その13-05
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「龍ちゃん、おめでとう~。Happy New Year!」
アイラが龍之介の首に腕を伸ばし、抱きつきながら、龍之介の唇にキスをしてきた。
「えっ?! あの――ちょっと……!!」
かあぁ……と、真っ赤に顔を染めた龍之介は、どう反応してよいのか、その場に硬直してしまっている。
「龍ちゃん、たかがキス一つで硬直してるなんて、男が廃るわよ。しっかりしなさいよ。今夜は全員にキスされるんだから。それでぶっ倒れないでね」
「え?! 全員にキスされる? ――なんで? え? ――いや、その……でも……だって……そんな……アイラにキスされて……俺、キスしちゃった、アイラと……えぇぇぇっ!? ――どうしよっ……だって、俺は……」
「たかが、挨拶じゃない」
「挨拶? ……挨拶って、そんな……いや、そうじゃなくて、挨拶なんて……あの――だって……俺は……」
またしごろもどろに、大焦りをする龍之介を放っておくことにして、アイラは少し横を向く。
「してくれるの?」
「お正月だから特別よ」
「唇がいい」
「嫌よ」
「即答だ」
「当たり前じゃない。私のね、キスは高くつくのよ」
「そうか」
そんな納得したような相槌を返した廉が、スッと、腕を伸ばしアイラの頭の後ろに回して、そのままアイラの頭を引き寄せるようにした。
そして躊躇もなく、アイラにキスをしていく。
それを目の前で目撃してしまった龍之介は、目を飛び出さんばかりの形相っである。おまけに、唖然としたように、ポカンと大きく口を開けて、立ち尽くしていた。
「気安く触らないでよ」
「これくらいはもらわないと、本当に割に合わないな。ここに来てからと言うもの、あらぬ誤解を受けたまま、どこに行くにも監視され、根掘り葉掘り訊問されて、休暇に来た意味がない」
廉はまだアイラの頭を支えたままだった。
だが、ほんの少し動かした視界の向こうに、じぃっと、廉を睨み付けている双眸がある。
そして、背中に感じる、ヒシヒシとした敵意が、棘を刺すように投げられている。
アイラはおもしろそうに口を曲げ、
「まあ、趣味だからねぇ」
「その趣味に付き合わされる身にもなってもらいたいな」
「別に、私には被害はないしぃ」
そう言いながらも、アイラがチラッと向こうに目をやり、そしてその瞳がまた廉に戻された。
少し嫌そうに眉間を寄せた廉は、
「本当に、君は懲りないんだな」
「なんのことよ」
「その目が妖しいんだ。以前から言われているだろう?」
「なんのことよ」
アイラはすっ呆けたままだ。だが、その瞳がいたずらっぽく輝いて、口元に妖しげな微笑が浮かんでいく。
アイラが、スッと、腕を伸ばして廉の頭をゆっくりと抱えていく。
そして、自分の体をピッタリとくっつけるようにして廉を抱き締め、アイラがその唇に自分の唇を重ね出す。
隣の龍之介の口が、顎が外れる勢いで、更にまた大きく開いていた。
またも、龍之介の前で濃厚なキスを見せつけられ、龍之介の頭は爆発状態だったのだ。
「君も懲りないな」
「嫌だったら止めればよかったじゃない」
「うん、まあ、ここまでされたら、もう生きて帰してはくれないだろうから、しっかり払ってもらわないと、本当に割に合わない。それに、君は抱き心地がいいから」
「触らないでよ」
「触ってないだろ?」
その言葉の通り、アイラが勝手にしがみついてきている間も、廉はアイラを抱き返していない。
アイラがキスをしてきた時点で、アイラの頭を押さえていた腕を、スッと、下げているのだ。
「しがみついているのは君の方だ。どうして、そこまで俺に悪さをしたいのかな? そこまで嫌われるようなことをした覚えはないんだが」
「キスされてるんだから、文句言うんじゃないわよ。私に抱きつかれて、これ以上の得はないじゃない」
「でも、次の日は殺されてるだろうから」
「まあ、人生は試練よ、試練」
「試練ね、試練。そのまさに試練を課しにきた本人が、君の後ろにいることを、気がついていないのかな」
それで、アイラが廉にぶら下がったまま、後ろを振り返った。
「いつまでくっついてんだ」
「カイリ、やめなさいよ。お正月なんだから」
「お前は黙ってろ」
無表情で、スッと、アイラを睨み付けたカイリが、アイラの腕を取って、廉の首からそのまま離すようにした。
「レンくんとやら、あれだけ忠告をしたのに、まだよく事情を理解してないようだな」
「してますけどね、こっちの妹さんがね。懲りもせずによくやるもので」
「お前、今回はやる気だな。丁度いい――」
「アイラ、明けましておめでとうっ!」
『アイラ、あめでとうっ!』
突然、アイラの前に、アイラの伯母と母親が割って入ってきて、そこにいるアイラだけでなく、廉やカイリ、龍之介を手早く抱き締めて、ちゅ、ちゅっと、ほっぺたにキスを落として行った。
「アイラ、ニューイヤーよ」
「ハルカ伯母さん、おめでとう~」
「そうよ~、アイラ。新年ね。おめでとう」
『アイラ、ハッピーニューイヤーよ』
『Mum、ハッピーニューイヤー』
「ほらほら、カイリも、おめでとう。こっちの僕もね」
『そうそう。あなたもおめでとうよ』
さっきもほっぺたにキスをし終えたばかりなのに、二人は龍之介と廉を捕まえて、また抱き締めながら、ほっぺたにキスをしていく。
「さあさ、そんな所で固まってないで、みんなの所にいらっしゃいな。もう、新年ですものね、みんなで挨拶しなくちゃ」
「コッチよ、コッチ。ミンナで、イラッシャイ」
アイラの伯母と母親にしっかりと腕組みされて、龍之介と廉が、二人に颯爽と連れて行かれている。
じろっと、カイリがその二人を無言で睨め付けたが、アイラの母親はにこやかに笑って、
『ニューイヤーから、そんな辛気臭い顔しないのよ。さあ、いらっしゃい。みんなでお祝いよ』
そう言って、反対の手で、グイッと、カイリを引っ張って、しっかりとアイラから引き離す。
『アイラもそんな隅っこにいないで、みんなに挨拶でしょう? さあ、いらっしゃい』
左手に廉を、右手にカイリを引き連れて、アイラの母親は、しっかりと、二人を引っ張っていくのである。
その行き際にアイラをちょっとだけ振り返った母親は、軽くアイラにウィンクして、颯爽とその場を去っていく。
「Mum に救われたかしら?」
「アイラったら、アイラのボーイフレンドだからって、あんまり刺激しちゃダメよ。お正月なんだし、何事も揉め事がないようにね」
「伯母さんにも救われたかしら?」
「もう、ダメよ、アイラったら」
ふふと、おかしそうに笑っているアイラの伯母がアイラにも手を伸ばし、アイラがその手を取って、伯母の肩を抱くようにした。
「伯母さん、龍ちゃんねぇ、今夜、みんなにキスされたら卒倒しちゃうかも。ウブなのよ、龍ちゃんは」
「あら、そうなの? でも、日本男児なら、そうかもしれないわよね。――そうでしょう?」
「いえ……あの……いや……その……」
「あの二人はMum に任せて、Nana の所に行こうよ、ハルカ伯母さん。Nana なら、龍ちゃんもショックが少ないだろうし」
「あらあら、そうかしらね。じゃあ、Nana の所に先に行っちゃいましょう?」
うふふと、随分、楽しそうに龍之介を引っ張っていくアイラの伯母と、全く反省の色なしのアイラの二人に囲まれて、未だ茫然自失している龍之介は、あの山のような群の中にどんどんと連れられて行かれたのだった。
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