その14-05
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* * *
「ペナン?」
アイラに呼び出されて、ホテルのバーの方にやって来ていた廉と龍之介の前で、アイラが(あまりに)簡潔な説明をした。
「これから行く場所だろう?」
「そうね」
それで、アイラだって、かなり嫌そうに溜息をついてみせる。
「あのヤスキのバカがね」
「また仕事、っていうわけ?」
昔から、頭が切れて抜け目がないだけに、話が早い廉だ。
「仕事? えっ? また、靖樹さんの――仕事……?! それって、マズイんじゃないのか……?」
わざわざ、アイラに呼び出された状態だったから、何かあったのかな? とは身構えて来た龍之介でも、さすがに、今の話を聞いて、少し顔をしかめてしまっている。
「あのヤスキのバカがね。全く、休暇に来てまで手に負えない男だわ」
「それで、またアイラが協力してやるんだ」
どうも、今回は、廉もこの話に賛成しかねている口調だ。
「もう、あのバカ男、放っておくと、ホント、ロクデモナイことするからね」
「随分、寛大だね。休暇にまで来てるのに」
「まったくよ、もう」
「それで、俺達に何をして欲しいわけ?」
アイラが一人で靖樹の仕事を協力してやるのなら、わざわざ、龍之介と廉を呼び出す必要などなかったはずだ。
それも、いかにも、密談をします、みたいな設定で。
「私の護衛?」
ふうん、と廉は驚いた様子はない。
「龍ちゃんは、別だけどね」
「別なのか? なんで俺だけ?」
「大勢で固まったら、動きが丸見えらしいから。でも、一人きりで残されたら、退屈でしょう? それに、私と一緒にいなかったら、怪しまれるし。それで、ヤスキと一緒で、裏で隠れてるらしいわよ」
その言葉も、どれだけ信憑性があるかどうか分かったものではないが。
「俺は――まあ……、アイラがするって言うなら、反対はしないけど……。でもさ、靖樹さんの仕事って、あんまり――いい仕事、じゃないんだろ? 日本にいた時だって、あんな危ない仕事を女の子にさせてたくらいだし……」
「さあね。今回は人探しだそうだから、それほどでもないんじゃない?」
「そう、かぁ……?」
龍之介だって、その言葉を信用していいのかどうか迷っている。
「別に、二人共ここに残ってればいいじゃない。ホリデーなんだから」
「でもさ……アイラ一人きり、っていうのもなあ。――なあ、そう思わないか、廉……?」
「そうだね」
やはり、一緒に遊びに来ているのに、アイラ一人だけ――危険? な仕事をさせて、万が一にも怪我したら――とは考えてしまう龍之介だ。
「どうせ、ここを発ってペナンに行くんだから、明日じゃなくてもいいじゃない」
「そうだけどさ……」
「まあ、今回は仕方がないね」
それで、廉は簡単に、簡潔に、そう締めくくっていた。
だから、龍之介も、うんうん、と頷いている。
「ヤスキには倍額払わせてやるわ。それで、うーんとおいしいご馳走食べましょうよ」
「そう、かぁ……?」
そこまでしなくてもいいんだけどなぁ……、とは龍之介も遠慮がち。
だが、アイラは絶対許す気はない。
せっかくの休暇中に、あのヤスキのせいでくだらない仕事をさせられるのだから、しーっかりとその支払いはさせてやるつもりだ。
自分達の泊まっているビラに戻り、明日が早いということもあり、龍之介はシャワーを浴びている。
美花は、当初は、アイラと一緒になって遊ぶつもりだったらしいが、アイラは龍之介と廉と毎回出かけてばかりいるので、今は、大抵、他の親戚と一緒に遊んでいるらしい。
だから、部屋の中にはアイラ達が三人だけだった。
『アイラ』
大したテレビも見ていないのに、テレビをつけている場で、廉がアイラを呼んだ。
ソファーにお行儀悪く寝そべっているアイラが、その視線だけを上げる。
『なに?』
『今回の仕事は何だい? 龍ちゃんには聞かせられないような、汚い仕事なんだろう?』
やはり、廉には誤魔化しは効かないようだった。
今回は、三人の旅行の邪魔もされるし、全く無関係の廉がアイラの護衛役までさせられるので、アイラもそこで仕方なく嫌そうな溜息をこぼす。
『タイ政府が賞金を賭けているBounty(バウンティー、賞金首)よ』
その話を聞いて、廉も嫌そうに顔をしかめる。
『罪状は?』
『麻薬密輸犯。インターポールの指名手配犯でもあるわ。捕獲した場合、引き渡しで賞金が出るわ』
『また、君はそんな危ないことに首を突っ込んで』
『仕方がないわ、あのヤスキのせいだもの』
身内とは言え、このアイラなら、嫌なことを押し付けられようが、本人が嫌なら、速攻で断っているはずだ。
それなのに、なぜかは知らないが、またも、あの靖樹の危ない仕事を手伝ってやるらしい。
アイラも一体何を考えているのか。
『だから、俺が護衛役?』
『そうね』
廉はあの事件でも全くの無関係だった。
ただ自分の興味があったから、なんてあまりにくだらない理由でアイラに近づいてきたくせに、結局、事件に巻き込まれても、最後まで、アイラと一緒にいた男だ。
頭が切れて、動じず、いつも、淡々としている割には、嫌な顔せず、アイラの護衛をしていた。
だから、今回も、腕っぷしの強い龍之介ではなく、廉をアイラの護衛役につけさせたのだろう。
あの靖樹は、廉なら、ある程度、咄嗟の判断も可能で、冷静で、怖気づくようなこともないだろう、と知っていたからだ。
『明日、一日で終わらなかった場合はどうするんだい?』
『期限は明日一日だけよ。それで無駄骨に終わったんなら、私には関係ないわ』
『その言葉は、一応、信用しておこうかな』
アイラが嫌そうに廉を睨め付ける。
『わざわざ、ヤスキの為に、残りの休暇を棒に振るわけないじゃない。こっちはね、遊ぶ為にやってきてるのよ』
『でも、明日は?』
『一日だけよ』
『護衛に回される、ということは、またアイラを囮に使うんだ。あの人も懲りないね』
それで、益々嫌そうにアイラが苦虫を潰したような顔をしてみせる。
廉には、靖樹の画策などお見通しなのだ。ほんの少ない情報だけで、すでに、ほとんど説明されない裏の事情も策略も、廉が簡単に予測しているのは明確だ。
『だから、嫌ならいいわよ、って言ってるじゃない』
『嫌とは言ってないよ。ただ、予防対策として、現状把握をしているだけだ』
『よく言うわよ』
『アイラ』
『なによ』
『俺は靖樹さんの親戚でもなければ、義理もなにもない。だから、護衛をするなら、アイラが万が一になる前に、邪魔をするからね。それが最低限の条件だ』
だから、靖樹の仕事がオジャンになろうが廉の知ったことではない、と言い切っている。
『私だって、そこまで肩入れする気はないわよ』
『じゃあ、護衛役をするよ』
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