その14-04
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『出発は、明日の朝7時半のフェリーに乗る。ここは、6時半には発つ』
まだ、身内やら親戚やらが寝ているか、朝起きでも活動していない時間帯なら、勝手に抜け出しても、見つかる可能性は低い。
『この借りは高くつくわよ、ヤスキ』
『だから、1/3だ、って言ってるだろ』
それで、許してもらえると思ったら大間違いだ。
どうせ、アイラなら金をぶら下げれば言うことを聞かせることができる、なんてくだらないことを考えている靖樹の行動を、アイラは全てお見通しである。
『だったら、詳細を寄越しなさいよ。委細漏らさずに、ね』
スッと、靖樹が自分の携帯電話をアイラの方に寄越してきた。
アイラがそれを受け取り、画面にすでに映し出されている情報を読み始める。
ジョー・ペトリ。47歳。現在、独身。
タイを基本として雑貨の輸入業を営み、オーストラリアとタイの行き来が活発。
数年前から、タイより麻薬密輸の疑いで、タイ警察より目をつけられ、監視されていたと言う。
だが、証拠を押さえていない為、泳がされていたが、去年、現行犯で逮捕された。
犯罪人を護送中、脱獄をはかり、その後、タイでは行方不明とされている。
『この写真、当てになるの? 整形してる可能性だってあるじゃない』
『いや。その暇はなかっただろう。逮捕されたのも、去年の夏頃だ。国外逃亡して潜伏している間に整形をしようとも、タイ政府からのお触れで、インターポールの協力が出て近隣に指名手配が出されている』
『それで、整形手術をする場所は押さえられてる、って?』
正規の美容整形などは警察の手が入っていようが、裏で金を積めば何だってする、ブラックマーケットの潜りの医者だっているのに。
『国外逃亡した際に、それほど大金を持って逃げ去る暇もなかっただろうさ。海外に、シークレットマネーを貯めておいたとしても、その現金を取りに戻るのに、高跳びもできやしない』
インターポールからの指名手配所が回されている為、空は押さえられている、という状況らしい。
『賞金はいくらなのよ』
『約250,000 Thai Bhat』
今の所、1タイバーツが、約3.75から4円くらいの価値がある。
そうなると、今回の賞金は90何万円から100万円近くのものすごい高額の賞金だ。
タイの物価など、贅沢にしていなければ、日本の食費で半分以下で済ませることも可能だ。物価が毎年上昇しているとは言え、日本の大都市に比べれば、まだまだ安いほうだ。
それなのに、100万円近い賞金首を出しているなど、よほどの大物か、タイ政府にとっては絶対に見逃せない犯罪者なのだろう。
まあ、タイでは麻薬の密輸や取引は、問答無用の死罪である。
それなのに、西欧からも、南太平洋地区からも、気軽に麻薬が手に入るからと、敢えて、密輸に手を出す白人がかなりいる。
十何年前も、白人の女性が、観光客を偽って、麻薬の密輸をしている所を完全に抑えられ、タイ警察に捕縛されてしまった。
問答無用で死罪だったはずなのに、自国の政府に懇願書を出し、外交人に対し非人道的な処置はひど過ぎる、と人権保護団体やらが大騒ぎしたことで、死罪を免れ、禁固刑で永久に牢獄入りするという判決になった。
確かに、死罪はかなりの極刑に思えるが、それでも、その国の定めた犯罪法を無視して、勝手に好き放題した犯罪者が、よくも、人権保護だと大騒ぎできるものだ。
初めから罪になると承知して危険を冒し、金儲けをしていたのだから。自分一人だけ甘い蜜を吸っておいて、いざ、逮捕されれば、殺さない慈悲をください、なんて、随分、都合が良すぎるのでないか?
人権損害やら人権保護やらと、国がらみで圧力をかけて法を曲げさせるなんて、他国の政策に無関係な国が、口を挟んでくるようなものではないのだろうか。
今回もきっと、その白人の男を捕獲できれば、問答無用で死罪のはずなのだが。
そうなると、犯罪者の方だって、かなりの警戒をして、麻薬を売りさばくはずだろう。
観光客目当て、なんて、見知らぬ人間が近寄ってきて、簡単に売るようには絶対に思えない。
『裏は何よ』
アイラの冷たい眼差しだけが返される。
靖樹は、膝丈のショートパンツのポケットに親指を突っ込んでいるような形で、アイラの冷たい態度を気にもしていない。
『幼児売買。売春婦に貢がせて、金儲け。そのうちの一人が、麻薬中毒で、死体で上がったという話だ』
『下衆野郎ね』
『そう』
要は、女・子供をいたぶる下衆野郎をアイラに相手させるわけだ。
相変わらず、最低な仕事を取って来る男だ。
アイラは携帯電話の情報を読み終わり、それを靖樹に戻していた。
『その詳細、私のイーメールに送っておいて』
『わかった。明日、6時半、ホテルの入り口で集合だ』
ふうん、とアイラは返事をしたようなしないような、そんな相槌だけだ。
それで、靖樹は自分の要件は終えたとばかりに、さっさとその場を立ち去っていく。
『ヤスキ、ホント、あんたはロクデモナイわね』
読んでいただきありがとうございました。
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