その14-02
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「アイラのあの目がな」
「アイラの目? 瞳? なんで?」
「いかにも、「挑発してるの間違いありません」ってな。どうせ、あいつがけしかけて遊んでるだけだろうぜ」
へえぇ、とこれは龍之介からだった。そして、そうなのか、とすぐにその眼差しが廉に向けられる。
「そんなところかな」
相変わらず、廉の返事は淡々として、態度も淡々としているのである。
「なあ、リュウチャン達よ。ここに来てから、結構、毎日、遊びに出かけてんだろ?」
「そうだな。色々、回って見たぞ」
「へえ、それいいな」
「ギデオンはどうしてたんだ?」
「俺はジェイドの付き添いとか」
それで、そのついでに、毎回、ご飯を奢ってもらっていたとか。
退屈になると、久しぶりに会えた“お兄ちゃんs”にねだって、飲みにも連れて行ってもらっている。
観光の方は、適当に誰かの後についていくと、必ず、貧乏なギデオンに同情して、入場券などは買ってくれている親戚だ。
そして、そうやって奢ってもらうのが(大)得意なギデオンは、皆から世話されても嫌な顔一つしないで、ただ、一緒に付いて回っている、ある意味、かなり器用で策略家の弟だった。
それからすぐに料理が運ばれてきた。
暑い常夏のしたで、湯気がホカホカと上がっている熱い料理。
スパイシーではないらしいから、汗が噴き出ることはないかもしれないが、それでも、きっと、暑くて汗がでてしまうだろう。
「これ、皆でシェアしようぜ。色々食べれるから。ダメか?」
「いや、俺はそれでいいぜ」
大抵、アイラと廉と旅行している時は、色々な料理を試したいから、と全員でシェアしていることばかりだ。
余程、一人前の料理でしか食べられないような食事以外は、どのレストランに入っても、「シェアしたいんです~」って頼むと、気軽に小皿など持ってきてくれる。
「これってさ、中華料理なのかな?」
「そうじゃないか? メニューも中国語だったしな」
確かに、漢字らしきものは羅列されていた。
それでも、読むのが大変で、さすがに、龍之介はそこで簡単にギブアップしていた。
でも、オーダーしてもらって運ばれてきた料理は、おいしそうだ。
炒飯っぽいのが一皿、ヌードルの炒めたものが一皿、お肉と野菜が入った炒めものが二皿、その他にサイドで、マレーシア系の揚げた春巻き、手羽先のから揚げ(っぽいの)、それにシュウマイもでてきた。
「ハシもあるみたいだぜ」
「あるのか? ――あっ、でも、中華料理のお箸はツルツルだったから、俺は、今日はフォークで食べるよ」
お箸には慣れていても、中華料理店で出て来たお箸は、長く、丸く、先が尖っていないプラスチックのお箸が多かった。
使えないわけじゃない。
ただ、細かいものを摘まもうとしたら、滑って上手くいかないから、ちょっとは苦手である。
その点、アイラは器用に食べていたなあ。
本人は、慣れよ慣れ、とは言っていたが。
「おっ、結構、上手いな」
「あっ、本当だ。おいしいな」
炒めたヌードルは色が茶色であっさりして見えたが、入っている野菜と一緒に食べるとおいしかった。
炒飯も、サラサラとしたお米の食感が中華料理には合っていて、おいしかった。
「やっぱり、マレーシアってご飯がおいしんだな。どこのお店に入っても、あまり外れがなかったような気がする」
「まあ、そうだろうな。マレーシア料理は、結構、どこでも安定してるしな」
「イギリスやドバイにもあるのか?」
「イギリスにはたくさんな。ドバイには何件かあるけど、そっちは、Arabic 用に、味が少し変わってるかな」
「そっかぁ」
小皿に乗ったサイド料理も全部消えてなくなっていた。
ギデオンはアイラと対張って、食べっぷりも良ければ、自称“成長盛り”で大食いだ。
でも、靖樹も一人で黙々と食事を済ませているが、しっかり皿にある料理はほとんど食べている。
「靖樹さんは二日酔いじゃないんですね」
「あそこまでバカ飲みするのは、あいつらくらいだろ」
バカ飲みしてたんだなぁ……。
一緒に混ざらなくて大正解である。
「お前ら、確か、この旅行が終わっても、まだ旅行するってな話だったけど?」
「あっ、そうです。4日の朝にはここを発ちます」
「それでどこに行くんだ?」
「えーっと、確か、アイラがペナンに行くって言ってました。ご飯がマレーシア一、っていう話なんで」
「まあ、そうだな」
ふうんと、靖樹は特別興味もなさそうなのに、一応、会話はしてくれているらしい。
結局、4人で食べた料理はアッと言う間になくなってしまった。
「なあ、レンくん? 俺はぁ、ビンボー学生で、お金もないんですけど」
支払いを済ませるのにレジにやってきた一行の前で、ギデオンが馴れ馴れしく、廉の肩を組んできて寄りかかるようにする。
「俺は知らないな。そこの靖樹さんに頼めば? 親戚だし」
「ヤスキは身内だけど、俺にはおごってくれそうにもないしぃ。レンくんだったら、少しは、ビンボー学生の俺にも同情してくれるかなぁ、って? ――どうでしょう?」
「俺は知らないな」
澄ました顔で、全くギデオンを相手にしない廉に、ギデオンが、にこっと、笑ってみせる。
「レンくん~、一人でも味方につけてると、後が、結構、楽チンだよ。うちのオニイサマ達はしつこいからね。身内で、一人くらいは味方につけておくと、いいだろう?」
「そうかな。身内とはここでお別れだから、利益はないね」
「そうかなぁ? 友達だって、これからまだ友達でいるだろう? もしかしたら、次に会う機会もあるしさ」
「そうかな。当分はないだろうさ」
ふうん、と全くギデオンの誘いに乗ってくれない廉は、本当に淡々としているのである。
ギデオンは、廉の肩に乗せている腕に寄りかかるようにして、廉の耳元に顔を近づけていく。
『あんたさ、英語話せるだろ? なんで、喋れない振りしてるんだ?』
廉が、少しだけ、ギデオンの方にその視線を向けた。
『アイラと話してるのを耳にしたんだ。今更、とぼけたってダメだぜ』
『別に、隠してるんじゃない』
ギデオンは廉が喋った言葉を聞きながら、じっと、廉を見返した。
『アメリカンか。そいつは――カイリの領域だぜ。住んでるのもアメリカなのか?』
『まあ』
『それは、ご愁傷様。アメリカ広しと言えど、結局は、国内だもんな。カイリのテリトリーだぜ。やっぱな、俺を味方につけておく方がいいと思うぜ、俺はぁ。休みの度に、カイリにやってこられたら嫌だろ?』
まさかそこまでするだろうか――と、疑い深い廉だったのだが、それでも、その場をちょっと想像して、嫌そうにその眉間がつい寄ってしまう。
『なあ? そうだろ? だからさ、俺を一人、味方につけておいた方がいいぜ』
『なんの味方なんだ?』
『うん? 俺が逐一、Mum 達に連絡してやるから、カイリも下手なことはできないだろうぜ。あんたさ、Mum 達に、結構、気に入られてるから』
『そうかな』
『まあな。あのカイリ達を相手にして生き延びてるのは、あんたくらいだろうし、あんたさ、見かけもそうだけど――全然、動じてないよな。あのアイラを相手にしてるくらいだから。Mum にしてみたら、アイラのボーイフレンドができて、大喜びしてるんだろうけど』
『アイラは男には困らないだろう?』
『まあな。でも、兄貴達の前じゃ無理だろうな』
『だから、今はNZだ』
『そうだな。NZでアイラが何してるのかは知らないけど、アイラにボーイフレンドができても、カイリは嫌がらせ程度で、殺したりはしなだろうさ』
随分、危ない方向に話が進んで行って、廉はシーンと無言。
靖樹は自分だけの会計を済ませたようで、さっさとその場をよけた靖樹は、龍之介にも自分で払え――というようなことを話している。
根が真面目なだけに、靖樹に通訳されて、真剣に自分の分の金額を確かめている龍之介を見やりながら、廉はまた少しだけギデオンに向いて、
『仕方ないから、君の分を払ってやる』
『やったねん!』
『君達、姉弟はそっくりだな』
『まあ、仕方ないよな。血が繋がってるし。でも、あんたさ、アイラが日本にいた間、アイラにメシ食わせてたんだろ? ヤスキがそう言ってたぜ』
『毎回、タカってくるんで』
ギデオンはくすっと笑って、
『あんたさ、冷めた顔してるけど、結構、面倒見がいいよな。全然そんな風には見えないけどさ、アイラの体心配してるんだろ? ここに来てからも、アイラに飯食わせてるようだし』
『タカられてるんで』
『タカられてようが、それでも、嫌がらないで、アイラにおごり続けてるんだから、あんたもさ、結構いい奴だよな。だから、俺を味方につけてるといいぜぇ。Mum に、ちゃんと口止めするように言っておいてやるからさ』
『それはどうも』
大した感謝しているような口調ではなかったが、ギデオンは全く気にした様子もなく、また、くすっと、笑ってみせた。
『俺はアイラほどタカりはしないぜ』
『今回だけだから』
『ええ? 次に遊び行く時は? アイラ達に混じって遊びに行くぜ、俺も』
『さあ、知らないな』
「廉、次だぜっ」
自分の会計を無事終えた龍之介は、ほっとしたような顔をして、廉とギデオンを振り返った。
「そうか」
それで、結局、仕方なく、自分の財布から、自分の分とギデオンの分を支払う廉であったのだった。
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