その16-01
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「あっ…………」
今、一瞬、頭がパニック状態に陥った。
それで、パっと、焦って周囲を見渡してみる。
「いない……。えっ……?! マジ……」
どうしよう……。
それが、一番最初に頭に浮かんできたパニックだった。
「いや、待て待て。待て待て。落ち着け、龍之介。ここは、外国。でも、アイラも廉もいるじゃんか。それに、靖樹さんだって……」
だから、龍之介一人だけが、取り残されたわけではない。
ただ――ちょっと、龍之介のすぐ傍には、さっきまで一緒にいたはずの靖樹がいないだけなのである。
「えっ……。俺一人でウロついちゃったかなぁ……」
いや、露店ばかりに注意を引かれたとか、よそ見していたはずじゃなかったのに。
でも、肝心の靖樹の姿も気配も見当たらない。
アイラと廉には、後で合流するから、今は心配する必要はない。
靖樹とはぐれてしまったような龍之介は、今ここで、靖樹を探すべきかどうか迷っている。
ウロウロとうろついたら、余計に、離れ離れになるんじゃないかなぁ……。
迷子――いや、龍之介は迷子ではないはずだ。
ただ、一緒にいた知り合いとはぐれてしまっただけだ。
今じゃ、〇ーグルさんのおかげで、マップがあるから、現在位置くらい簡単に把握できる。
ありがとう、〇ーグルさん。
だから、繰り返して言うが、龍之介は迷子ではない。
「どうしようっか……」
靖樹とはぐれてしまったと、廉に連絡をすべきなのだろうか。
でも――今頃、アイラと廉は、人探しの仕事で忙しいはずだ。
「連絡、すべきなのか……?」
問題があったわけではない。
靖樹だって大人だ。龍之介とはぐれたことで、龍之介を探し始めているかもしれない。
モーニング・マーケットの通りからぼちぼち進みだした龍之介と靖樹は、することもないので、
「じゃあ、そこら辺でも歩くか」
という靖樹の提案を受け入れた。
日曜とあって、観光客がたくさんやって来ていて、ジョージ・タウンの通りは人込みで溢れている。
ジョージ・タウンはストリートを散策するだけも有名らしく、観光客が流れて行く方向を、靖樹と龍之介もついていっただけだったのだ。
だが、気が付いたら、いつの間にか、龍之介は靖樹とはぐれてしまっていたのだ。
道のど真ん中で立ち往生していても、通り過ぎて行く通行人の邪魔になる。
仕方がないので、龍之介は通りの隅っこに移動することにした。
途切れることもない人込みは、龍之介の前でのんびりと通りを進んで行く。
きょろ、きょろと、少し背伸びをして確認しても、靖樹の姿らしき人影も見えない。
どうしようか、困った状況だ……。
こんなことなら、靖樹と電話番号の交換か、またはLIME友にしておけば良かったのだろうか……。
やっぱり、ウロウロしない方がいいよな。
うん、余計に探しづらくなるはずだ。
そう考え、龍之介はしばらく同じ場所で靖樹を待つことにした。
自分の携帯電話を取り出し、マップを開いてみる。
だから、今の現在位置は把握できた。マレーシア語のストリートネームだろうから、発音はできない。
近隣には、結構、レストランもカフェも一杯あって、ホテルもあれば、観光スポットもたくさんあるではないか。
ちらっと、顔を上げてみて、靖樹らしき人物が近くにいないか探してみる。
それで、通りに目を配り、五分程。
あまり収穫がなくて、また、携帯電話へと視線を移す。
マップの上で出ている色々なマークの場所を、一つ押してみた。
レビューのナンバーが高い方からマークを押してみて、その詳細を読んでみる。
ふむふむと、ほんの数分時間を潰しただけだが、すぐに気になってしまって、また顔を上げる。
靖樹の姿はどこにもない。
はあぁ……。
どうしようか……。
携帯電話をいじくって、マップのマークを押しては詳細を読んで、それから顔を上げて靖樹を探して。
そんな繰り返しが三十分ほど続いた。
さすがに、これだけの時間、お互いに離れ離れになってしまったのなら、問題じゃないのだろうか?
「やっぱり、廉に連絡するべきか?」
それに、アイラは靖樹の連絡先を知っているはずだろう。
廉からアイラに、それから、アイラから靖樹に連絡を取ってもらって、落ち合う場所でも決めてもらった方がいいのかもしれない。
『ハロ~』
一人で真剣に悩んでいる龍之介の前に、誰かがやってきた。
顔を上げると、明るい金髪の外人が目の前にいた。
細身で、Tシャツにショーツ、サンダルといった、ここら辺で見かける観光客やらローカルとほとんど同じ格好をしている外人だ。
まだ、若そうで、龍之介が顔を上げると、嬉しそうに、にこっと笑いかけて来た。
『ハロ~』
「あっ……。ハロー」
気さくに声をかけてきた外人に、つい、龍之介も丁寧に挨拶返しをする。
『どうしたの? 迷子?』
「え……? あの……。俺は――えーっと……“アイ・キャント・スピーク・イングリッシュ”」
――で良かったはず?
相手は、うん? と不思議そうな顔をし、それから、パっと、また嬉しそうに顔をする。
「ニホンジン、デスカ?」
「あっ、そ、そうです……。日本語喋れるんですか?」
「チョットダケ」
「あっ、そうなんですか……」
『迷子なの?』
“Lost”の部分だけは聞き取れた。
きっと、“迷子”って聞いてるんだろ?
「ノー、ノー」
それで、手まで一緒に振ってしまう。
『迷子じゃないの? じゃあ、観光? さっきから、ここにずっといるみたいだけど』
今さっき、英語は話せません、って言ったはずなのに。
『じゃあ、一緒に探してあげようか?』
「あの……」
だから、英語は話せません、って言ったはずだ。
困りに困り切っている龍之介は、目の前の相手を無視してトンズラすべきなのだろうか?
性格的に、無視してトンズラ――というのは、したことがない。だから、つい、罪悪感が出てきてしまう。
でも、この外人とお喋りをするつもりもない。
『あっちにさ、僕の友達もいるんだ。一緒に行かない? 一緒に手伝ってあげるよ』
突然、頼んでもいないのに、目の前の外人が龍之介の腕を掴んでいた。
「えっ……? ――あっ、ちょっと――」
反応する前に、ぐいぐいと、外人が龍之介を腕を掴んで引っ張り出した。
「あっ、ちょっと――。何するんですかっ」
『いいから、いいから』
にこっと、笑みを投げて、嫌がる龍之介の腕を放さず、(割と)力強く、ぐいぐいと引っ張っていく。
なんで、この場面で笑顔を投げてくるんだ?!
引っ張られるままに、龍之介もどうしようか考えてしまう。
腕を払うことなど簡単なのだが、それをしてしまって――まさか、無抵抗の人間に暴行! ――などと、大騒ぎされてしまったら……それは大変なことになる。
「どこに行くんですか?!」
日本語で質問しようが、相手には全然理解されていないのだったが、それでも、龍之介は少し抵抗するような態度見せて、腕を引っ張り返した。
『ねえ、少し黙ってよ』
突然――外人が半分だけ龍之介の方を向いて、手にしている小さなナイフを突きつけて来たのだ。
「――えっ……!?」
龍之介の目が飛び跳ねていた。
瞬時で、身の危険を感じ、捕まれている腕をひねるようにして、相手の腕を跳ね返していた。
『いたっ――!』
一歩、後ろに下がった龍之介の反応に、外人の口元が歪み、スッと冷たい目だけが浮かんでいた。
『な~んだ。見かけによらず、強いのかもね』
外人が手にしているナイフは、本当に小さなものだ。手で握っている部分と、刃の部分がちょっと見えるだけの小ささだ。
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