


『でも、見放してないんだ』

『まあ、あんなんでも身内だしね。ああいう欠陥部分も含めて、家族愛、よ』


『それは寛大なんだな。龍ちゃんだけじゃなく、君も結構危ない目に遭わされているのに』

『別に、それは仕事だからいいのよ』

『そうかな』


 アイラは組んでいた腕を解いて、そこに立っている廉の前にゆっくりと歩いてきた。


『これで、残りのホリデーは満喫できるわね』

『いくら?』


『ホテルに泊まって大騒ぎしても、十分なほどよ』

『まあ、それだけの仕事をしたから』


『そうよ、当たり前じゃない』

『君の弟は、どうするんだ?』


『ギデオンとは遊びに行く予定してないから、ギデオンが帰る前に、ちょっと払ってやるわよ。でも、メインは私と龍ちゃんだし』

『俺も手伝ったけど』


『判ってるわよ。だから、残りの旅行は、贅沢できるじゃない』

『なるほど』


『もう、寝るわよ。寝不足は肌に悪いんだから。龍ちゃん、起こしてないでしょうね』

『そこまでうるさくないけど』


『一体、いつからそこにいたのよ? 全然、気が付かなかったわ』

『ほぼ最初から』


『なんで?』

『気配が――したから』


『私の?』

『そう』


『うるさくしてないじゃない』

『そうだね。龍ちゃんも言ってるけど、アイラは出会った時から音がない、ってね。――それ、オニイサマ達に習ったの?』


『そうね』


 廉が静かにアイラを促して、二人はゆっくりと部屋の中に戻り出していく。


『そう言えば、こんなことを思い出していた』


 なに、という風にアイラが首を振る。


 廉はそんなアイラを見やりながら、

『一年前にもう一度会って、そして今回もまた会って、会う度に、またアイラのことを知り出している』

『私のことなんか、何も知らないじゃない』


『そうだね。出会った時は知らなかった。でも、知り始めてる』

『それで?』


『それで、新たなことも発見したかな』

『なによ。どうせ、威張ってる――から、格が上がった程度じゃないの?』


『まあ、それもあるけど』


 シーンと、冷たいその眼差しが返されて、くすっと、廉が笑いをこぼす。


『でも、威張ってて注文も多いけど、結構、見かけに寄らず面倒見がいいし』

『見かけに寄らず、ってなによ。私はね、見かけからして、親切心が溢れてるじゃない』


『そうやって、すぐ大威張りで自慢するし』

『だったら、なによ』


『落ち度もあるし、修正不可能なその性格の問題は抜かしても――』

『レン、いい度胸ね。私にケンカ売ってるの?』


 アイラの瞳が細められ、凍りつきそうなほどの冷たい輝きが、冴え冴えと輝き出していた。


 微かに顎を上げて、真っ向から廉に対抗してくるその態度は、気の強さをそのままに表している。


『そうやって、売られたケンカも買うし』

『私に売りつけるような男がいるんだもんね。いい度胸じゃない』


『確かにね』


 いきなり廉に同意されて、拍子抜けしたアイラは、廉の思惑が判らず、顔をしかめてみせた。


『そうやって、『いい度胸じゃない』と口に出して言うのは簡単なことだけど、アイラを相手にするのは、覚悟がいることだな。それも、大抵の奴は、気付かないんだろうけど』

『何が言いたいのよ』



読んでいただきありがとうございました。

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