その15-06
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アイラは嫌そうに溜め息をついてみせ、廉の横を――アイラをギデオンから庇っているのだろうが――抜けて、ギデオンの前に立っていく。
『仕事なのよ』
『へえ』
『だから、口出しするんじゃないわ』
『へえ』
『危険はある程度予測済みよ』
『あのまま襲われてたら、どうするつもりだったんだよ。アイラが好きですることに口出しはしないけどよ、それにも限度がある。お前、女だって自覚してるのか?』
『自覚してるから、これを引き受けてるのよ』
『ヤスキもそれ知ってて、アイラに仕事させてるんだな。――だったら、しっかり俺の分は払ってもらおうか』
ギデオンはそれだけを言って、スッと動き出した。
そして、そこでのたれているジョー・ペトロの横に行って、ドカッ――と、またジョー・ペトロを蹴飛ばした。
うぐっ――と、気を失ってるジョー・ペトロだったが、蹴られた反動で、うめき声はその口から漏れていた。
『君の弟は納得したの?』
『さあね。ギデオンは昔から引き際はいいけど、それだけに、手がつけられないのよ』
ふうん、とそんな相槌を返した廉は、ギデオンの横に並ぶようにして、足を進めていく。
『どうして、君がここにいるんだい?』
『あんたらがコソコソ出かけるのを見かけて、一緒についてきたんだよ』
『そうか。君の手は?』
『別に。末っ子だからって、ケンカしないで育ったわけじゃないし。うちのオニイサマが、パンチも教えないような甘ったれ――でもないんで』
『そうか』
『こいつの罪状なんだよ?』
『今の所は、タイに麻薬の持ち込みで見つかって手配されている――だけど。どうかな』
ふうん、と今度はギデオンがそんな相槌を出していた。
『こいつどうするんだ?』
『ここの警察に、まず、引き渡すことになっている。そう話がついているらしいから』
『へえ、手際がいいことで』
『確かにね』
『警察がここに来るのか?』
『連絡をしたら』
『だったら、早く連絡すれよ。こんな裏道でタムロしてたら、次の怪しいのがやってくるぜ』
それを予想して、廉はアイラにその視線を向けた。
アイラは、スッと、胸から小さな携帯を取り出して、手早くナンバーを押し出した。
アイラが電話の相手に説明している間、ギデオンは、また、ジョー・ペトロを、ドカッ――と、蹴飛ばしていた。
『君も、そろそろ、それをやめた方がいいと思うが?』
『なんでだよ』
『傷害で、君も訴えられるだろうから』
『気絶してる男が、俺の顔を覚えてるとは思えないね』
『それは一理あるけど、アイラの立場が悪くなるから、やめた方がいい』
それを言われて、ギデオンはジョー・ペトロを見下ろしていた顔を上げて、廉を見返した。
『なんで?』
『この男は、タイ政府から要請されて、インターポールで手配されている男なんだ。バウンティーみたいなことをしているアイラの立場だと、この男に傷があり過ぎると、余計な問題が上がってくるだろう』
なにしろ、ジョー・ペトリは、出身はオーストラリアだ。
タイなら、死刑にされるのは当然で、マスコミが騒ぎ出したら、博愛主義者がどうの、そう言ったグループがどうので、オーストラリア政府も重たい腰を上げて、擁護に入るかもしれない。
『それで、拉致されて、傷害沙汰の事実まで持ち上げられたら、アイラの立場が悪くなる』
『――それ、説明されてんのか?』
『いや。断片だけの説明だけだよ』
ギデオンは改めて廉を観察するように向き直って、その顔を少し倒しながら、
『あんたさ、見かけに寄らず、随分、鋭い男だな。道理で、ヤスキがあんたをアイラに付ける訳だよな』
『そうかな』
『アイラがあんたを仲間に入れてるのが、その証拠じゃん。ヤスキも隠し事するけど、アイラも隠し事してるだろ。うちのオニイサマ達にバレたら、タダじゃ済まないもんな。それなのに、あんたは仲間に入れてる。あっちのリュウチャンは、一緒じゃなくて、な。あんたさ、アイラが日本にいる時、何やってたんだ?』
『ご飯を食べさせていただけだよ』
その淡々とした返答に、ギデオンは皮肉げに口を歪めてみせた。
『友達――だけど、アイラはかばうんだ。あんたも、変わってる男だなぁ。うちのオニイサマ達を相手に、よくやるぜ』
『それは、ここだけの秘密じゃなかったのかな?』
それで、益々、ギデオンの口元が上がっていた。
『君は、アイラのオニイサマ達には混ざらないんだ』
『なんで? アイラなんかうるさいじゃん。いっつも命令するし』
『それは否定しないけど』
『あんたが見てる嫌がらせなんて、まだまだ、表面をかすったくらいだぜ。知らないだろうから話してやるけどよ、アイラが生まれた時は、うちのオニイサマ達も知恵のついたガキになってたから、兄弟妹でケンカする、ってな状況じゃなかったんだよな』
アイラとすぐ上のジェイドは4つ違い。ジェイドとカイリが2つ違いだから、アイラとは6歳も離れていることになる。
『おまけに、初の妹だから、アイラが生まれてから、もう、ずーっと、あの二人に大事にされてるんだぜ、アイラは。おまけに、兄の欲目があるから、ハタから見ても、生意気で口うるさくて大威張りの女なんか男が相手にしないだろうに、それを知ってて、わざとああやって育て上げたくらいだしな。だから、そんじょそこらの男じゃ、アイラは、到底、相手にできないぜ』
『なるほど。あまりに納得できる話だな』
あのアイラの行動を見ていれば、疑いようのない話である。
『妹が大事――っていうのは、世界的なことだろうし』
『そうか? ショウはミカには優しいみたいだけど、ヤスキがミカをいじめ過ぎたから、その反動で、あのミカの性格に変わったって話だけどな』
『なるほど……』
どちらも両極端で、その例題を、まさにこの目で見ているようだった。
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