その12-03
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『あんた、やっぱり英語喋れたんだな』
廉が少しだけ双子に向く。
じーっと、双子の両方が廉を見ていた。
『道理で、あんたの反応がリュウチャンとは違うと思ったぜ』
『英語喋る奴らを前におどおどしてないしさ。いつも淡々と動揺もしてない』
『ああ、これはいつものことよ。表情筋がなかなか動かないんだもん、レンは』
『ひどいな』
『それに、大したことで動じないし、驚きもしないし、あまりに淡々とし過ぎるのを地で行く男なのよ』
『ひどいな』
毎回、あまりの言われ様だ。
だが、アイラのせいでなのか、廉のせいでなのか、勝手に話が逸らされてしまい、双子が皮肉気に口を曲げてみせる。
『まあ、カイリ達には言わない方がいいだろうな』
『英語の分からない日本人、って気取ってた振りした方が無事だろうしな』
『振りはしていないよ』
廉は、一度として、英語を話せないと口にした覚えはない。
ただ、英語を話せるとも、話していないだけだ。
廉の屁理屈に、双子を口元を歪めている。
『それにしても、淡々としてる見かけに反して、あんた、随分、好戦的だな』
『煽ってどうするんだよ。こんな場所で揉め事起こす気だったのか?』
『いや。あっちのガードマンが警戒していたから、揉め事になったら、すぐに飛んできたことだろう』
それで、双子が後ろの方を向いてみると、Duty Free(免税)のお店のガードマンらしき二人が、まだずっと、こちらを警戒したように伺っていたのだ。
なるほど。廉はガードマンにあの下衆共を押さえつけさせる算段だったようである。
淡々としている割に、好戦的で、ああいった場でも尻込みもせず、おまけに、次の作戦を簡単に立てていたなど、随分、侮れない男だ。
まあ、一族でも有名なあのアイラの兄弟達を相手に、毎回、毎回、のらりくらりと、無言と暗黙のプレッシャーや威圧感の攻撃を交わし、怯みもしない男だから、そんじょそこらの男ではできない芸当だろうが。
『ここのリゾート地、結構、観光客が落ち着いてると思ってたけど、違ったみたいだな』
『ニューイヤーだから、変なのがくるんでしょ。お正月休みの間に』
ふーん、と双子の返事はそんなものだ。
「おおいっ。みんな、もう買い物終わったのか?」
にこやかな笑顔を見せながら、龍之介が駆け寄って来た。
全員の視線が龍之介に、ただ無言で向けられる。
「なんだ?」
「いや。リュウチャンよ、あんたは平和だなあ」
「そうそう。あんたは、それでいいよな」
「え? 突然、なんだよ? どうしたんだ?」
そして、全く状況を理解していない龍之介を前に、平和を感じる全員だったのだ。
龍之介はお土産用の雑貨や小物を買ったらしく、紙袋を手にさげてご機嫌だ。
「ねえ、お昼にはまだ早すぎるわよね。ここら辺で観光? ――なにあったっけ?」
それですぐに、マイケルが自分の携帯で素早く何かを打ち込んで行く。
「Under Water World があるぜ」
「ああ、それね」
確か、アイラがランカヴィ・アイランドの観光をチェックしていた時に、見たような記憶があった。
でも~、普通の水族館だったような? 時間つぶし程度にはなるだろうけど。
「それって水に関係あるやつか?」
「水族館」
「ああ、そうなんだ。近いならそっちに行ってもいいぜ」
「普通っぽく見えたわ」
だから、今はそれほど興味が沸かない施設だ。
「俺はそれでもいいけどな」
マレーシアに来て水族館に行った、と新たな話題ができる。普通っぽくても、外国の水族館だ。
「それでもいいけど――あとランカヴィでしていないメインの観光って、Dataran Lang よねえ。写真撮るだけの場所だけど。それこそ、観光スポット! 感じじゃない?」
「ダタラン? なんとかって、何だ?」
「Eagle Square よ。大きなワシが飾ってあるの。観光スポットで写真撮るなら、有名でしょうねえ」
「へえ。それもいいな」
「でも、ここからちょっと遠いのよね。それで、わざわざあっちまで回りたくないから、今までは行ってなかったんだけど」
「どのくらいだ?」
「ミック?」
さっきの携帯でサーチをすでに上げていたので、仕方なく、またミックが確認する。
「車で40分くらい」
「そうなんだ。少し距離があるけど、大したことないぜ」
その程度の移動は、結構、東京でも頻繁だった。
札幌に移動してからは地下鉄が早いので、遠出以外は、そこまで時間をかけることはなくなったが。
「でも、まあ、行き帰りで1時間ちょっとなら、またこっちに戻って来た辺りでランチになりそうね」
「その場所に行ったら、お店とかないのか?」
「また違うDuty Free のお店があったはずよ」
「いや、免税店は、もういいかな」
「でも、あんまり目立ったレストランとかなかったような気がするわ。ランチ食べるなら、ここら辺の方が探しやすいわよ」
「そうなんだ」
ふーん、と頭の中でドライブにかかる時間を計算し、写真だけでも観光スポットかあ?
「俺は行ってみたいかな? 廉もマイケルもウィリアムもどうする? 遠いからやめて、水族館にするか?」
「することはないから、どっちでもいいけどね」
「俺もついてくだけだから」
「そうそう」
あんまり両方に固執していないような残りの三人だ。
それで、アイラが勝手に決めてしまう。
「よしっ。やっぱり、観光スポットだから写真だけ撮って帰ろう。全員写真も撮りましょうよ」
「いいぜ」
「それなら、さっきのシャトル型のタクシー掴まえないとね」
「電話した方が早いだろ」
「じゃあ、して」
それで、またもマイケルが予約役だ。
まあ、この中で携帯でのサーチが一番早いのはマイケルだ。
それで、予約係もマイケルになってしまう。
少し待ち時間があったが、白いバンがやってきた。今日は5人なので、ホテルから出る時もシャトル型とアイラは言っていたバンだ。
40分程のドライブは暇なので、アイラは今まで撮った写真を見せびらかす。
結構、龍之介が知らない写真もあって、龍之介もアイラの携帯を覗いて楽しんでいる。
後ろに座った双子は、椅子越しからお行儀悪く、アイラの携帯を覗き込んでいた。
それで、やはり、廉は一番前の助手席だ。こうなると、大抵、廉がタクシー代を払わされる羽目になる。
「いいじゃない。年末だもん。そのくらい」
年末じゃない時も、廉はアイラにいつもタカられている。
龍之介は、大抵、廉に悪くて、半分出すぜ……と言ってくれるが、廉はそこまで気にしているわけではない。
ただ、アイラが毎回タカって来るので、アイラに(だけは)文句をこぼすことを忘れないようにしているだけだ。
それに、元々、廉が本気で嫌がっているのなら、アイラだって無理に押し付けて来ないことは知っている。
だから、廉がアイラに(だけは)文句を言おうが、廉が本気で嫌がっていたり、怒っていないことを知っているアイラだけに、結局、また機会がある度に廉にタカってるのだった。
読んでいただきありがとうございました。
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