その16-05
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アイラの言わんとしている意味を悟り、靖樹がきつくアイラを睨み返す。
『お前、ふざけるなよ』
『ふん。誰がふざけてるのよ。自分の仕事を優先して、誰これ構わず利用してやろうなんて、傲慢すぎるわね、ヤスキ。指名手配犯の賞金首が出てるのは、タイ政府。でも、国際指名手配犯の依頼は、インターポールから。賞金は、かかってないのよ。この意味が解らないような探偵じゃないでしょう?』
どちらの組織からも指名手配がかかっているが、どちらの組織に犯人引き渡しをすることによって、その結果は全く違う扱いになってしまう。
『それに、マレーシア警察だって、せっかくの賞金首が自分達の手元にあるのに、どうして、わざわざ、Bounty Hunter に賞金を譲ってやらなきゃいけないんだ、なんて考えててもおかしくはないでしょう?』
Bounty(賞金首)に賭けられている犯罪人の引き渡しは、その捕縛、逮捕証明書と、依頼書の両方で成立する。
今の所、依頼書の証明人はアイラだ。靖樹ではない。
靖樹が依頼を引き受けたとしても、犯罪人を捕まえる過程で、アイラが引き渡しの証明章にサインをしている。
だから、アイラが引き渡し証明書を靖樹に渡さない限り、靖樹は賞金を請求することができない。
嫌そうに、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた靖樹に、アイラの冷たいほどの冷笑が更に輝いていく。
『これだけの手間暇かけて、賞金はオジャン。一文も入ってこないなんて、笑い話にもならないわね。おまけに、仲介人の逮捕依頼は、マレーシア警察に頼んであるのよ。あっちにしてみたら、それこそ、ダブルブッキング(両逮捕)で、万々歳の成績になるじゃない。マレーシア警察の名誉、よねえ』
スッと、アイラがバッグの中から自分の携帯電話を取り出してみせた。
廉は隠し撮りに成功していた。両方の犯罪者を、だ。
ジョー・ペトリ、指名手配犯。そして、仲介人の若い男。
ジョー・ペトリに加担して、麻薬密売・売買の仕事を加担していた男だ。
大物、とは呼べない小鼠だろうが、警察側にとっては、また新たな逮捕が可能だ。
『マレーシア警察、インターポール、どっちだろうと、お互いに、自分達の名誉が上がるチャンスを見逃すはずはないわね。それも、たったの電話一本で、その全ての結果が決まる』
さあ、どうするんだ――と、挑戦的なアイラの瞳が靖樹を強く射りつけた。
『口からでまかせだと思ってるなら、やってみるのね。私だって、本気で叩き潰すわよ。嘘かどうか、試してみなさいよ。私を甘く見るんじゃないわよ』
微かに瞳を細めたアイラの瞳が不敵に、強く輝き出して、その口元が更に妖しく挑戦的に上がっていく。
靖樹はそのアイラを微かに睨め付けたまま、何も言わない。
「行くわよ」
スッ――と、アイラが立ち上がって、龍之介はまだ事情が呑み込めず、アイラを見上げるが、それから、靖樹にもその顔を向けてみる。
「龍ちゃん、行こう」
「え? でも――あの――なんで――?」
「もう、話が終わったから」
「そうなのか? でも、なんの話か――その――」
いいから――と。
廉に、無理矢理、立たされるような感じで椅子から立ち上がった龍之介は、仕方なく、廉に押されるまま進み出した。
ギデオンも椅子から立ち上がり、テーブルを抜けてこっちに進んでくる。
『ヤスキ、俺はヤスキのこと嫌いじゃないけどよ。仕事のことさえ関わってこなけりゃ、ヤスキも普通の男だしな。でも――俺のオネエサマを、Bitch、って呼ぶなよな。次はぶっ飛ばすぞ、ヤスキ』
それを言い捨てて、微かに睨んでいる靖樹を残し、アイラ達がその喫茶店を後にしていく。
「――さすが、兄弟だ」
喫茶店を後にして、通りを歩き出していく中で、廉がそれを言った。
「家族愛よ」
「さすが、兄弟だ。やっぱり、弟も変わらないんだ」
「俺は、カイリやジェイドじゃないぜ」
「いや、同じだった。さすが、兄弟だ」
嫌そうに顔をしかめるギデオンは、横に顔を背けるようにして、一人、さっさと歩き出してしまう。
さっきから全く事情が呑み込めない、理解できない龍之介は、複雑そうに顔をしかめたまま、その顔を上げて廉を見やる。
そして、その視線を、アイラに、じぃっと、向けもする。
「なんの話? なんだったんだ? 問題? なんで、アイラは怒ってるんだ? 俺に説明してくれよ。俺は、全然、英語が分かんないしさ。なんで? なんだったんだ? 兄弟愛は、なんで?」
「ヤスキのアホはやり過ぎなのよ」
「靖樹さんが――アホ? なんで?」
「話は終わったからいいのよ」
そうやって、すっぱり勝手に締めくくられてしまっても、龍之介には、サッパリ理解できないのである。
それで、自然、じぃっと、恨めしそうにアイラを見やってしまう。
「あの男、仕事が絡むと歯止めがきかないのよねぇ。全く、自己チュウに走るし、人を人とは思わないし、何でも利用するし。利用させてやってるのに、それに感謝もしないで、随分な真似をしてくれるわ。あの男はね、自分がロクデナシだって思い出させないと、すぐに忘れるのよ」
「ロクデナシ……? ――靖樹……さんが?」
「そうよ」
「でも……なんで――?」
「私を利用させてやってるのに、感謝が足りないのよ」
「アイラ――を利用させてやってる? なんで……? ――仕事したからか? それは――そうだけど……」
「龍ちゃんは、深く考える必要はないのよ。変態に追われて、危なかったんでしょう? まあ、龍ちゃんは腕が立つから、そこら辺の心配はいらないんだろうけど。だから、ヤスキもやり過ぎなのよ。度を越してるわね」
「いや――俺は、別に平気だけどさ……。その――でも――」
「いいのよ、深く考えなくて。あのロクデナシも頭が冷めたら、少しは反省するでしょうよ」
「靖樹さんが……反省? ――でも――」
「いいのよ」
そこできっぱりと締めくくられて、事情の判らない龍之介は、あやふやに残されたまま納得もできず。
「さあ、島に戻りましょうよ。せっかくの休みが台無しになるわ」
「そうだけどさ……でも――」
「いいから、いいから」
アイラが龍之介の腕を軽快に引っ張り出していく。
「帰ったら泳ぐわよ。残り少ない日を満喫しなくちゃ。そうでしょう、龍ちゃん?」
「そうだけどさ――」
「だから、遊びまくるわよ。龍ちゃんだって、帰ったら真冬でしょう?」
またもアイラに言いくるめられてしまった感じだったが、もう、それ以上の追及も無駄なようだった。
「そうだよ。北海道は、すごい寒いんだぜ」
「だから、満喫よ、満喫」
「よーしっ!」
なんだかアイラに乗せられて、龍之介も、すっかりホリデー気分に戻っていた。
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