その8-02
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「じゃあ、皆で行くんだ」
「そうね。あの二人、ホント、暑苦しいんだけどね」
「いいじゃん。あの二人も暇だろうし。人数がいた方がおもしろいぜ」
「そうかしら」
「そうだよ。それに、アイラの親戚ってたくさんいるから、話聞いてるだけでもおもしろいよな」
「なんで? なんの話よ」
「なんの――って、色々だよ。喋ってたら、結構、色々出てくるじゃん。双子がシンガポールの学校に行ったとかさ、アイラの昔がこうで、とかさ。アイラの弟とちょっと喋ったけど、兄弟がああで、とかさ」
「そんなことなら、私に聞けばいいじゃない」
「そうだけどさ。でも、いざ質問しようかな、とか考えると、あんまり質問も出てこないよ。親戚が喋ってる合間だったら、ポン、ポン、って話題が勝手に上がってくるしな」
「ああ、そう」
「そうだぜ」
ふうん、とよく納得したようなしないような相槌を出して、食事を終えたアイラがやっと椅子から立ち上がった。
それで、龍之介と廉も立ち上がっていく。
「どれくらい持って行ったらいいかな」
「そんなに買い物するんじゃないけど、日本円でなら1~2万円分くらいでいいんじゃないの? それでも十分過ぎるけど、龍ちゃんなら、お土産とかで、念の為、ね」
「そうだな」
3人はゆっくりとホテルを出て、海岸沿いを歩きながら部屋に戻り出していく。
「あの二人も来るなら、やっぱりジェイドも呼ぶか」
「ジェイドさん? なんで?」
「カイリはボートの運転手役に選ばれたから、1日中ボートでしょうよ」
「ああ、そうなんだ。それも――ちょっと悲惨だなぁ」
「別に、いいのよ。海は好きだから、ボートに乗ってて満喫してるでしょうよ。それに、暇だから魚釣りでもするって言ってたし」
「こんな所で魚なんか釣れるのかな?」
「さあね」
「でも、なんでジェイドさん?」
「いいのよ。それに、荷物持ちに役立つし」
自分の兄をコキ使う予定で呼び出すつもりであるアイラに、龍之介は、はは、と笑いかけたのだが、なんだかちょっとその口が引きつっていた。
「そう言えば、アイラのお兄さんって、何してるんだ? 仕事してるんだろ?」
「そうね。でも、どっちの話?」
「カイリさん」
「カイリは、マリーンよ」
「マリーン?」
「それ、本当?」
廉が口を挟んできて、アイラはその口をわざとらしく上げてみせながら、廉の方を見やる。
「なんで? カイリがマリーンだと問題なわけ?」
「問題じゃないけど――、そんな強面の人がいるんだからな」
「なんで? マリーンって何だ?」
「なに?」
アイラも廉にそれを聞き返していた。要は、日本語は何だ、と聞いているのである。
「アメリカ海軍の水兵のことだよ」
「海軍なのか?! ――それは――すげぇ……かも。道理で、腕が立ちそうだと思ったはずだ」
「龍ちゃんがそう思ったの?」
「思った――って言うかさ、何て言うか……。まあ――なんか、腕が立つだろうなぁ……とは思ったけど……」
へえ、それは知らなかった――と、アイラが変な所で感心している。
「じゃあ、カイリさんは軍隊にいるんだ」
「まあ、そういうことになるわね。軍隊はArmy だから別だけど」
「アーミーって?」
「陸軍のことだよ」
「ああ、なるほど。――でも、すごいなぁ。海軍に入ってる人だったのか。すごいなぁ……」
「そう? カイリの趣味よ」
へえ……と、龍之介の返事はあやふやである。
趣味で、訓練の厳しい海軍に志願するなど、普通ではしないことだろう――と考えてしまうのは、廉だけなのだろうか。
迫力があるだけでなく、腕も立って、そんな厄介な男がすぐ周囲にいるというのは、本当に災難なことである。
* * *
「なんで、ギデオンまでついて来るのよ」
「なんで? 俺だって暇なんだぜ」
暑いのに、なんだか大きな体で兄のジェイドの首にぶらさがっているようにも見えないではないが、アイラの祖父母の部屋に双子を迎えに来たら、アイラに呼ばれてやってきたジェイドの横にギデオンもいたのだ。
「だったら、一人で行けばいいじゃない」
「なんでぇ? ウィルとミックだって行くのに、なんで俺だけ除け者? おまけに、ジェイドだって呼んでるじゃん」
ぷぅ、と子供みたいに膨れて文句を言う弟を、アイラは少し目を細くして、じぃっと軽く睨んでいる。
「末っ子だからって、そうやってれば、すぐに言うこと聞いてくれると思ったら、大間違いよ」
「なんだよ、冷たいな。俺だって暇なんだぜ。なんで、俺だけ除け者なんだよ。他の奴らは一緒に行くのに」
「私はね、あんたのお菓子代を払いに、遥々、マレーシアまで来たんじゃないのよ」
「ええ? だって、俺はビンボーだし。アイラに払えって、言ってないだろうが」
今回はアイラだけではなく、他にもたくさん期待できそうなのがいるのである。
ジェイドが軽く溜め息をこぼし、
「お前、イギリスでも、毎回、俺にたかってるだろう? なんで、ここまで来て、俺にたかるんだよ」
「だってぇ、俺はビンボーだし。ビンボー学生に金出せ、って言わないよな。オニイチャンだろ? アイラだけ、いーっつもひいきしてぇ、ずるいなぁ」
ぷぅ、ぷぅ、とまだジェイドにぶら下がっているようなギデオンが、頬を膨らませている。
それでまた、ジェイドが諦めたような溜め息をこぼしていた。
『まあま、みんなで行ってくるの? 気をつけてね』
くすくすと、その場の光景を見ながら、笑って送り出してくれたアイラの祖母に、皆が元気に挨拶をして、ビラを後にしていた。
「タクシー、もう来てるはずだぜ。早くしろよ」
互いに柄の違う、色の違うTシャツを着て、膝丈のショートパンツを履いている双子だったが、後ろ姿だけでも双子とすぐに判るほど、ウィリアムとマイケルは相似した双子だった。
髪の色が違わなければ、ほとんど見分けなどつかないのではないだろうか。
ホテルの入り口にやってきた一行の前には、二台のタクシーが待っていた。
運転手は車の中で待っていたが、この炎天下なら、エンジンを止めずにクーラーをかけて、中にいる方が一番だろう。
「ジェイドはこっちに乗れよ」
双子に先にそれを指示されて、ジェイドはただ静かにその双子を見返す。
「ギデオンがこっちに乗ったら、ジェイドいないとダメじゃん」
「そうそう。ちゃんと、タクシー代払わないとな」
「お前達二人とも、どうせ今回だって、気前のいいおじいちゃんから、お小遣いもらっているんだろう? それはどうしたんだ?」
二人はにこっと笑って、
「だって、それは俺のお小遣いだし」
「俺の買い物代だし」
「だから、ギデオンのは別だろう?」
「オニイチャンなのに、差別はダメだぜ、ジェイド」
ジェイドはただその静かな視線を双子に向けたまま、微かに嫌そうにまた溜め息をこぼしていた。
「なんだよ。皆して、ビンボーを差別するなんて、いけないなぁ。ジェイドなんか仕事してるだろう? 給料もらってるんだから、それくらいどってことないじゃん」
なんだか、子供達3人揃ってジェイドを丸め込むので、溜め息をこぼしながら、結局、ジェイドは、双子とギデオンが乗り込む方のタクシーに乗り込んでいったのだった。
それで、いつものように、龍之介と廉とアイラの3人が一緒にタクシーに乗り込んで行く。
「なあ、アイラの弟って、いくつだ?」
先を走る双子が乗ったタクシーの後について動き出したタクシーの中で、龍之介がそんなことを聞いた。
龍之介とアイラだけが後ろに座って、廉は前のシートに座っている。
「18歳よ」
「へぇ。だったら、ジェイドさんは?」
「ジェイドは25歳。カイリは27歳よ」
「そうなんだ。6つ違いなんだな。カイリさんとギデオンだったら、九つも違うじゃん」
「そうね。だから、ギデオンが子供のうちに、他の皆がおっきくなってたわ」
「まあ、そうだろうな。末っ子だけど、アイラの一族でも一番下なんだ」
「そうね。甘えるのが超お得意よね」
「それは姉弟揃って言えることじゃないの?」
前に座っている廉が後ろを振り返るのでもないが、淡々と、そんなことを口にした。
もちろん、アイラがその廉を睨め付ける。
「なによ」
だが、前に座っている廉は知らん顔である。
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