その9-02
この作品はフィクションですので、本文に出てくる企業・店名・商品名などは実在の名前ではありません。トレードマークなどでは、文字伏せなどもしてあります。
地名や料理名は一般的で商品名でなければ、そのまま使用しています。
変に褒められて、龍之介も恥ずかしくなってしまった。
「あっ、ごめん、なさい……。いや、つい、癖で……」
「いや、気にしてないぜ。リュウチャン、考えもしないでそこまで質問が飛んでくるのは、中々、できる芸当じゃないぜ」
あまり……褒められているような気がしないなぁ……。
「俺は今は両親と一緒に住んでるから、ドバイにいるんだ。来年からはイギリスの大学行くんで、イギリスに移るけどな」
「ドバイ? ドバイって――あのドバイ? アラビアの近くの?」
「そうそう。そのドバイ」
「えっ? じゃあ、アイラってドバイから来たの?」
「そうよ。高校卒業してからはニュージーランドだけど。だから、言ったじゃない。うちは色々なのよ、って」
「いや、そうだけどさ……。アイラがドバイ出身だったんだぁ……。それで、ギデオンもドバイ出身で、でも、カイリさんはアメリカで、ジェイドさんはイギリスで――すごいなぁ! 一家そろって、多国籍家族だ!」
「ついでに言うけど、私はマレーシア生まれよ」
「ええっ!? アイラがマレーシア生まれ!? どうして? ドバイ出身じゃなかったのか? でも、マレーシア生まれならどうして英語喋れるんだ?」
「生まれた場所はマレーシアだけど、その後すぐに、父の出張で違う国に行ったのよ。英語なんて、誰でも喋れるじゃない。うちの両親だって、元をただせばイギリス人とアメリカ人なんだから」
「いや、そうだけど……。あの……そうだけどさ……。そうかあ……、アイラって生まれも育ちも多国籍なんだ。すごいなあぁ……」
「生まれも育ちも多国籍、ってわけじゃないわよ。ただ、色々なのよん」
「でも、すごいなあぁ……」
初めて知るアイラの家庭事情を聞いて、龍之介も素直に感心している。
龍之介は生粋の日本人で、生粋の日本人家系で、家庭で――家柄――でもある。
「俺、こんなにたくさん違った国の人と会うなんて、人生初めてだ。すごすぎっ!」
一人で本気で興奮している龍之介には、全員が可笑しそうに笑っていた。
それからすぐに料理が運ばれてきて、テーブルの上は皿でいっぱいに埋め尽くされる。
「おお、すごい量を頼んだんだな」
「当然じゃない。食べまくるわよ。なんの為に、休暇にやってきたと思うのよ」
「食べまくるんだろ? 遊びまくるんだろ?」
「その通りよん!」
そして、やはり、龍之介とアイラの意気込みは最高潮!
前菜系では、Satay、Popiah、Fried chicken、Roti chanai (roll thinly)。
ヌードル系で、Mee (Noodles) goreng (deep stir-fried)、Char (Stir-fried) kuey teow (flat rice noodles, flat strips)、Hokkien mee。
カレーなどでMalay Fish Curry、Beef rendang、Nasi lemak。
ご飯ものがNasi (Malay rice) goreng、Hainanese chicken rice。
トマト系の料理がSambal udang (Shrimp)、Ayam (Chicken) masak (cook) merah (red)。
どれもおいし過ぎっ!
全員がお腹が空いていたので、次々に、色々な料理を皿の上に乗せていく。
「ねえね、ご飯食べたら、何する? せっかくビーチまで来たんだから、ウォータースポーツもしたいわよね」
「ウォータースポーツかぁ……。いいなあ」
もう、なんでも楽しそうだ。龍之介なら何でも挑戦する気である。
アイラはその間も、モグモグ、モグモグ、と朝食の時に負けない勢いで――ボリュームで、ものすごい量のご飯を平らげている。
一応、ビーチで泳ぐことになってもいいようにと、実は、全員、洋服の下に水着をちゃんと着ているのだ!
常夏のリゾート地。周りは、目に染みるほどの輝いた雲一つない青空の下、白い砂浜が続き、そして、その強い日差しを反射するほどのきれいなブルーオーシャン。
龍之介なら、ただビーチから海に飛び込むだけでも、全然問題なし。
「ちょっと確認しなくちゃ」
「アイラ、行儀が悪いだろう? 食べ終わってからにしろ」
さすが、お兄ちゃん。ちゃんと行儀の躾はしっかりするらしい。
「気になっちゃうんだもんね。大丈夫よ。もう、お皿の半分以上は食べたもの」
そして、自分の携帯で検索しながら、アイラは鼻歌を歌いそうな勢いでご機嫌だ。
「あら、色々あるわぁ」
そして、その口元に満足そうな笑みが浮かんでいく。
「やっぱり、全部挑戦してみるべきよねえ」
「もちろんっ!」
輝かしいほどの真っ青な海の景色。暑い常夏のウォータースポーツ。
どれもこれも、全部面白そうっ!
この休暇を最大限に満喫する為に、夏から始めたバイト代は全部貯めてきた。
それで、マレーシアに友達に会いに旅行に行くと話したら、両親からも親切に、「じゃあ、お土産代くらいにしてね」などと、少しおこづいかいも貰った。
来る前だって、何度も、何度も、ツアーガイドのサイトを確認したり、旅行した人のブログも読んだりした。
どれもこれも、皆、大満足のホリデー(“ヴァケーション”とは言いません。英語なので、米語ではないもので)をしたと絶賛だった。
全力で遊びにやってきたのだから、全部やっぱりやらねば!
「よし。ここのお店にしましょう?」
アイラが自分の携帯を龍之介に見せるようにする。
「なんでだ? 他にも色々あるだろ? さっき歩いている時にも、それらしき看板がたくさん見えたしさ」
「ジェットボートの値段で比べたら、ここが一番安い値段だったから。他にも、〇Rodeo もあるし、Kayak もあるし、Parasailing もあるし、Diving もあるわよ」
「へえぇ。それは面白そうだな。でも、〇ロデオってなんだ?」
「ボナナビート、クレイジー・ドルナツ、サファー・ライドって書いてあるわよ。ほら? この写真見てみなさいよ」
急かされてパンフレットを覗き込んだ龍之介の視界の前に、随分面白そうなボート式の写真が一杯乗っている。
おおぉっ! と龍之介の目がキラキラと輝いていく。
「じゃあさ、インフォメーションセンターで予約してもらうのか?」
去年、アイラの住んでいるニュージーランドに遊びに行った時、大抵、インフォメーションセンターで遊びの予約をしてもらっていた。
アイラ曰く、お迎えが簡単で、大抵、インフォメーションセンターでディスカウントが利くからだ、ということで。
「今日は違うわよ。このお店に直接行くの」
「え? そうなのか? インフォメーションセンターで予約してもらうと、大抵、割引してくれるんじゃないのか?」
「そうね。でも、今回は前回とは違うじゃない」
「なにがだ?」
ふふ、と妙に不敵で、なんだか意味深な微笑がアイラの口元に浮かぶ。
「じゃあ、アイラに任せようか」
「えっ? なにをだ?」
「この手の顔をしている時は、なにか企んでいる時に違いないから、そういう時はアイラに任せた方が簡単だろうし」
「企んでなるなんて、なによ」
「じゃあ、ディスカウントできる考えがあるだろうから、アイラに任せようか」
「全然、感謝している感じに聞こえないわ」
「それは、ディスカウントが決まったらするよ」
「なによ、それ」
はは、と龍之介がおかしそうに笑う。
「じゃあさ、ディスカウントできるかもしれないなら、アイラに任せるけど、俺はこの日の為にたくさん貯金してきたから、正規の値段でもいいんだぜ」
「まあ、龍ちゃんはいい子だからそういうのちゃんと払うのよね。誰かさんと違って」
「俺は一度も支払いを踏み倒したことはないけどね」
「レンのだけディスカウントなんてしないわよ」
「それは単純に差別だ」
べっ、とアイラが軽く舌を出す。
相変わらずの二人で、ははは、と龍之介も可笑しそうに笑っている。
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