その14-03
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『なんなのよ』
不機嫌顔も隠さず、つんけんとした尖った口調で、アイラは後ろのヤシの木に寄りかかりながら腕を組んでいる。
新年の午前中は、昨日酒盛りをしていた二日酔い組みと、祖母の方で晴れ着をご披露した女性陣と分れている。
それでも、今日は全員がホテルでのんびりと過ごしているようだった。
アイラは龍之介と廉を追い出す形で、一人きりで陣取って、大きなバスタブでリラックスしながら、午後からの“美容の日”を楽しんでいた。
日差しに当てられて乾きだしている肌のお手入れや、カサカサ部分もきちんとこすり、そして、これからの旅行を満喫する為に、広いバスタブでのんびりとお風呂に浸かっていたのだ。
それに満足して、自室でマニキュアのお手入れをしていたアイラの元に呼び出しがかかったのだ。
夕方近く呼び出され、どうせロクなことではないな、と踏んでいるアイラは、その不機嫌な顔を隠さず、アイラの前に立っている――靖樹を睨め付けている。
『仕事。1/3で、どうだ?』
アイラの片眉だけが、きれいに上がる。
用件も何も説明しないで、ただ、いきなり、商談を持ち込んでくる靖樹は、いつものことだ。
これも、仕事が1/3の値段、というのではなく、3割の報酬でどうだ? という意味だ。
『ヤスキ、あんた、いい加減にしなさいよね。わざわざホリデーにまでやって来て仕事なんて持ち込むんじゃないわよ』
『暇だから』
それで、することもないから、仕事でもするか、なんて口調だ。
それで、益々、アイラの眉が上げられる。
『それで?』
『Bounty(賞金首)』
アイラの眼差しがこれ以上ないほどに冷たく輝き、靖樹を軽蔑した目で睨め付ける。
『どこのBounty よ』
賞金首など、テレビや映画ではよく出てくる話かもしれないが、そう滅多にあるものじゃない。
アメリカでは、Bounty Hunter も仕事の一つとして存在する。
裁判所での出頭をすっぽかした逃亡者や、警察から追われている犯罪者などを追う仕事をするものはある。
だが、こんなリゾート地にまでやって来て、犯罪人の賞金首など、国際がらみの犯罪以外ありえない。
『タイ政府。インターポール。麻薬密輸犯』
『そいつが、このランカヴィにいるって言うの?』
『情報ではペナンに潜伏しているらしい』
その場所は、これからアイラ達が旅行をしようと計画している場所ではないか。
嫌そうに、アイラの顔が更にしかめられていく。
『なんなのよ、ヤスキ。こんなトコまで来て、また、そんなくだらない仕事なの? いい加減にしなさいよ』
毎回、毎回、代わり映えの無い男ね、とアイラの愚痴が出る。
『マレーシアくんだり、わざわざ、仕事しに来たんじゃないのよ』
『暇だからそのついで』
その言葉がどれだけ真実かどうかは、かなり疑わしいものだ。
この靖樹が休暇中に暇だから、なんて理由で、わざわざ、バウンティー(賞金首)の犯罪者を捕獲しに行くなんて絶対に有り得ない。
むしろ、初めから、マレーシアにやって来るから、そこでできる仕事を持ち込んで来たと聞いても、そっちの話の方が全く驚きはしない。
『それで?』
『ここ数か月、タイ政府の目を盗んでマレーシア入りしたらしい情報が上がってる。ペナンの地元で、観光客目当てに、また売り出してるらしいが』
『だったら、なんでその情報屋に捕まえさせないのよ』
『ただの情報屋』
だから、情報を売っているだけで、犯罪人を捕縛するとかの責任は負わないらしい。
『その情報、どこまで信用できるのよ』
『信用はできる』
日本にいた時もそうだったが、靖樹にはどうやらアイラにも説明していない――裏の繋がりがあるようなのだ。
その男なのか、グループなのか、靖樹の所に不定期に情報が流れてくることがあるのは、アイラも発見していたことだ。
また、その裏のツテからでも流れて来た情報なのだろう。
こんな平和なリゾート地で、おまけに、親戚中が集まっているその場で、またも危ない仕事に首を突っ込みそうな靖樹に、アイラも完全に呆れてものが言えない。
『それで?』
『護衛役に、あいつをつけろよ』
『あいつ?』
『そう。僕ちゃんの方じゃなくて』
まったく!
リゾート地にまで来て、アイラだけではなく、アイラの友人達まで巻き込もうなんて算段している辺り、靖樹は本当にロクデモナイ男だ。
『それで?』
『僕ちゃんの方は、ここに一人で残しておくわけにもいかないだろう。怪しまれるからな。だから、俺と一緒に裏で待機』
へえ、と靖樹の言葉をあまりに信用していない、乾いた、冷たい返答だけが返される。
『ヤスキ、あんた、ハルカ伯母さんに心配かけて、タダで済むと思ってんの?』
『わざわざ話すことじゃないだろ』
だから、一族内でも、全く自分の話をしない傾向が強すぎる靖樹を心配している身内がいるのではないか。
春香伯母さんなんて、普段は、明るくてお茶目な優しい伯母さんだ。
だけど、さすがに、靖樹の行動場所が知れなくて、行方不明になっていた間、春香伯母さんも健也伯父さんも、靖樹の心配で、二人共とても心を痛めていた。
全く、親の心子知らず、とは靖樹を形容しているような言葉ではないか。
『仕方がないわね』
この男は、野放しにしていると、一体、何に首を突っ込むか分かったものではない。
前科があるだけに、アイラだって、野放しで靖樹の好き放題なんてさせていられないのだ。
読んでいただきありがとうございました。
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