その14-01
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賑わった昨夜の年末パーティーで、新年おめでとう、を終えた一行は、朝を迎えて――ものすごい静かだった。
若い組は、かなり遅くまで飲み明かしていたようで、そこまでのお酒は遠慮したいなあ、と龍之介とアイラ達は、あれから少しして、部屋に戻って来ていた。
それで、新年初めの朝なのに、アイラ達が泊まっている場所の当たりは閑散と静まり返っていた。
これが日本なら、これから、「明けましておめでとう」の挨拶があって、お年玉などももらえて、お節料理の準備がされたりと、結構、朝からでも忙しい。
今回は、全員が寝坊しているようで、ビーチでもほとんど泳ぎに来ている観光客もいない。
あまりに静かな午前中だった。
女性陣は、朝食を終えてから、アイラの祖母の部屋に行っているらしい。
皆で買った振袖を祖母にプレゼントするというので、今頃、女性陣が集まって賑わいをみせていることだろう。
それで、残された男性陣はそれぞれにお正月をのんびりと過ごしている(たぶん、グ~タレ状態)。
『なあ、ヤスキ。腹減った~。なにか食べに行こうぜ』
カウチに、だら~んと寝そべっているギデオンは、朝から暇を持て余して、カウチの端からはみ出ている足を、ぷらんぷらんとさせていた。
『俺は知らね』
対する靖樹は、お正月明けであるというのに、キッチンのカウンターに自分の持ってきたラップトップを開き、何かをしているようである。
ギデオンの兄二人は、他の身内や従兄弟達に混ざって、昨夜は派手な酒盛りをしていた為、今朝はベッドからまだ浮上してきていないのである。
ギデオンも、最初の方は男性陣の酒盛りに参加していたが、長居はせずに、そのまま部屋に一人戻ってきたのである。
『なあ、ヤスキぃ。お腹空いたよ~。なんか食べに行こうぜ』
『一人で行けよ。ホテルに行けば、なんかあるだろ』
『ホテルのご飯も飽きてきたから、どっかローカルのトコ行こうぜ、ヤスキ。離れ島でも、ローカルが食べるトコくらいは開いてるだろうからさ。行こうぜ、ヤスキ』
『お前一人で行けよ。なんで俺を誘うんだ?』
『だって、俺は貧乏学生だもん~』
『お前、アイラにそっくりだな』
『まあ、それは仕方ないよな。あんなうるさいのでも、姉弟だし。――ねえね、ヤスキぃ、ご飯食べに行こうぜ~』
小さな子供が駄々とこねるように、ギデオンが、うるさくカウチの上で足をバタバタさせだした。
『うるさいな、お前。あっちいってやれよ』
やはり、うるさく思っている靖樹は迷惑顔で、しっ、しっ、とギデオンを追い払うようにする。
『ヤスキぃ~、行こうよ、ねぇ。行こうぜ。行きましょう? 行かない? 行こうってばぁ』
バタバタ、バタバタと、その足をバタつかせて、でかい図体の割に、カウチの上で、器用に動き回っているようだった。
『うるさいな。あっち行けよ』
しっ、しっ、と追い払ってはみるが、全く動く様子を見せないギデオンのうるささに閉口して、靖樹は結局自分のノートパソコンを、バチンっ――と、閉める羽目になっていた。
『やったぁ~! さすが、ヤスキ』
『お前、休みの間くらい、俺を一人にさせてくれないのか?』
『いいじゃん、ご飯くらい。それに、暇そうなのも他に誘えばいいし』
『俺は払わないからな』
そこをしっかりと強調する靖樹は、うんざり、と明らかに顔をしかめて、椅子から立ち上がっていく。
それを見て、ギデオンが、スクッと、元気にカウチから起き上がった。
『なあ、きっと、あいつらも暇だから、誘おうぜ』
『あいつら?』
『アイラの友達。どうせ、部屋で暇潰してるだけだろうしさ』
『俺は払わないぜ』
まだ執拗にそこだけを強調する靖樹の横に並んで、ギデオンがその肩に腕を伸ばして行く。
『まあまあ。もしかしたら、おごってもらえるかもしれないだろう? 話はつけてみないとな』
『へえぇ』
大した信用もしていなさそうな相槌を返すヤスキと、身軽に動いているギデオンが、部屋から出て歩き出した。
暑い砂場を通り抜けて、風もなく、日差しだけが強くて、昼前だと言うのに、もう最高潮の暑さに達しているようだった。
『暑いなぁ。さすが、トロピカル』
『お前、暑いからくっつくな』
うんざりと、外に一歩出ただけで、靖樹は一人だれている。
二人が目的の部屋の前までやって来ると、ギデオンは部屋のドアを軽快に叩いていく。
しばらくして、中からドアが開けられて、龍之介が顔を出した。
「あれ? ギデオン。どうしたの?」
「これからご飯食べに行くけど、あんた達も来るか?」
「ご飯? どこに?」
「どっか、ローカルの所。ホテルのご飯は飽きたから」
「ローカルの所? どこ? 歩いて? それとも、タクシーかなんか?」
いつもの質問攻めの龍之介には全く気にした様子もなく、ギデオンは、その質問の一つ一つに、返答を用意しているようだった。
「ローカルのどこか。歩きは暑いから、もちろんタクシーな。タクシーの運転手に聞けば、ローカルの場所でも、いい場所あるかもしれないし」
「そっか。だったら、俺も行く。ちょっと待っててくれな。今、財布、持ってくるから」
「どうぞ、どうぞ。急いでないぜ」
ドアを開けて二人を待たせている龍之介は、タッと、また奥に戻っていく。その後ろ姿も元気で、ギデオンと龍之介の二人だけが、パワーが有り余っている感じだった。
龍之介が廉も一緒に連れて来て、ギデオンは、にこっと、笑んで行く。
「さっ、行こうぜ」
* * *
「暑いのに……熱いお茶なんて、飲めないけどなぁ……」
タクシーの運転手に聞いた、ローカルのチャイニーズの食堂に着いた一行の前で、木だけの何もないテーブルの上に、4人分の湯飲みと、お茶のポットが運ばれてきた。
そして、少し大きめのボールに、なぜかスプーンとフォークが入って、熱いお湯に浸かっているのである。
「水もらおうぜ。俺も、お茶はダメ」
「俺はビール」
靖樹も熱い飲み物は避けるようで、ギデオンがちょっと手を上げて、向こうのウェートレスに合図するようにした。
すぐに、お盆を持ったまだ若い――少女が、テーブルに走ってきた。この食堂の娘なのだろうか。休みの間は、やっぱり手伝いもあるのだろう。
『水も欲しいんだけど、お願いできるかな? それと、ビールが一つね。ヨロシク』
うん、と簡単に頷いた少女は足並み早く、向こうの厨房の方に駆け込んで行った。
「これ――なんで、スプーンとかフォークが、たらいに入ってるんだろ? おまけに、お湯の中に浸かってるし」
「それね、消毒だぜ。なにしろ暑い場所だから、気をつけてないと、簡単に食中毒とか起こすかもしれないからな。その熱湯で、スプーンもフォークも消毒、ってなわけだ」
そうなんだぁ、また新発見をして、龍之介はいたく満足そうだった。
きちんとしたレストランは何度か行ってみたが、そこでは、きれいなテーブルの上に、ナプキンや紙ナプキンが置かれ、その上に磨かれたフォークとナイフが並べられていた。
こういった、ローカルの食堂に来てみたら、全く違う習慣が珍しくて、嬉しくなってしまう。
消毒の為に、お湯のたらいごと出してくるんだなぁ。
「今日は、女性陣はNana の所だから、暇だろ? おまけに、遊べそうな男共は、全員、二日酔いで寝てるしな」
「二日酔いじゃないの?」
「ないぜ。俺はほとんど飲んでないし。リュウちゃん、飲まなかったのか?」
「俺は一杯だけなんだ。そんなに強くないし」
「日本の学生の割に、酒に弱いのか? 日本の学生は、飲むことだけしかしないんじゃないのか?」
はは、と龍之介もそれには笑ってしまって、
「まあ、飲む奴はたくさんいるけどな。俺は――うーん……、ちょっと口つける程度かな」
ふうん、と相槌を返すギデオンは、龍之介の隣の廉にその視線を移していく。
「あんたは? あんたも飲んでないのか?」
「そうだね」
「なんで?」
「別に、それほど興味がないから」
ふうん、と良く判らない相槌をするギデオンは、ちょっとテーブルの上に肘をつくようにして、それで、その上に顔を乗せて、まだ廉を眺めている。
「あんた、アイラにキスしてただろ? 昨日」
廉はそれには答えず、ただその視線だけを動かして、ギデオンを見返す。
「よくやるよな、あんたも。死ぬ気じゃないと、アイラに手なんか出せないよなぁ、ホント。よくやるよ、あんたも」
「君は反対しないんだ」
「俺? 俺は、別に、あのうるさいアイラに構う男は気にしてないぜ。いつまで続くか見物だし。まあ、あんたもよくやるよなぁ」
妙な感心を見せて、他の二人の兄上とは違って、ギデオンはかなり廉に友好的である。
「廉はただの友達だぜ」
「そうだけどよ」
全く、それを信じないのがいるのも、事実なのである。
「あいつらもよ、いい加減、やめればいいのに。全く、熱血しまくりだな」
うんざり、と靖樹は運ばれてきたビールに手を出して、一人、勝手にそれを飲み始めてしまう。
「大体、お前らが男、女がどうの――ってな間柄な訳がないだろうが」
それは初耳――と、龍之介とギデオンが興味深そうに靖樹を見返す。
「なんで?」
「そうそう。なんで? 兄貴達にそれ言ってやりなよ」
「言うか。耳だって貸すはずないだろうが」
「それもそうだけど。でもなんで、男、女の関係じゃないんだ?」
「そんなの、見てりゃ誰でも判るだろうが。こいつら二人、男、女――ってな色気が足りないんだよな。ジャレ合ってるガキ――って言われた方が、まだ納得できるな」
「ジャレ合ってるのは、当たってるかもなぁ」
「そうか?」
うん、と素直に同意する龍之介に、ふうん、とその場を自分で想像してみて考えるギデオンである。
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