その10-04
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会計の際は、やはり、アイラとギデオンにせがまれて、二人分のディナー代を出してあげる優しいお兄ちゃんだった。
『ごちそうさまん~』
ちゅっと、アイラがジェイドの頬っぺたにキスをする。
『見てよ。すごい食べちゃったわ』
ポンポンと、ふらふわのスカートの上からでも、アイラはお腹を叩いてみせる。
『まあ、しっかり食べたんなら、それでいい』
『食べたよん~』
それで、アイラは仲良さそうにジェイドと腕を組んで歩き出す。
「仲いいよな」
「普段はあんなもんじゃないぜ」
「そうそう」
後ろから双子が口を挟んでくる。
「そうなのか?」
「そうそう」
「構い過ぎ」
「一族で有名だからな」
どちらがどっちだか判明がつかない龍之介は、今回は、名前を呼ばないことにした……。
本当に、帽子を被ると、この双子。見分けがつかない……。
「でも、このリゾート地にやってきてから、仲いい感じに見えるけどな」
「仲は悪くないぜ」
「そうそう。うるさいだけ」
「暑苦しいだけ」
「そうか……?」
「そう」
「そう」
そして、更にどっちがどっちだか分らなくなる龍之介だ。
これ、絶対に、二人から龍之介はからかわれていること間違いなし。
「まあ、今回は久しぶりだから、くっついても気にしてないんだろ」
「そうそう」
「気にするのか?」
「暑苦しいから」
「うざいから」
いや……、そこまでひどい形容をすることはないのでは?
「まっ、でも、かなり久しぶりだから」
「そうそう」
「それって、どのくらい久しぶりだったんだ? ――そう言えば、親戚がうるさいからニュージーランドに行った、ってアイラも言ってたな」
「まあ、うるさいわな」
「止めてくれないし」
「そうなんだ」
「アイラは17の時に高校卒業してるから、それからずっと」
「17歳?! そんなに若くから? まだ高校生じゃんか」
「いや、俺らんとこも、17歳で卒業できるぜ。本人次第」
「へえ、そうなのか?! それはすごいなぁ……。でも、日本じゃまだ高校生の年なのに、単身で海外に留学するなんてな。すごいなぁ」
龍之介だったら、そんな簡単に留学を決めれないかもしれないのに。
「まだそんな若さで、身内も友達もいない場所で留学なんてな、すごいなぁ」
「まあ、アイラは昔から行動力だけはあるから」
「有言実行タイプ」
「ああ、それはすごく分かる気がする」
あっ、とそこで龍之介は大事なことを思い出した。
「なんだよ、リュウチャン」
「今思い出したけど、ありがとな」
「は?」
「なにを?」
突然、突拍子もなく龍之介が礼を述べるので、双子も素直に不思議がっている。
「いやさ、俺が英語喋れないから、俺がいる時、みんな日本語使ってくれてるだろ? 日本語、ペラペラと喋れてすごいな。それに、俺に気遣ってくれてありがとさん。こうやって、アイラの親戚と話してるとすごい楽しいな」
なんだか理由は判らなかったが、双子から揃って溜息をつかれてしまった。
「リュウチャンよ。あんた、ホント、いい奴だなあ」
「いい奴過ぎて、心配になって来るぜ」
「そうか?」
「そうそう」
「そうそう」
だが、双子は気分よさげに、そして気軽に、龍之介の肩をポンポンと叩いてくる。
「リュウチャンよ、明日も遊ぶんなら、俺達も一緒に参加するぜ」
「そうか? それは楽しみだな」
「まだまだ遊び足りないからな」
「いや、まだ、これから遊びまくるけど。その為に貯金してきたくらいだし」
「おう、その遊びにも付き合うぜ」
なんだか、更なる遊び相手が増えて、まだまだこの休暇は面白くなりそうだ。
* * *
それで、今日一日もかなり満喫した一行がビラに戻り、明日のアドベンチャーの話をしたら、やはり、若い組みのほとんど全員が参加する意向をみせていた。
ものすごい数で、それでも、ただビーチで寝っころがっているだけなのは暇なのも龍之介は判っている。
それだけに、ウォータースポーツの提案は、全員が参加するのも不思議はなかった。
「なに、何人なのよ。仕方ないわね」
結局は、美花が仕切ってくれるようで、夕食を終えた美花がフロントデスクでアドベンチャー会社に電話をして、明日の予約をしてくれてるようだった。
「明日はうちらが一日中貸し切りだから、朝9時からでて、1時間おきで交代よ。暇なら、お弁当でも持って、近くのビーチで遊んでれば?」
ものすごい人数の若い子供達を呼び集めただけではなく、年配組みも全員集めたようで、その中央で美花がテキパキと指示を出していく。
「ついでに、ウォータースポーツの激しいアクティビティに参加しないのには、一日島回りコースのボートツアー頼んでおいたわよ」
あらぁ! ――と、年配組みからも嬉しそうな声が上がっていた。
やはり、暇なものは暇なのである。
「そっちは名前が必要だから、私にちゃんと申し込んできてよね。支払いはお店でよ。出発は9時だから、30分前には待合い場所に行ってること。詳細はこっちの紙にあるから、それ読んでおいてよ」
ごっそりと、紙の――パンフレットのような山を手前にいた叔父に手渡して、まずは、年配組みの遊びも片付いていた。
「今の所、ジェットスキー。一人用と二人用。子供なら、大人と一緒。ボナナビート、クレイジー・ドルナツ、サファー・ライド、パラセイリングだけにしておいたから。どれやりたいのか、ちゃんと書いておいてね。それで、グループを適当に振り分けるから、後で時間割りを確認してよね。朝一番が嫌なら、今のうちに言いなさいよ。あとで文句を言ってきても聞かないから」
若い組みからは、おかしそうに笑いが上がっていた。
それで、ゾロゾロと自分達の部屋に戻っていく全員がパンフレットを片手に、明日の予定を立てながら、楽しそうにお喋りがはずんでいる。
「――50リンゲですか? 本当に?!」
「そうよ。わざわざねぎってやったんだから、感謝してよね」
自分の部屋に戻って、美花からさらに明日の説明を聞いていた龍之介が、はあぁ……と、本当に素直に感心している。
「それは、ありがとうございます。でも、たしか、パラセイリングは130リンゲだったはずなのに……」
「だから、ねぎってやったじゃない。私のおかげなんだからね。感謝しなさいよ」
「はい、します。本当に、すごいです。でも、どうやってやったんですか?」
あまりに素直に感心する龍之介に、美花がおもしろそうに、ゆっくりと微笑を浮かべていく。
「龍ちゃん、その程度もできなくちゃ、私の名も廃るでしょうが。それに、うちらの人数で押しかけたら一日中貸切よ。おまけに、ボートのクルーザーまで予約してやったんだから、たかが、ディスカウントした程度で儲けが落ちるはずもないじゃない。むしろ、こんなゴソッと押しかけられて、ほくほくしてるのはあっちの方じゃない」
「ミカに丸め込まれたのよ。ミカの十八番だもんね」
「へえぇ、そうなんだ」
「うるさいわね。――だからねぇ、龍ちゃん、感謝しなさいよ。リゾートにやってきて、ここまで遊ばせてやってるでしょう? もう、“美花様”って呼ばなきゃねぇ」
「わかりました。そう呼びます。いやぁ、本当にすごいです。50リンゲなんて、半額以下だし。俺もビックリです。いやぁ、本当にすごいんだなぁ。美花さんって――そうじゃなくて、美花様ですか? すごいですよねぇ」
からかわられて言われたのに、それを大真面目に受け取って、素直に感心している龍之介には、毒気も抜かれてしまうものだ。
「いやぁ、本当にありがとうございます。俺は、こんな安いアドベンチャーも初めてです」
「まあ、龍ちゃんはいい子だから、値切り甲斐もあるってもんよねぇ」
なんだか、からかう気も失せて、美花の方だって呆れているようだった。
「いやぁ、本当にすごいですっ! どうもありがとうございました」
「いいわよ。もう、その感謝だけで」
あまりに素直過ぎて、からかうにもからかえないのだから、美花もお手上げだ。
読んでいただきありがとうございました。
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