その13-06
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「――俺……こんなにキスされたの、人生で……初めて……かも――しれない。……おまけに……誰にキスされたか、最後の方になったら……全然……覚えてないし。いやぁ、すごくて――俺……どうしようかな……。――でも、覚えてないし――その――それで――」
やっと全員から解放されて、かなり遅くなってしまった一行は、部屋に戻って、それぞれにベッドに入っていった。
だが、やんや、やんやと、あの人だまりの中で、あっちこっちと振り回された龍之介は、未だその興奮が収まらず、ベッドの上で座ったまま、はあぁぁ……と、訳の判らない溜め息をこぼしていた。
「おまけに――俺……アイラと……キス、しちゃったよ……」
「そうだね」
「俺は友達なのに、キスしちゃったよ……。でも、アイラだけじゃないけど――」
「でも、挨拶だから」
相変わらず、あまり気にした様子もなく、普段と全く変わらない廉に、龍之介はベッドの上で、廉の方のベッドに向き直った。
「廉もアイラとキスしてた」
「そうだね」
「それも――かなり……濃ゆいやつのような――気が、したけどさ……」
「そうかな」
「そうだぜ。アイラなんか舌入れて――いや……――あの、その――だからさ……。えっと――」
勢いで、あの場の状況をそのまま説明しかけた龍之介だったが、自分が言いかけた言葉を自覚して、かぁぁぁぁ……と、一気に顔が赤らんでしまった。
「いや――あのさ……、廉はアイラとキスしてたから……」
「まあ、そうだけど」
「他の人ともしていたみたいだけどさ――だから、驚きじゃないけど……。でも、アイラと――なんか、濃ゆい系……のキスしていたなぁ、って…」
アイラがからかってしてきたこととは言え、龍之介の言っていることは当たらずしも遠からず――なので、廉もなんとなくそこで黙っている。
「そう言えばさ、廉とアイラって、なんか、いっつもキスしてるんだな。昔もよくしてたよな」
たかが1~2度唇を合わせた程度で、昔からキスしまくっている――との形容など、当てはまりもしないのだが。
それで、廉も、少々、その口端が微かに上がってしまう。
「そんなにしてないけどね」
「そうか? なんか、いっつもしてるだろ? 廉とアイラってさ、いっつも口ゲンカしている割には、結構、仲いいのかもな。なんだかんだ言っても、キスしてるしさ」
「それは挨拶だから」
「そうか? でも、アイラに出会ってからと言うもの、廉なんかアイラに振り回されてるのに、全然、気にしてない感じだしさ。廉がああやって口ゲンカするの、アイラくらいじゃないのか?」
「アイラのあの性格が、ねぇ」
「あの性格が、なに?」
「黙って無視できないと言うか、させないと言うか」
「まあ……その意味も、分からないではないけどさ……」
その半面で、実は分かりすぎるかもしれなかったのだ。
はは、と龍之介も困ったように笑ってしまう。
「でも、廉には刺激があって、丁度いいのかもな」
「どうして? 俺は刺激を要求してないけど」
「でもさ、昔も言ったけど、廉って何にも動じないから、アイラくらいのハチャメチャで、廉を振り回すような女の子じゃないと、つまらないと思うぜ?」
「アイラはハチャメチャに見える?」
「え? 見える……って言うか、いっつもそんな感じだし――でも、それが悪いっていう意味じゃなくて……」
自分の言ったことが悪口に受け取られたのだろうか。龍之介が大慌ててで、それを取り繕ってしまう。
「そういう意味じゃないよ。ただ、どんな風に見えるのかな、って」
「そうか? ――俺は悪口じゃなくてさ……」
「わかってるよ」
「そう? ――いや、そのさ……なんか、注文多いだろ? 人を動かすのも簡単にやるし。でも、不思議だけど、あんまり嫌な感じもないよな、アイラの性格だったら」
「そうかな」
「そうだよ。慣れてきたら、別に平気だし」
「でも、俺は出会ってから、ずっとタカられてるんだけどね」
「そうだけどさ。でも、廉も気にしてないじゃん。気にしてたら――あれ? 気にしてたのか? もしかして、困ってたのか? それは……知らなかったな。それならそうと、言ってくれれば良かったのに。俺がアイラに話してやったんだぜ」
「いや、そうじゃなくて」
親切な龍之介の気遣いは有り難いものだが、廉は自分が困っているからそれを口に出したのではなかったのだ。
「やっぱり、タカられ過ぎたのか……?」
「いや、そうじゃなくて」
なんだか心配そうに廉を見返してくる龍之介を見て、廉も苦笑いをこぼしていた。
「そうじゃなくて、出会ってからずっと、俺だけにタカってくるのは、俺がアイラを断らないって知っているからだろうし、龍ちゃんにそれをしないのは、たぶん、龍ちゃんを気に入ってるからだよ」
「でも、廉も気に入ってるだろ? 友達だし」
「でも、俺の場合は、どうしてもあのイジメ癖というか、絡み癖が治らないようで」
「それは――まあ、アイラの趣味かなぁ。でも、廉も仕返ししてるじゃん? お互い様だよな。二人とも、ケンカするほど仲がいい、って言うじゃんか。なんかさ、廉は高校の時、1年しか一緒じゃなかったから、それほどすげぇ親しくなったていうんじゃないけど、友達になれたし。でも、高校にいる間は、廉は大人っぽくてアイラが来るまで、女の子と言い合ってケンカするなんて、思いもしなかったしさ」
「ケンカじゃないんだけどね」
「まあ、ジャレ合ってるんだろ? それでも、ジャレ合いするような感じにも見えなかったからさ。いっつも、冷静で大人なんだなぁ、って俺は思ってたから、アイラがやって来た時に、廉がアイラと言い合いしてるの見て、俺は、結構、楽しかったぜ。こういう性格だったんだ、って改めて発見した気分だった」
それまでは、ただただ落ち着いた、大人っぽい同級生だ、と思っていたほどだ。
「それから、大学が別になって、別れ別れになったけど、去年、また皆で遊ぶことができて、それで、アイラの私生活も知って、廉も、実はアメリカにいるのが多くて、って。そういうこと、たくさん知り始めたから、俺もなんだか気分いいな」
「そうか」
「離れ離れになったけど、友達だから、ってこうやってクリスマスにも呼んでくれたし、去年も皆で遊んだだろ? こういうのって、仕事とか決まったら、なかなかできないよな。だからさ、普段冷静な廉が、アイラに振り回されてるのを見るのも、今だけだろうなぁ、ってね」
「龍ちゃんはいい子だね。正直で、素直で、アイラの言葉を引用すると、“腐れてない”、だ」
「え? 俺は――そんなこと、ない、けど……」
まさか、廉に褒められるとは思いもよらず、かぁ……と、龍之介の頬が照れたように染まってしまっている。
「俺は外回りが多くて、移動が多かったから、ある程度の知人はできたけど、こうやって友達だから――って、クリスマスとかを一緒にするのは滅多になかったかな。だから、龍ちゃんの言うとおり、こうやって遊べるのも今だけだろうね。龍ちゃんは、友達を大事にするのが上手いな。そして、アイラも」
「そっかな……? ――アイラは――親切に呼んでくれたけどさ」
「そうだね」
「でも――すごい数の親戚だよな。全員にキスされて――これも、俺の生涯の記録の一つになるんだろうなぁ」
はあぁぁぁ……と、また訳の判らない溜め息をこぼす龍之介に、廉も笑っていたのだった。
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