その13-02
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『ねえ、リューチャン、休暇は楽しんでいる?』
「あっ、はい……。毎日、満喫しています」
『いつも、ホテルにいないものね』
『毎日、遊びに出かけているの? どんな所回ったの?』
下の二人の妹からは、もうすでに質問攻めだ。
アイラは龍之介と廉に構わず(手助けもせず)、テーブルの上にあるポテトチップスに手を伸ばし、勝手に一人でジュースまで準備している。
『アイラ、ワインもあるよ。今はまだ冷えているからおいしんじゃないかな』
『そうなの? でも、私はいいわ。ご飯を食べまくったあとなら』
クリストファの視線が龍之介と廉に向けられ、
『ワインはどうかな?』
「えっ? あ、あの……俺は、まだ、いいです……」
「俺も、今はジュースでお願いします」
アイラに通訳されて、クリストファは気を悪くもせず、テーブルに乗っているジュースをグラスに注いでくれた。
「ありがとう、ございます」
「ありがとうございます」
二人の返答を聞いて、クリストファが少しだけ瞳を細めるようにした。
『ああ、そうだね。「アリガトウゴザイマシタ」だ』
「えっ?! 日本語喋れるんですか?」
アイラの通訳を聞きながら、クリストファはおかしそうな笑みを口元に浮かべる。
そして、その瞳が優し気に、愛おし気にガブリエラに向けられ、自然な動きでクリストファの手がガブリエルの肩に乗せられた。
『私とクリストファは、二年前に日本に遊びに行ったのよ。初めて、日本に行ったの。その時は、1ヶ月もステイできたから、観光もたくさんしたのよ』
「あっ、そうだったんですか? どちらへ、観光へ?」
『初めはトーキョーで、オーサカ、キョート、それから、ナゴヤとコウベも行ったのよ。「シンカンセン」で回れる所だから』
そして、発音は日本語に近いが英語で、「新幹線」はかなり日本語に近い発音だ。
英語と日本語が混ざって、すごく不思議な感じがする。
『Pop がね、日本の両親にNana を紹介しに行く時に、Nana に日本の「サクラナミキ」を見せたかったからって、春に行ったのよ。だから、私も春に行ってみたかったの。「サクラナミキ」も見たのよ。薄いピンクの桜が舞い散って、とても綺麗だったわぁ……』
「そうですか。日本の桜は有名だと、思いますから」
『ええ、そうね。それでね、キョートでも、伝統的なものをたくさん見たのよ。お寺もたくさん回って。とても楽しかったわ。ねえ、クリストファ』
『そうだね。私も西洋文化以外の文化を見たのは、日本が初めてなんだ。とても興味深いものばかりだった』
うふふ、とあの時の旅行を思い出して、ガブリエルがとても嬉しそうだ。
そして、そのガブリエルを見つめているクリストファの瞳が、もう蕩けそうなほど甘く、ガブリエルにベタ惚れしている様子が誰にでも分かるほどだ。
こういうの、アツアツのカップル……、って言うんだろうな……。
ベタベタしているのでもない。見せびらかしているのでもない。
でも、二人の愛情が親密で、お互いのことをとても大切に思っている気持ちが溢れていて、その愛情を見せる仕草もとても自然で、こっちまで赤面してしまいそうなほどだ……。
『いいわぁ! 私も、お金を貯めて日本に行くわ』
『私もっ。Pop が生まれ育った場所だもの』
そして、賑やかに賛同して来る二人の妹の会話にも、アイラのおじいさんの名前が上がってくる。
全員が全員、おじいさんをとても慕っている様子が明らかで、話を聞いていても、ほっこりとした気分になってくる。
『そうだ。リューチャンとレンに渡すものがあったのよ』
「俺達に、ですか?」
そうよ、と嬉しそうな笑みを浮かべた――確か、二番目の妹さんのはず――が、ゴソゴソと椅子の後ろに置いてる小さなハンドバッグをあさる。
『これなの、これ』
二人の前に出して来たのは紙のようで、テーブルの上に置かれた紙を、一応、龍之介と廉が覗き込んだ。
『これね、これ。一族の家系図を書いてみたの』
「おぉっ! これは、すごいですっ!」
龍之介の素直な反応に、ジェネヴィーヴが嬉しそうだ。
『今回は一族以外の知り合いや友人なんかも来ているでしょう? それで、毎回、名前を覚えるが大変そうだなと思って、家系図を作ってみたの。そうしたら、ものすごい大大喜びされてね。リューチャンとレンにも作ってみたの』
「あっ、ありがとうございます。すごい、助かりますっ! 実は、誰が誰だが分からなくて、どうしようかと困っていたものでして」
素直(過ぎる)龍之介は、さっさと、自分の過ちをバラしまくりだ。
それがおかしくて、全員がクスクスと笑っている。
だが、もらった家系図を覗き込んでいる龍之介には、やっと、アイラの周囲で毎回出てくる親戚の名前と位置づけが視界で確認出来て、大喜びだったのだ。
名前と顔を覚えても、親戚関係がおぼろげで、あっちの兄弟で、妹で、叔母で、伯父で、と言われても、どれがどれだが分からない。
それで、失礼にならないように――間違えないように、実は、極力、知らない名前は呼ばないようにしていた龍之介だったのだ。
このことをこっそり廉に話したら、廉も苦笑をみせていたが、
「俺達は日本人で英語を喋ってないから、英語だと、あまり直接名前を呼ばなくても、大丈夫なんじゃないかな? 「皆さん」とか、そういう風に読んでいたら、アイラがそうやって通訳してくれてただろう?」
その通りである。
アイラの通訳のおかげで、名前が思い出せない龍之介でも、一応、普通に会話ができたことだ。
そうか。
アイラ、感謝するぜ(今更だけど)。
「おじいさんが、ゲンジさんって言うのか。おばあさんが、ミア? さん?」
「そうよ」
そうかぁ、と甚く感激して、龍之介は祖父母から連なっている線をたどってみる。
「お父さんが5人兄弟姉妹って言ってたもんな。――ああ、双子の叔父さんが、血が繋がってたんだな。それで、皆さんが、アイラのお父さんの妹――アンさん? ああ、なるほど」
そして、ガブリエルの場所からは、ちゃんと恋人のクリストファに線が繋がって、“恋人”と書かれているところが、可愛らしい。
『「オジイサンガ、ゲンジサン。オバアサンガ、ミアサン」。ああ、なるほど』
クリストファの呟きに、龍之介も目を丸くする。
「あのっ、さっきも思いましたけど、日本語の発音、すごい上手ですね! すごいですっ」
竜之介の反応に、クリストファがおかしそうにクスクスと笑う。
『日本語の発音は、ガブリエルの家族からも教わったんだよ』
「そうだったんですか。いやぁ、とても上手な発音だったので、驚きました」
『そうか。それを聞いて、私も嬉しく思うよ』
物腰が穏やかで、大人の色気を醸し出し、それでいて、優しくて紳士で、こういう人を“貴公子”って言うんだろうなあ、なんて龍之介も感心している。
なにしろ、龍之介の周りにはいなかったタイプの男性なのだ。
それからは、このリゾート地にやって来てからの観光話に盛り上がり、それぞれどこに行ったか情報交換して、龍之介達もトライした場所や、していなかった森林浴をした従姉達の話やなんやらで、すぐに時間が過ぎてしまった。
以外に、晩御飯の時間になるまで、アッと言う間に時間が過ぎてしまっていたことを、気が付いていなかった龍之介だ。
ホテルのスタッフや給仕係が用意してくれたバーベーキューの匂いが、こっちまで流れて来て、鼻を刺激する。
それぞれにお腹が空いてきたので、やはり、焼きあがったこのこんがりとしたいい匂い~。バーベキューが始まると、その前に列ができあがっていた。
読んでいただきありがとうございました。
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