その15-01
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靖樹のバカのせいで、今朝は朝早くから行動しなければならなくなってしまった。
フェリー・ターミナルでフェリーを待っている間、そこで売られている軽食を買い込んで、モグモグ、モグモグと、味気のない朝食を済ます全員だ。
「ペナンって場所にはボートが出てる、って言わなかったか? フェリーでも行けるんだな」
「ボートはね、ジェットボートの小型のやつなのよ。だから、観光気分で移動できるのに、今回はフェリーじゃない」
「俺はどっちでも嬉しいぜ」
フェリーと言っても、大型船ではない。ボートよりは大きくて、天板の上に立っていられる場所と、下に15人ほどが座れる椅子があるやつだ。
今回は結構歩くかもしれない、ということで、龍之介も廉も、かなり久しぶりに靴を履いていた。スニーカーで、靴下も履くと、この常夏ではすぐに蒸れてきそうだ。
アイラは髪の毛を後ろで縛り、縛った部分を帽子の止めの部分に通している。今日は、サマ―ドレスでもなく、Tシャツに、膝丈のカプリ、そして、いつもよりはヒールの低い、足首に留め金がすいたサンダルだった。
廉も龍之介も帽子を被っている。
珍しく、あの靖樹も帽子を被っている。
こうなると、4人は観光客に見えるのだろうか?
荷物も最小限にして、観光用にと持ち歩いているリュックサックを背負い、念の為に、一応、お金は2万円ほど持ち歩いている龍之介だ。
アイラからは、そんなにいらないわよ、とは言われているが、一応、念の為。
廉もリュックサックを背負っているようだったが、大した中身が入っていないのか、ほぼ鞄の外形がへこんでいる。
フェリーに乗った一同は、朝の移動とあって、椅子が空いていたのでそこに腰を下ろす。
龍之介はアイラと廉にお願いして、窓側の席で、清々しい海を観覧してエンジョイしている。
廉は確認することがあるのか、フェリーの中では、珍しく、ずっと携帯電話を触っていた。
「龍ちゃん、今日はサンデー・マーケットがあるから、人込みでごった返してるはずよ。リュックは前にぶら下げて持ち歩くのよ」
「おうよ」
人混みの中を進めば、必ず、ごった返している中で、後ろからスリにやられるはずだ、とアイラと廉からの二人に説明をされて、龍之介もちゃんと心構えをしている。
だから、リュックサックは前でぶら下げる方がいいのだ、と。
「龍ちゃん、国際電話かけれるようにしてある?」
「一応な。言われた通り、電話会社に聞いてみて、やってもらったから」
「そう。それなら、何かあったら、すぐに俺に連絡して」
「おうよ。でも、そんなに心配しなくても大丈夫だけどな。アイラと廉だって、気を付けろよ」
「うん、ありがとう。俺は無茶する方じゃないから」
その口調だと――アイラは無茶する方だから、と聞こえなくもない……。
「まずは、先に朝食でも食べましょう」
「え? さっき、フェリー・ターミナルで食べなかったか?」
「あんなの、お腹空き過ぎて、ただ摘まんだだけよ」
「そうなのか?」
「まあ、龍ちゃんはお腹一杯のようだから、ただ見てれば、私が食べ終わるのを」
「いやいや。俺も食べるぜ。このペナンって場所、“マレーシア一のご飯が出る”ってアイラだって言ってだろ」
「その通り。それをミスるなんて、勿体ないじゃない」
例え、その用事が、ボケ靖樹の仕事の手伝いだとしても。
「いや、俺も食べるぜぃ。全然、問題なし」
「じゃあ、決まりね」
ペナンに到着して、ランカヴィ・フェリー・ターミナルから繁華街に向かうのは、それほど遠い距離じゃなかった。
一応、タクシーに乗って向かったが、すぐに混雑した通りが、あちこちに見えてくる。
「ここって、どこなんだ?」
「ジョージ―・タウンよ。ペナンでも有名な観光場所で、至る所にフードマーケットがあって、Flea Marketもあって、ローカルから観光客まで、うじゃうじゃ集まった場所ね。世界遺産にも登録されていたはずよ」
「へえ。フリー・マーケットって、なんでもタダなのか?」
あまりに日本語の発音で「フリー」と出て来て、アイラも――一瞬、そこで理解不能。
「タダ、じゃないわよ」
「え? 今、フリー、って言わなかった?」
「それは、Free でしょ。Flea じゃないわよ」
ああ……。
きっと、アイラは日本人が大の不得意の“r”の発音のことを言っているのだな、とそこで龍之介も理解してしまった。
アイラと龍之介の眼差しが、二人揃って、同時に、廉に向けられる。
廉も少し溜息をついて、
「Flea Market は、日本では何て言うんだろうね。“Flea”は、日本語で、確か、“蚤”のはずだから、そのままで、“ノミ市”かな?」
「ノミ? ――って、ノミ? ――って、ノミ、だよな。あの、ちっちゃい虫のようなもんだろう?」
「そう。その、蚤(」
「ノミ、って……え? 虫売ってんの?」
さすが、龍之介の想像力。
時々、廉でさえも、その想像力にはついていけないものがある。
「いや、そうじゃないよ」
廉とアイラの反応を見て、龍之介がかなり頓珍漢なことを質問している気配は、龍之介も悟った。
自分の携帯電話をポケットから取り出し、ピコピコと、〇ーグルサーチをする。
「――ああ、フリマのことなんだ。じゃあ、テントとか一杯出てて、面白そうだな。フリマって、“蚤の市”って言うんだってさ」
へえ、と廉とアイラもそんな納得をする。
フリマ、ねえ……。
なるほど、カタカナ英語を日本語で略すると、そうなるわけねえ。
誤解が解けたことで、龍之介もホッとする。
「すごいなぁ。そんなにたくさんのマーケットがあるんだ。――あっ、でも、遊びんで来たんじゃないしな……」
今日は、アイラ達のお仕事で付き添ってきただけだ。
「別に、今はそんなの関係ないわよ。おいしいもの、たらふく食べるんだから。その後は別行動だし、龍ちゃんはストリートマーケットでも見てればいいのよ」
「いいのか、俺だけ……?」
「仕事をさっさと終わらせて、私だって買い物するもんね~」
自信満々に言い切るアイラを見て、まあ……それならと、龍之介もお言葉に甘えようかなあ、なんて。
ランカヴィからフェリーで数時間、まだお昼ではないが、お昼近くになり始めている。
それで、通りが混雑してきたのでタクシーを降りた四人は、他の観光客らしき団体と一緒になって、流れるように(押されるように)同じ方向を進んで行く。
すぐに、狭い通りに、所狭しと並んでいるテントが目に入って来て、テントを挟んだ通りは、すでに、人込みでごった返していた。
かなり狭い通りで、それなのに、ものすごい数の観光客などが歩いていて、おまけに、ローカルの自転車乗りだったり、バイク乗りだったり、さすがに、それは無理があるだろう……、とその光景に、龍之介だって苦笑いが漏れてしまう。
「ここはね、Jalan Kuala Kangsar Morning Marketって言って、ペナンでも一番古いマーケットに入るんじゃないかしら?」
「良く知ってるな、アイラ」
「観光に来る予定だから、調べたのよん」
それで、遊ぶ場所をチェックして楽しんでいたのに、バカ靖樹のせいで、観光より先に、くだらない仕事をしに来る羽目になった。
ギロリ、とアイラに睨み付けられても、靖樹は完全無視。
日本の祭りの屋台のようなお店もあるし、雑貨もあるし、お土産屋もある。
そして、聞きしに勝る――輝かしいフードマーケットの数々!
並んでいるお店の料理が、ものすごい量で、ものすごい数で、よだれが止まらない。
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