その13-04
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『アイラ~』
龍之介達は、皆が集まっている広場で、ビーチ側に陣を取っていた。
ビーチベッドを海側に並べ、アイラなどあまりにゆ~ったりと寝そべっているほどだ。
龍之介と廉は、ビーチベッドに座っているだけだ。
その場所にアイラのお母さんがやってきた。お父さんも連れて、だ。――あっ、でも、もう一組、カップルもいる。
全員が全員、自分達用の椅子を抱えている。
うん。
これは、この場に混ざってお喋りする気満々だな。
『アイラ達もあっちに混ざればいいのに』
『ここ、海からの風が少しだけ入って来て気持ちいいのよ』
『ママたちもお邪魔していいかしら?』
『どうぞ』
いいもなにも、全員揃って椅子を(ちゃっかり)持ち込んでいるくせに、ねえ?
いそいそと、アイラのお母さんがビーチチェアを砂浜にちゃんと置き、その隣にお父さんが。
足元の方にはもう一組のカップルが。
「龍ちゃん、ついでに言うけど、ケンヤ伯父さんとハルカ叔母さんよ。ミカのお父さんとお母さん」
「あっ……そうですか。あの、いえ……どうも……」
親切でも――さすがに、龍之介が名前を憶えていなさそうなことがバレバレで、龍之介も反応に困ってしまう。
だが、紹介された二人は、出会った時と変わらずの、にこにこ、と優しい微笑みを浮かべている。
「君たちは、楽しんでいるかな?」
「はいっ、もちろんです」
美花のお父さんで、一番上のお兄さんになる伯父さんは、ゆっくりと日本語で話す。
「昔はね、たくさん日本語の勉強をしたのだけれど、今は、もう、ほとんど使っていないんだ。大半を、忘れて、しまったね」
「いえっ、そんなことありません。とても、上手な日本語です」
うふふと、隣に座っている伯母さんも笑っている。
「わたしもね、覚えてはいるんだけれど、やっぱり、もうほとんど使っていなかったら、錆びついてしまっているわね」
「そんなことないです。皆さん、日本語が上手で、すごく、驚いてます」
「昔はね、子供達が小さかったから、よく日本にも帰ったのだけれど、今はそういう機会も減ってしまったわね。だから、日本人の男の子に会えて、とても嬉しいわ。懐かしいわねえ」
そうか。
その話を聞いて、龍之介も納得していた。
自分達のお父さんは生粋の日本人で、日本で生まれ育った男性だ。海外で生活しているのが長いという話を聞いたが、子供達だって、きっと、お父さんから日本の話をたくさん聞いて育ったことだろう。
ここにいるアイラの伯母さんも日本人で、アイラの一族には日本の関りがたくさんある。
それで、アイラが連れて来た友達が日本人で、珍しく、でも、久しぶりで懐かしくて、皆、日本人に会えて嬉しいわ、と言ってくれていた。
双子のお父さんだって、嬉しそうだった。
こんなことなら――日本から、ちゃんとした日本のお土産でももってくれば良かったな……。
日本に行った人もいれば、いない人もいるだろう。
それでも、皆、日本の繋がりが懐かしく思えたかもしれない。
残念だ。もっと早くに、アイラに事情を聞いておけば良かったな……。
「お正月明けたら、ペナンなのよん」
「あらぁ、いいわねえ」
「ペナン、おいしいもの、一杯あるもの。食べまくるんだから」
「あらぁ、いいわねえぇ」
アイラに自慢されて、嬉しそうに話を聞いているアイラの母親だ。
吸い込まれそうな青の瞳が珍しく、アイラと親子というのも不思議な感じだ。
「アイラは、あまりお母さん似じゃないのかもしれないなぁ」
なんて、そんな独り言を呟く龍之介に、伯母さん以外の三人からキョトンとした顔が返される。
「に?」
「お母さんに?」
『それは、Mum に似てない、っていう意味の「似」よ』
アイラに説明されて、全員が、ああ、と納得する。
「たぶん、「お母さん似」って一まとめで言うと、名刺の準語とか助詞なんかと勘違いされたのかもしれないね。ここで皆が話している日本語を聞く限りでは、文法が正確な日本語に聞こえるから。きちんと動詞が使われてる、とかね」
廉も、アイラの両親や伯父の反応を見て、そんなことを口にした。
「ああ、そうなのかぁ……」
ああ、そっか。そういう表現方法が違っていたのだ。
アイラの親戚でも日本語を話せる人はとても流暢な日本語を話している。
考えてみれば、結構、皆の話し方が丁寧で、主語や述語がきちんとしていたようだったのを、龍之介も思い出していた。
そして、残りの3人が、「お母さん、ニ」と練習をしている。
その光景が微笑ましくて、つい、龍之介もちょっと笑ってしまった。
「あの……、すみません。俺の日本語が、たぶん……簡単になってて……」
「そんなことないよ。勉強になるね」
アイラのお父さんは気にした様子もなく、優しい人だ。
「母親似、って言われたら、わたしも聞き慣れたものだったかもしれないわ。他人の空似、とか昔は言ったことがあるものね」
そこで、アイラの伯母の言葉を聞いて、アイラの父親と伯父が、「タニンノソラニ」とまた繰り返す。
「ああ、うん。それは聞いたことがあるね」
うんうんと、二人は懐かしい言葉を思い出して嬉しそうだ。
自分の大好きな身内の繋がりを忘れるって……、結構、寂しいものなんだろうな、と龍之介も初めてそこで気が付いた。
日本にいるから、日本語が当たり前で、日常で、日本語を忘れてしまう、なんてことは考えたこともない。
でも、アイラの家族や親戚のように、日本を離れ、海外で日本の繋がりを保っていけるのは、少しだけ難しいのかもしれなかった。
年をとるにつれて、日本のことを思い出していても、日常で使用する機会もあまりない。日本食のレストランや、日本のものが売っているお店でも、日本に直接いるのではない。
「あの……、今度、機会がありましたら……、日本のお土産でも、送るんで。その……、よかったら、ですけど」
「そうか。それは、ありがとう。優しいね、リュウチャン」
「いえ、そんなこと、ありません……。俺は、日本から離れたことはないし、海外で生活したこともないので、懐かしいな、って思うこともなくて……」
「ああ、リュウチャンはいい子だね。アイラが話していた通りだ」
「いえ……あの、そんなことは、ありません……」
大人全員に微笑まし気に見つめられ、少し照れてしまった龍之介だった。
* * *
新年に向けて、ビーチ側でも盛大にカウントダウンが始まる。
「除夜の鐘がない新年は、今回で二回目だな」
「私なんか、除夜の鐘がどこでやってるのか知らなくて、わざわざ探しに見に行ったわよ」
「行ったのか?」
「だって、珍しいじゃない」
いや、アイラにとってはそうだよな。
龍之介は、家の中にも聞こえてくるようになったら、玄関先に出て確認はしてみるが、すぐに家の中に入っていた。
探しに行ったことはない。
どうせ、近くのお寺でやってるのだろう、程度だ。
「見つけたのか?」
「そうね。ヤスキに聞いたら、結構離れてる場所だったけど、鐘鳴らしてたわ」
『3』
周囲では全員がカウントダウンに入っていた。
全員で、合唱、である。
『2』
『1』
ああ、もう新年が始まる!
それと同時に、ビーチ側の方で、突然、大きな轟音が鳴り響いた。
そして、大輪の花火が向こう側のビーチの方で打ち上げられたのだ。
うわぁっ!
その場でも、嬉しさで大歓声が上がる。
続けざまに、何発もの花火が打ちあがり、明るい閃光が辺り一面を照らし出していた。
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