その15-04
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『戻って来たわ』
その合図で、廉はアイラの隣に立つようにした。
『Rakan (友)が会うって』
『そう』
『だから、残りの支払いね?』
『わかったわよ』
リュックサックから、もう一つの紙袋を手渡すと、即座にそれを確認した男が、にやり、と口端を大きく上げていく。
『じゃあ、ボクはこれで』
『ちょっと、中にいる奴の顔だって知らないのよ』
『一人しかいないから、ダイジョウブ』
『じゃあ、私のボーイフレンドに見張らせて、確認を終えたら、帰してやるわよ』
若い男がかなり嫌そうに顔をしかめてみせた。
『ここまで来て裏切らないよ』
『口だけじゃ、何とも言えるのよ』
『そういうことで』
廉は、無造作に、男の腕のTシャツを掴み上げる。
『おいっ! なんだよ』
『確認するから』
淡々と言い返されて、若い男が廉を睨み付けるが、廉は態度を変えない。
『なんだよっ。さっさと、確認して来てくれよ』
さっきとは打って変わって、ぶっきらぼうにアイラに言いつけて来た。
今まで、アイラのように、ここまで(しっかりと)確認してきた客はいなかったのだろう。
アイラは店に方に向かい、老婆の横を通り過ぎると、中にはテーブルが三つほど置いてある狭い店内があった。
その一つに、よく日に焼けた男が座っていた。
仲介人の言う通り、お客は一人だけだ。
にやにやと、嫌らしそうな顔を向けて、アイラを舐め回しているような感じだ。
アイラは店内には進まず、また外に出ていた。
こっちを見ている廉に頷いてみせると、廉は掴んでいた男のTシャツを放していた。
『まったく、なんだよっ』
捨て台詞を吐いて、若い男は腹を立てたまま、さっさとその場を歩き去ってしまった。
その男の後ろ姿を追い、男が通りから消え去ると、廉もアイラに合流する。
二人で店内に入っていくと、男がじーっとアイラ達を眺めていた。
派手な柄の半袖シャツに、白いショートパンツ。裸足でサンダル。
金髪にも見えるが、日に焼けて赤くなった髪の毛が、薄い色になっているだけかもしれなかった。
アイラと廉が近寄ってきて、自分の前にある椅子を指さす。
『それで?』
『それはこっちのセリフよ』
アイラの口調に、男の瞳が上がる。そんな強気の態度でやってくるとは、予想もしていなかったのだろう。
だが、すぐに、また、にやにやとアイラを見返し、
『Ratan が、カップルを紹介するって言うんでな』
『へえ。二人揃って、Ratan なの。変な名前』
『まあ、俺は、ジョー、って呼んでいいぜ』
『ニックの言った通りね』
『ああ、ニック君。彼、元気?』
『さあ。知らないわよ、そんなこと』
『でも、ニック君の紹介だろ』
『そうよ』
『どこで会ったのさ?』
『NYのナイトクラブでよ。あそこ――多いのよね』
『へえ』
『でも、本当に――あるんでしょうね。わざわざ、こんな場所までやって来たって言うのに、空振りなんて、訴えてやるから』
『それは困るなあ。それに、そんなことしたら、君達だって、困るだろう?』
アイラは、ふんと、笑い飛ばし、
『さあ、どうかしらね? 無理矢理、誘い込まれて、脅された、って言えば、なんの問題もないじゃない。うちらは、ただの観光客だもんねえ』
確かに、アイラの言う通りだ。
アイラ達は外国人で、観光客で、それで通る立場だ。
無理矢理脅されたと虚言しても、それを証明する人間など他にいない。
対する、ジョー・ペトリには、うるさく警察などに尋問されるわけにはいかない。
嫌そうに眉間を揺らしたジョー・ペトリが、少し真顔になる。
『いいだろう。支払いは?』
『あるわよ。でも、ちゃんとモノを見ない限り、しないわよ』
警戒が強い奴が来たよ~、とはさっきの仲介人からも聞いていた。
だから、アイラの行動が慎重で、警戒しているのだろうと、左程、驚くことではない。
まあ、お互いに慎重なら、バレる可能性は少なくなってくる。
足を掴まれる可能性も、少なくなってくる。
『いいだろう。だが、女一人でだ』
『ふざけないでよ』
『俺は、一人だけしか取り引きしないんでね。特に、男は別だ』
『ニックだってしてたじゃない』
『あいつは、一人でやって来たからな。あんたらは違う。二人組みでいると、調子に乗って、ぼったくるかもしれないからな』
だから、ジョー・ペトリは複数相手の取り引きはしない。
カップルだろうと、女が取り引きをしている間、男の方が何をするか分かったものではない。
金も払わず盗むだけ盗んで、ジョー・ペトリに危害を加えられたんじゃ、笑い話にもならない。
『どうする、オジョーサン?』
『わかったわよ』
『じゃあ、男はこの場所で動くなよ』
『――わかった』
ムッとしたように、廉もただ冷たく言い返すだけだ。
『じゃあ、こっちだ』
ゆっくりと椅子から立ち上がったジョー・ペトリが、アイラに視線を送る。
ムッとした様子を隠さないアイラが、ジョー・ペトリの後についていった。
店を出ていき、来た方向は逆の方向に向かい、ジョー・ペトリがのんびりと歩いていく。
だが、すぐに、後ろを振り返り、廉が尾けてきていないことを確認するのは止めない。
通りを歩いていく度に、ジョー・ペトリは後ろを何度も確認する。
一画を通り過ぎ、曲がり、のんびりと進み、また曲がり。
段々と、混雑した住宅街の奥に入っていったようだった。
廉とは離されて、アイラは一人でジョー・ペトリの後ろを歩いている。
だが、どうせこんなこともあろうと、廉は、今、廉の携帯電話でアイラの携帯電話の居場所を追っている。
靖樹の仕事を引き受けて、昨日、アイラ達は互いの携帯で、GPS探知ソフトをインストールした。
だから、引き離されたとしても、ある程度の場所や位置は掴めるように、その対策はしてあるのだ。
今は、廉はまだ店の中にいる。
ジョー・ペトリが警戒して、廉がアイラを追ってきてしまったら、きっとその場で取り引きはオジャンになってしまうだろうから。
もう、昼を過ぎた時間になってきているはずなのに、向かっている先の住宅街は閑散としていた。
ジョー・ペトリがまた曲道を曲がる。
その狭い横道は家と家の間の隙間なだけで、このままだと、家の裏側に引きずり込まれる可能性が大だ。
また曲がると、そこは完全な行き止まりだった。
それも、四方に民家が連なって、その間にできた隙間だ。
大声を出しても、こんな閑散とした場所なら、誰一人やって来ないだろうし、気づかないことだろう。
アイラは、曲がった先で、すぐに足を止めた。
ジョー・ペトリは気にした風もなく、のんびりとした様相で、アイラに向き直る。
『カバンを地面に置けよ』
『なんでよ』
『武器を所有してないか確認だ』
『そんなの、見れば分るじゃない』
それで、ジョー・ペトリの口元が卑しく曲がる。
『女は、どこにでも武器を隠せるからなあ。嫌ならいいんだぜ』
アイラはジョー・ペトリを睨み付けたまま、自分の抱えているリュックサックを地面に落とす。
『壁に手をついて、後ろを向け』
仕方なく、アイラは両手を壁につけるようにして、立った。
『じゃあ、確認しようか』
ジョー・ペトリがゆっくりとアイラの後ろに寄って来て、その両手をアイラの肩に置いた。
それから、アイラの肩を撫でまわし、今度は、両手の平を押し付けるように腕から、背中へ、腰を掴んで、お尻を撫でまわす。
『いい加減にしてよっ』
『黙ってろよ。大声上げても、誰一人、助け何て来ないぜ。それに、取り引きはいいのかよ』
そう言ってる間にも、ジョー・ペトリは、いやらしく、ベタベタと、アイラの体を撫でまわす。
この男っ!
一発、殴って気絶させても足りないわね。
読んでいただきありがとうございました。
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