その9-06
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「リュウチャンよ、やっぱり日本人なんだな」
「あ、このピースサイン? 去年、アイラかも指摘されたんだ。日本人は、ピースサインが好きだよね、って。つい、癖でな。写真を撮る時は、やっぱり、ピースしないとなんだか気分が乗らない感じだろ?」
「そうか? 俺達は、そういうのやったことないけどな。次からは、俺もやってみようかな」
気軽に話かけてくるギデオンは、龍之介の反応を見ながら、なんだかとても楽しそうだ。
「やっぱり、本物の日本人に会うと、日本の習慣とか見れるんだな」
「そうか?」
「面白いぜ」
「俺は、みんなが――えっと……俺の為に日本語話してくれてるから、すごい助かってるし、ありがとう。英語、苦手だから……」
「そうなんだ。でも、こっちのレンは、龍ちゃんみたくピースサインしてないけどな」
「廉は、こう、大人っぽいから、しないのかなぁ?」
いや、ピースサインと大人っぽさはあまり関連性がない。
『じゃあ、一人ずつロープを外していくから、端から、まず、ゆっくり前に進んでみて』
『OK』
ロープを引き寄せながら、ジェットスキーから外したインストラクターが、ジェイドの乗っているジェットスキーの先を足で少し蹴飛ばすようにした。
向きが変わり、ジェイドが問題なくジェットスキーで前に進んで行く。
『全員出るから、もう少し前に進んで待ってて』
次のロープを引っ張りながら、インストラクターがジェイドに向かって声を張り上げる。
ジェイドもインストラクターの声が聞こえているようで、全員がいるボートからかなり距離を取った場所で自分のジェットスキーを止めていた。
双子達も進んで行き、アイラと廉も出発し、龍之介とギデオンもジェットスキーを前に進みだす。
「うわぁぁぁっ! ジェットスキー初めてだっ」
北海道に行って、雪まつりなどの会場でスノーモービルも乗れる機会があるが、去年は真冬にニュージーランドに遊びに行って、その機会を見逃してしまった。
今回も、真冬の北海道から常夏のマレーシアのリゾート地に休暇だ。
だから、龍之介は未だにスノーモービルに挑戦したことがない。
今回のジェットスキーが、実は、龍之介にとって自動車以外で初めてのモービル運転だった。
「ねえねえ、うちらは、グルリって外回りするけど、そっちはどうするの?」
「俺達は勝手に行くけど」
「適当に回るから」
双子は別行動。競争はしてはいけません――とは言われたけれど、なんだか、いたずらっ子のように目を輝かせているこの二人なら、スピードを押さえてはいても、なんだか、二人で競争しそうな雰囲気だ。
「俺は一緒でいいぜ」
「俺も一緒でいい」
アイラの兄弟達は、アイラと龍之介達と一緒に行動するようだ。
それで、双子がさっさとジェットボートでその場を去っていく。
「よしっ。うちらも行こうかっ」
「おうっ」
アイラが先に進んで行くとジェイドもジェットスキーを進めだす。
『ねえ、ジェイド。後で、小島近くに行ったら、龍ちゃんと一緒の写真撮ってよね。Mum に見せるから~』
『いいよ』
『ああぁ、少し風が当たって気持ちいいぃ~』
ジェットボートを運転しながら、その快適なスピードで顔に当たる風が冷たく気持ちいいものだ。
『こうしてると、リゾート地に来た気分になる』
『そうねん~』
前を進んでいる二人の会話はあまり理解できないが、声だけはなんとなく耳に届いてくる。
「ああ、水が透き通ってる~。飛び込んだら面白そうなのになぁ」
運転しながら、龍之介も顔を覗かせて水面から海面を覗き込む。
小さな魚が泳いでいるのも、一瞬だけ見えた。透き通るほどの青い海は、日差しをキラキラと反射し、サンゴの混じった海面がとてもきれいだ。
アイラと龍之介達はのんび~りとジェットスキーを満喫しながら、ぐる~りと沖を一周する形で、ジェットスキーを運転している。
「ほら? 写真撮るぞ」
アイラがライフジャケットの中にしまい込んでいた携帯電話を取り上げ、ジェイドが角度を決める。
「イエーイっ!」
「よし、俺もやるぞ」
龍之介に習って、ギデオンも両手でピースサインを出していた。
「よく、携帯なんて持ってこれたんだな」
海に落ちたり、水に濡れてしまう恐れがあるから、携帯電話は置いておきましょう、と最初に言われていた。
注意はされなかった。
「せっかくなのに、写真が撮れないじゃない」
「そうだけどな」
でも、ライフジャケットの下で、ちゃんと携帯電話を押し込んでいたアイラには驚きだ。
おまけに、ジップロックみたいなプラスチックの袋まで用意していたなんて。
「なんで、袋まであるんだ? わざわざ用意してきたのか? あれ? でも、今日は、昼食べてからウォータースポーツするって決めたし。それなのに、袋も用意してきたのか?」
相変わらず、考えもせずに口からポンポン、ポンポンと質問が飛び出てくる龍之介にアイラも呆れ顔。
「ウォータースポーツがどうのは置いておいても、一応、水遊びできるように水着着て来たじゃない」
「そうだけどな。だったら、なんでビニール袋まであるんだ?」
「ああ、それは、バッグの中にウェットシートを入れてるから、それを抜き取って、今は携帯を入れて来たのよ」
「ウェットシート? なんで?」
「暑いんだから、汗を拭くときとか便利じゃない。ハンカチなんて役に立たないのよ」
「あっ、そっか。それなら、俺もすれば良かった」
今までは、汗はただ手で拭っていた状態だ。
ウェットシートなど、考えもしなかったことだ。
「スーッとスッキリ用を買ったから、一瞬だけ涼しくなっていいわよ」
「それなら、俺もすれば良かったなあ。日本じゃ、男性用の汗拭きシートもあるのに」
「あれ? そんなの、確か、あったわね」
コンビニで毎回買い食いしていたアイラは、近くの棚にそんなものが置いてあったのを思い出す。
「まっ、龍ちゃんが欲しいなら、スーパーでも買いに行けば? さっきの商店ではなかったけどね」
「その機会があったらな」
特別、急いで買い足すものでもないし、手で汗を拭きとってるくらいは問題ではない。
そんなこんなで、30分のジェットスキー運転もアッと言う間に終わってしまった。
さっき撮ってくれた写真を確認しに事務所に戻ってくると、ちゃんと観光地らしく、紙の写真立てに入った引き伸ばされた写真が受付においてある。
「やっぱり、観光地に来ると、この手の写真が出てくるわよねえ」
「確かにな。でも、記念になるから、俺は買うぜぃ」
「私だって買うわよ。レンも買いなさいよ」
「いや、そこまで写真にこだわってないし」
去年も、自分の写真にあまり興味を示さなかった廉は、去年と同じように、今年もまた、アイラにしっかりと指示されている。
「お金に困ってるんじゃないんだから、買いなさいよ、写真の一枚、二枚くらい」
「その後スキャンするから、元の写真はあまり必要ないんだ」
「でも、スキャンした写真なんて送ってやんないわよ」
だから、自分で買いなさいね、としっかりと言いつけられる。
でも、せっかく観光に来て、皆が揃って写っている写真なのだから、記念には丁度いい。
全員がそれぞれに写真を買っていくので、お店側もまた売り上げが上がってホクホク顔。
「ああぁ、楽しかったなぁ!」
「そうね。悪くなかったわ」
ああ、今回の休暇も最高、である!
読んでいただきありがとうございました。
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